ウシタロウの誕生

 ウシコが子供を産んだ。ということはやっと牛乳が取れるということだが、流石のセクシャルでも出産初期の母乳を赤子から取り上げるようなことはしなかった。


 色々な動物がそうだと思うが、生まれてから最初の数日に出る母乳はとても大切で、免疫をつけるためのものが豊富に含まれていたり、栄養価が高かったりする。なので出産初期の母乳を赤子に与えるのはとても大切なことなのだ。


「沢山飲んで強くなるんだぞ。ウシタロウ」


 セクシャルは生まれた牛の魔物にウシタロウと名前を付け、授乳シーンを見守った。


 自分の子供がセクシャルに可愛がられ、ウシコとウシオも嬉しそうにモォモォと鳴いた。微笑ましいな。


「あ、セク! ここにいたのね!」

「静かにしろアク。赤子がタンパク質補給中だ」

「ごめん……って、赤子?」

「ああ、ウシコが出産した」


 すると、アクティが牧場に登場した。どうやらハラスメント領に遊びに来ていたようだな。

 せっかく遊びに来たのにセクシャルがアクティのことを放置して自分の用事をするのは昔からのことで、今回もそうなって暇になったのでセクシャルを探しに来たのだろう。


「ええ! 早くない!? 確かこの前赤ちゃんができたばっかりじゃなかった!?(小声)」

「ああ、発覚したのは2ヶ月前ほどのはずなんだが、気づいたらもう産まれていた」

「へえぇ〜。ウシコちゃんったらすごいのね!」


 そう言ってアクティがウシコを優しく撫でた。どうやら、顔見知りのようだな。


 アクティが驚いている通り、ウシコの出産速度が早すぎる。

 

 通常、早期出産には何かしら問題が見られるものなのだが、ウシタロウに異常は見られず、むしろもう立ち上がってセクシャルに甘えているくらい元気モリモリだ。


 やはり、これが牛の魔物の通常の出産速度ということなのだろう。母子ともに健康なのであれば、妊娠から出産が早いというのはメリットしかないように思える。繁殖速度が速いということだからな。やはり、魔物はそういうところも生物的にも優れているようだ。

 

「セクが環境を整えてあげたから出産しやすかったっていうのもありそうじゃない?」

「ふむ、それは一理あるな。たしかに、魔境のような四方八方敵まみれの場所でまともに子供を作れるとは思えん」


 この2人が言っている説はかなり有説だな。妊娠するということはまともに戦うことができない体になるということだ。


 集団で群れを作る魔物ならば特に問題はないだろうが、この牛の魔物達はどちらも単独行動しているところをセクシャルが確認しているし、尚更妊娠はキツいだろう。


 まともに子供を育てられるかどうかの以前に、自分の生死すらも危うくなる。赤子の分まで栄養も取らなくてはいけなくなるのに、取れる獲物の量が以前より減るのは間違いないだろう。


 そう考えるとこの牧場という施設は本当に有能だな。魔物を飼育しているところが他にあるかどうかは定かではないが、このままいくとハラスメント領の主要産業になりそうなくらい有能である。


「でしょ? 毎日頑張った甲斐があったわね! 偉いじゃない!」

「……? 俺は頑張ったつもりなんてないが」(イキリ)

「はぁ〜? どうせまたトレーニングの一環だとか楽しいから〜とか言い出すんでしょうけど、普通の人間は頑張らずに半日木を切り続けることなんてできないから!」


 ん? 僕頑張ってませんけど。適当にやってたらこのくらいの成果はあげられちゃいましたけど? と言わんばかりにセクシャルがイキった。

 

 すると、それを見逃さないアクティはセクシャルをボコボコに論破し始める。いや、ほんと正論よ。特に、普通の人間とセクシャルを比べるのはかなり効く。


「む……」

「それにお金稼ぎだって頑張ってたじゃない! 引きこもり気味のセクがわざわざ王都に行って商売してただなんて、聞いたときには驚きすぎてご飯4回もおかわりしちゃったじゃない! どうしてくれるのよ!」

「金稼ぎか……あれは王都でトレーニングしてれば勝手に客が寄ってきたし、太客を捕まえたからな。途中までは楽な商売だった。最後の方は地獄だったし……たしかに頑張ったかもな」

 

 ディベート対決(口論みたいな)はセクシャルの負け。


 生産地獄を思い出して遠い目をした後、6歳児の小さい体格にしてご飯を4回お代わりか。やはりアクには筋トレの才能があるな……。と続けてつぶやいた。


 確かにご飯を多く食べれるのは筋トレにおいて大切な才能だけど、今はどうでも良いから。アクティも変なボケかますな。

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