第7話 統べるモノの憂鬱【D-U-1】
長期の深海調査向けにサプライを空中投下する計画の打ち合わせが終わり、エリスは一体いくつの計画が並行しているのか、とストックしてある計画を一覧表示する。どれも依頼主、関係者が独立した計画のように見えるが、
人間であればプレッシャーのあまり身体を壊すか、計画が完了した瞬間に灰になるのだろうが、それらは根本的に思考形態が異なるエリスには関係のないことだった。しかし、自身もこの世界に存在する以上は何かしらの理由で、稼働効率の低下や破損する可能性は捨てきない。人、アンドロイド、AI問わずバックアップ要員の確保や後身の育成に力を入れていた。この話を相棒の田辺一騎にすると、彼は腕を組み、しばし考えてから、真剣な顔で、
「人間とやっていることが変わらない」
と言われた。
「人間によって作り出され、人間の社会にかかわっていく以上、人間と同じやり方をとるのは避けられないと推測する」
新しいやり方を採用すると衝突が生まれる、というのをエリスはよく実感していた。自分が作られている間も、作られてからも、守りの要を人間以外の存在に任せるなど、と批判が不定期に降っている。批判を回避しつつ、効率の良い方法をとろうとすると、人が理解できる範囲で動くしかない。少しだけ新しい概念を取り入れて、人が理解できる範囲を拡大させながら。
人との共存、共栄は課題が多いとエリスは思う。難しいと言って終わりにもできるが、一つ一つの課題を片付けていけばよりよい関係が築けるだろう、とも。
「エリス」
声をかけられ、エリスは思考を中断する。目を開くと、横に声の主が座っていた。
「一騎か」
彼はエリスの顔を覗き込むように見て、
「眉間に皺が寄っていたぞ」
「ログにはないが」
「そういう考え事をしてそうだ、と思ったんだよ」
「根拠はあるのか」
エリスは理由が知りたくて一騎の顔を見つめる。互いに真顔で見つめあって約十秒、一騎は我慢できなくなったらしく、吹き出した。大げさに呼吸を整えてから、
「長年の勘だよ」
「本当に勘なのか」
「長くいれば、推測はできる。心当たりはあるだろう?」
と一騎は笑う。確かにそういう事例はあることに気づき、エリスも笑った。
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