Zipped Memories 〜隠された悠久の記憶〜 

善天侍 利乃匠

プロローグ

 背後から息をするような不思議な感触を覚える。

 勢いよく後ろを振り向くと、普段はひっそりとたたずんでいる外階段を薄緑色の光が包み、脈動していた。

 それは曲線を描いた純白の外壁を、駆け上がるように伸びる螺旋らせん状の白い階段だったはず。

 光の脈動は『こちらにおいで』と招いている。


 振り返って仲間たちの顔を見ると、全員が声を出さずに小さくうなずく。皆、考えは同じだ。


 私の腕は鳥肌が立ち、強く握りしめている手のひらは汗まみれだ。


 震える足の力を振り絞り、ゆっくりと階段に近づく。

 徐々にその輝きは強くなり、光の脈動も増していった。

『さあ、もう少しだよ』と励ましている。


 さきほどまで爽やかな空気に包まれ、朝日を跳ね返して光り輝いていた総ガラス張りのビル。それも緑色のかすみがかかり、手すりの向こうにぼんやりと見えている。ひっきりなしに車の騒音が聞こえていた首都高速道路も、かすみみながら音もなく横たわっていた。

 静まり返ったこの場所で心臓の鼓動だけが、けたたましく聞こえる。


 私は階段の前で立ち止まった。

 震える足をどうにか持ち上げて、最初のステップに足をかける。

 すると、階段は一層輝きを増し、光が周囲全体を包み込む。

 同時に、光のなかに吸い込まれる感覚を覚えた。やわらかな輝きが、私たちをこの世界から連れ去っていく。


 一歩一歩登るにつれて、螺旋らせん状の階段の周辺は緑色の濃い霧が深まっていく。

 さきほどまでいた三階から、四階に差し掛かるころには、もう外の景色は見えなくなり、緑がかった金色の雲が包み込む。


 ステップを踏みしめながら、希望が確信へと変わっていく。

 昨日のあの瞬間から、一日しかたっていないことが信じられない。私とは違う一生涯の記憶が、一気にあふれ出したのだ。


 これを登りきったさきには、自分が、そして仲間たちが待ち焦がれている世界が待っている。

 仲間たちと共に過ごし、戦った、あの世界に。

 よみがえり湧き出した記憶が正しいのか、もうすぐ明らかになる。


 万感の思いをめながら、一歩、一歩と登っていった。

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