第11話

 2人は暫く無言になった。

 壱が、先に口を開く。

「成、俺の事…愛しているって言ってくれないなあ……、さっき自分から意見を言ってこなかったって言ってたよな、俺が成の希望を先回りしてたから、思い通りだったはずだ」


「あぁ、言われ見ればそうか、……ありがとう」


「別にお礼を言われたくてじゃない」


「このまま続けても平行線だよね、同じ話の繰り返しだよ、こんなに離れて生活しているんだ。

 壱も引きこもりしないで、仕事したら?

 和井さんに迷惑かけているんだろう?」


「俺の音に影響が出ているからと言われた」


「だから引きこもり…」


「成、俺どうしたらいい?」


「僕の仕事を認めて欲しい」


「嫌だ」


「じゃあ、少し離れよう」


「嫌だ」


「この2か月離れていただろう、その延長だよ」


「心が違う」


 いきなり目と目があって、一瞬僕は慌てた。


「それは壱の問題だ、僕は小さい頃から僕であって僕じゃない、自分でも何を言っているのかわからないけど、大人になりたい。

 思い通りに、自分でやりたい」


「…、」


「壱に告白された小5の時、もし愛ちゃんだったとしても断らなかったと思う。

 小さく幼い僕を2人とも僕の手を引っ張って僕が居心地の良いように世話をしてくれた。

 感謝している」


「4-5歳で成と出会い、成以外なにもいらないとずっと思ってきた、俺に飽きたのか?なんで愛が出てくる関係ないだろう」


「わからない…、対等になりたいのかなあ?

 愛ちゃんにも世話になっている」


「対等って、……対等のつもりだった」


「そうかな、全て金銭的に援助してもらって対等ではないよ」


 並んで座って、時おり目を合わせたり、壱は顎の髭を触ったり僕は下を向いたり、行動も会話も同じような繰り返しだった。


「仕事部屋に引きこもって、食事はどうしてたの?」


「和井さんが適当に買い出しに…」


「一緒に住んでいるの?あの部屋狭いよね」


「あっ、言ってないけど、引っ越したんだ」


「一緒に住んでいるんだ。…そうか引っ越したんだね」


 やっぱり愛ちゃんの言っていた事は本当だった。気持ちがグッと沈んだ。


「一緒に寝るわけじゃない、仕事で遅くなる時が多いからそうなった」


 壱が和井さんとも一緒に寝ている事は知っている。2人の関係は詳しく知らないが、もし和井さんが壱を好きなら、壱は誠実に行動すべきだと思う。


 僕は壱を好きだけどいないと生きていけないと思う程ではない。

 僕の進みたい道と壱を天秤にかけたら、今は壱とはさようならだなとか、頭の中で色々考え出したので、無口になってしまい、


「成、怒ったのか?引っ越して一緒に住んでいるって言っても寮みたいなもんだよ」


「別にその辺は、どうでも良いよ、僕は壱の事知らない事が多いと思う…、引っ越し前でもよく仕事部屋から帰ってこない時もあったし、…ーけど壱が1人じゃないから安心だよ」


「なんか話の論点が俺になってきた、俺が悪いのかな、」


「壱は僕が働く事イコール別れなんだね、もし別れたら壱の引きこもりは終了するの?

 今、中途半端だから悩んで不安定なの?」


「わからない」

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