第37話
「颯太さんとはどうなの?」
「うん。まあまあかな。最近は出張が多くて、あまり連絡取れてないかな」
「出張?」
「うん。海外とかに行ってるみたいで」
「凄いね」
「それでね」と笙子が言いかけた時、携帯が鳴った。
「ごめん。ちょっと外に出てくる」と、慌ただしく店の入り口の方へと姿を消した。
暫く手持無沙汰するように、箸で料理をつついていると、隣に座っているグループ話し声が耳に入ってきた。聞かないようにしようと思っても、気になり始めると、まるで周りの雑音が消えてしまったようにハッキリと聞こえてくる。
「それでね、相手の彼女は何もわかってないのよね」
「そうだよね。だいたい、あんなダサい子が、彼の彼女っていうのだけでもあり得ないのに、それを独り占めってね」
「だから私たちが、彼を覚醒させてあげたんじゃない」
「まあね」
「でも健吾、初めは凄く恥ずかしそうにセックスするから、なんだか初々しい気持ちになったわ」
「ああ、わかる。でも健吾の彼女、間抜けよね。私たちが仕込んだテクで抱かれてるんでしょ? 本当に間抜けよね」
「いいんじゃない? だって彼の彼女なんだから」
「でもなんで健吾、あんなダサいのと付き合ってるのかな? 絶対に別れないっていうし」
「まあ、好みはそれぞれだからね。そのうち目が覚めるかもしれないし、もう少し放っておいたらいいんじゃない?」
「そうだね」
「それに私たちだけじゃないみたいだしね」
「そう言えば少し前、パチから出てくるとを見たのよね。隣にけばいババアが纏わりついてた。あれはちょっと引いたわ」
「ふうん……学内でもそうとう遊んでるみたいだし、彼女、ざまあみろだわ」
「本当、馬鹿だわ。親が会社してるらしいけど、あれじゃあねえ」
「そうそう」
真奈美は石になったように動けなかった。同名の健吾という人の話だ、自分とは関係ないと思いつつも、耳は声を拾ってしまう。そしてどう考えても、自分たちのことだと、思えざる得ない。
グラスを持ったままの手は、冷たいという感覚があるのに吸盤のようにへばりついて離れない。頭は電気ショックを与えられたように痺れていた。
「真奈美。真奈美?」
笙子が携帯を手に戻ってきた。体を揺さぶられながら、ゆっくりと首だけを回した。
「どうしたの? 顔色が悪いよ?」
「――」
「真奈美?」
その時、真奈美のバックの中から、着信音が聞こえてきた。
「携帯、鳴ってるけど?」
「あ、う、うん」
体が宙に浮いているような感覚だった。携帯には颯太の名前が出ている。どうして彼はいつも、自分が処理できない感情を持った時に連絡をくれるのだろうか。真奈美は目の奥が熱くなるのを感じながら、電話を切った。
「切っちゃったの?」
「あ、うん……笙子。悪いんだけど、気分がすごく悪くて……帰るね」
「うん。その方がいいよ。また今度改めて、ご飯食べよう」
「うん」
真奈美は大目にお金を渡して嬉しそうな顔をしている笙子に気がつかず、店を足早に後にした。
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