称号は『危険物取扱注意』!? 泣き虫爆発娘による絆のVRMMO

一 万丈、(にのまえばんじょう)

大章 夏休み編

プロローグ

泣き虫は出会ってしまった

 ──その日、わたしは恋をした

 

 わたしの名前は有漢美袋うかんみなぎ 女の子 15歳

 とある地方の商業科高校に通う1年生。美しい袋と書いて『みなぎ』と読むんだ

 春の身体測定では身長が162cm。うんうん、育っておる

 他はまあ、それなり。高校生活にも慣れてきた6月のある日、壊れてしまったドライヤーの替わりを求めて家電量販店に来ております

 ネットで注文すれば楽なんだけど、わたしは手に取って確かめる派。お小遣いを握りしめ、蒸し暑いなかを自転車でえいこらと来るのは疲れたよ

 入り口をくぐりエアコンの涼しさに癒されながら物色していると、隣のゲームブースに奇妙な形の物を発見。それは灰色をした大きな球体を4本の足で支えた物


「なんじゃこりゃ……椅子?」


 よく見ると球体の上半分は半透明で、中に人ひとりが座れるソファのような物が見える。その部分をすっぽりと覆うように球体が配されているようだ

 しかしてその正体とは?


「え~と、なになに?」

 『最新VRMMORPG 絆オンライン お試しダイブ実施中』とな。ほうほう

 最近のゲーム機は、こうなっとるのかね。年の離れた兄がゲームとかアニメ大好き人間だからして、よく付き合わされて遊んだものだ

 もっとも、疑似空間に埋没ダイブするタイプのRPGやらFPSなどのゲームを遊ぶのは経験が無かった。値段が高いからねえ、あの手の機器は

 こいつも多分……げげっ!


 じうにまんごせんはっぴゃくえん


 は、ははは。むりむり! 

 

 こちとら普通の高校生じゃい。ゲームのために12万5千8百円も出せましぇん


 実は……あるにはある。商業科高校だから就職という選択をするかもしれない

 そうなると、地方では普通自動車免許が必須なんだよね。都会みたく、何処でも電車でゴーとはいかないのが現実だ

 車の出番は普通に多い。自転車の通勤範囲に就職できるとは限らないしね

 だから、車の免許を取るために貯金はしてた。貯め込んだお年玉と入学祝いを合わせれば、あるいは?

 いや、まてまて。わたしはドライヤーを買いに来たのだよ

 兄みたくゲームに散財など出来るかい! 


 ……でも気になる


 純真無垢だった少女は、兄によってゲーマー怪人に改造されたのだ

 イーッ! ちくしょう! 兄よ、恨むでホンマ


 そんな葛藤少女を見ていた女性店員さんが、声をかけてくれた


「よろしければ体験なさいますか?」


 おおう、気を利かせちまったい。すまねえ……すまねえ、おねいさん


 では、遠慮なく


 半透明の部分が上にスライドし、中のソファがハッキリと見える。足まですっぽりと腰かける形をしているようで、店員さんの言う通りに靴を脱いで座ってみた

 わりと柔らかい素材で出来ているらしく、包み込まれるような感覚に眠気を誘われる。こりゃ良きかな、安眠ソファとしても使えそう

 ソファの感触を楽しんでいると、目の前に半透明の部分が下りてきて、そこに文字が浮かび上がった


『バイタルチェック……正常』

『フルダイブシステムON』

『絆オンライン体験版 作動します』


「いってらっしゃーい」


 店員さんの声を聞きながら、眠りに落ちていった


 ──意識が覚醒し、目を開けると……そこはまさしくファンタジーだった


 緑の森に飛び交う、光る綿毛玉たちの幻想的な光景。流れる音が耳に心地よい、透き通った小川

 触ってみると冷たささえ感じる。そうしていると不意に場面は変わり、今度は石造りの町並みに出た

 路地に建ち並ぶ屋台からは様々な香りが立ち上り、美味しそうな匂いが辺りを支配している。串焼きの屋台をのぞいていると、1つくれたので食べてみた

「美味しい、味がちゃんとする」

 絶妙な塩加減とジューシーな肉の味に、嬉しいというより驚いてしまう。仮想現実バーチャルリアリティの進化もここまで来たか

 肉串を食べ終わると、今度は砂漠だ。神秘的な遺跡がそびえている

 その後は目まぐるしく景色が変わって行き、その全てが現実と同じくらい美しい。そして最後に自分の身体が鳥へと姿を変えた

 人間以外にもなれるんだ


 翼を広げ、雲の近くまで飛んで行く。眼下には綺麗な緑の大地が続いていた

 彼方には雪を被った山々が連なっている。その眺めを背景にして『絆 ONLINE』のタイトルが浮かび、現実世界へゆっくりと覚醒していく──。


「あ、あの大丈夫ですか?」


 慌てて女性店員さんがハンカチを差し出してくれた


 わたしは、泣いていたらしい


 体験した世界の美しさに感動してしまったのだろう。心が震えるってこういう事なのかと思った


 その日、わたしはゲームに恋をした──


 

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