飛べるひよことダンジョンへ

「今日は……ダンジョンにでも行くか」


 筋トレや農作業などの日課を終えたセクシャルは、珍しくダンジョンに行くことにしたようだ。


 多分だけど、最近は狩猟に行かなくていいようになったから少し暇で、戦いを求めているのだと思う。


 あ、そうそう。セクシャルが狩猟に行っていないという件に関して話していなかったな。


 少し前に、セクシャルの母であるジェンダーがプロテインを貰いにくるという珍イベントがあったと思うのだが、その時に話していたお茶会が見事に成功し、ハラスメント領地にも凄腕のハンターが何人もやって来てくれたのだ。


 ハンター活動を支援するためのギルドも設立できたし、もうすっかりセクシャルはお役御免ということだ。


 もはや日課と化していた狩猟なのでセクシャルはそれでも続けようとしたのだが、ジェンダーに泣きながら説得されてしまい、渋々断念したのだ。


 それでもダンジョンに行くのはどうなんだという感じではあるが、まあたまにならばいいとは思う。


「おいひよこ。遊びに連れてってやるから着いてこい」

「ピィ〜!」


 そうして準備を終えたセクシャルは、何を思ったのかテイムした魔物の1匹であるひよこを連れて、ダンジョンへ向かった。


 このひよこは魔物らしく特殊であり、ひよこのくせに物凄い速さで飛翔するのだ。しかし、ただそれだけ。


 ひよこから母乳が出るなんて話は聞いたことがないし、正直テイムする意味は殆どないと思うのだが、面白そうだからとセクシャルはこのひよこをテイムしたのだ。それもまた、いいでしょう。


 そして、以前レベルアップする際に使用したダンジョンに到着。スライム、ゴブリン、オークなどをバッタバッタと薙ぎ倒して進んでいく。


「よし、ひよこ! 飛び回って魔物の場所を見てこい!」


 未開拓のエリアに到着した途端、セクシャルはひよこを空に放ってそう言った。なるほど、索敵要員にするためにひよこを連れてきたのか。賢いな。


「ピヨォ〜」


 空に放たれたひよこはセクシャルの言うことを汲み取り、未開拓エリアに向かって飛び去っていった。言葉を理解できるのか。賢いな。


「ピヨピヨォ〜!」


 そして、数分後。ちまっこい羽をパタパタさせながらセクシャルの元に戻ってきたひよこは、セクシャルに頭を擦り付けた。


 ふふ、甘えているのか。かわいいな。


「ん? なんだ? もう1度投げて欲しいのか? 仕方ない、ご褒美だ。 オラ!」


 甘々の表情で頭をこすりつけていたひよこだが、セクシャルに体を握られて表情を凍りつかせた。言葉も理解している分、絶望も大きい。


「ピィィィィィィィィィ……!」

 

 割と力を込めてぶん投げられたひよこは、断末魔を響かせながらダンジョンの奥へと消えて行った……。


 遠くに投げたのは自分なのに「あ、あいついないと情報貰えないじゃん。早く帰ってこねえかなぁ……」と素の口調で独り言を言うセクシャル。やっぱり、こいつは賢くない。


「ピ……ピヨォ……」


 そして、数分後にやっとひよこが帰ってきたが、セクシャルがひよこの言葉を理解できないせいでひよこの索敵は無意味だったという結果になった。やはり、こいつは賢くない。


 ひよこに先導してもらって敵の位置を知ると言う方法も一応は思いついていたみたいだが、結局めんどくさくなって自分で暴れ回ることにしたようだった。


「やっぱ、牛を連れてくるんだったなあ。移動に便利だし」


 勝手に連れてきておいて、この言い草である。クズ人間としか言いようがない。トレカスである。


 結局セクシャルは、30分ほど魔物狩りを行って飽きたようで帰宅していった。





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