第6話 発掘現場

 翌日、僕は発掘現場に向かった。


「こんな所なんですねえ」


「ええ。こんな所ね」


「クルミさん、おかしくないですか? こんな事務所の近くで、しかもそこ、隣、公園じゃないですか!」


 発掘現場は思っていたものとはずいぶん違っていた。


「どんなのを想像していたのか知らないけれど、これが事実です」


「おかしいですよ! 子どもがそこで遊んでるじゃないですか! それになんですか? 僕の格好。なんでこんな格好で来ちゃったんですか!」


 そう、僕は発掘だと思っていたので、長袖の作業服に長靴、軍手着用だ。


 それなのに。


 こういうことか、ギンゾウさんに聞いた自分が悪いのか。

 ほんとにダメなんだ、この人に相談とかしちゃ。


「いや、自分でツッコまれても。せっかくオレがツッコもうと思ってるのに。ホントつまんないなあ、アダンちゃん」


「って、なんで二人ともいるんですか!」


「あーあ、なんでって言っちゃいましたね」


「なんで、と聞かれたからにゃあお答えしやしょう。あっしの生まれは帝国南部でそりゃあもう貧しいところでやした。おっかあ、オラが出稼ぎでうめえもん腹いっぱい食わせてやるからよお! そう言って村を出たのが十五年前のことでごぜえやす」


「長くなるんですか? それ。こないだ自己紹介でこの街って言ってたじゃないですか」


「アダン君、いいね。なかなか言い返しですね」


「なんだよお、おっかあ、もっと聞いてくれよお!」


 無視だ無視。


「で、クルミさん。なんなんです? ここ」


「ああ、ここね、リャンブア公園。十五年前、帝都の区画整備事業で掘り起こしてたらたまたま出ちゃったんですよ、魔石が」


「そうなんですか?」


「ええ。まあ出ちゃったものは仕方ないって言うことでうちに仕事が回ってきたんですど、それ以来、年に数個の魔石が出るのです」


「え? 数個?」


「そう、数個。出ない年もあるんですけどね」


「それって」


「だから言ったでしょう? うちは税金対策なのです。会長がほかで儲けてるんだけど、ここは掘っても掘っても出ないんですー、大赤字なんですよお、税金やすくしてくださいね、って言うための事務所なのですよ」


「ああ」


 そうだった。

 何を期待してたんだろう。

 分かっていたはずなのに。


「で、ここで発掘をしている人は?」


「ああ、もう少ししたら出てくると思いますよ。あ、あの人ですね」


 クルミさんが指さした先にいたのは、なぜか古ぼけた茶色いスーツを着た男性だった。


 なんでスーツなんだ?


「気をつけてくださいね」


「え? なにに気をつければいいんです?」


「まあ話してみたらわかります」


 男性に近づき挨拶をする。


「あのお、すみません。昨日付けで異動してきたアダンと申します」


「ああ、ああ。あなたが! アダンさんでいらっしゃいますかぁ! そうですかあ」


 え?

 なんで涙ぐんでるの?


「え? なんで? 泣くんですか?」


「ええ、申し訳ございません。私、涙もろくて。一年のうち大半涙しております」


「ほとんど毎日泣くんですか?」


「はい。ですので私、泣く人の気持ちよくわかるんです」


「はあ」


「泣いても、いいですよ」


「いえ、別に今は」


「ああ、失礼しました、つい。ああ、クルミさんもおいででしたか、おはようございます」


「おはよう、コウタロウさん。いつもと様子が違うようだけど何かあったの?」


「はい実は、実はあ!」


 初めて来た僕にはわからなかったが、どうやらいつもとは様子が違うらしい。

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