王都にて、ダンベル販売してみた

 ジェンダーにプロテインを渡した数時間後。セクシャルは王都の商店街で筋トレをしていた。


 ちなみにだが、もちろん1人である。公爵子息なのにも関わらず、この自由さ。いつものことであるが、あたおかである。


 こんなところで筋トレするなんて何を考えているのかというと、どうやら、ダンベルやベンチ台などのトレーニング器具を販売するつもりのようだった。


 その証拠に、セクシャルが筋トレしている側には商品のダンベルとベンチが置いてあり、それぞれに値札が付いていた。


 普通のベンチ台が10000円で、背もたれの高さを変えることができる可変式のものが20000円。


 ダンベルは1キロ、2キロ、3キロ、4キロ……と10キロまで用意してあり、2つセットで販売するようだった。


 値段は、1キロ2つセットで1000円。そこから1キロ増えるごとに値段も1000円増えるように設定してあるようだ。つまり、10キロ2個セットは10000円。


 現代の相場と比べるなら結構お高めのダンベルということになるが、この世界にはダンベルがまだ存在しないことや、ここまで精密に加工する技術もないだろうという事情もある。


 現代のダンベルでさえ殆どが重さに5%以内の誤差が発生するのにもかかわらず、セクシャルの生成した器具は誤差がゼロ。こういった高性能っぷりも合わさるので、この程度の値段ならば許されるであろう。安定性や希少性というやつだな。


 ここだけの話、重さを変えられる可変式のものを発売しないのは、金儲けのためである。いやらしいやつだ。


 ただ、重さの変えられない固定式には、変えられる可変式と比べて小さくて扱いやすかったり、ダンベルの側面が平らなので膝においても突き刺さったりしないという利点もある。


 つまり、固定式のみを売るのは、完全に金儲けのためだけではないということだ。まあ、ある程度売れた後で可変式を売る計画も立てているようだったが。まあ、商売ってそんなもんよね。


 ちなみに、合計数百キロを超えるであろうこの重りたちをどうやって領地か遠く離れた王都まで運んできたのかというと、王都とハラスメント領を繋げる転移ゲートでやってきたのだ。


 ハラスメント領は田舎だが、一応公爵家の領地である。そのため、限られた場所にしかない王都と領地を繋げる転移ゲートが開かれているのだ。土地としてハズレな、魔境のある場所を治めることを任されている対価と言ってもいいだろう。こんくらいの特権がないと、ハードモードの土地を統治するなんてやってらんないよね。


 さて、絶賛筋トレに励むセクシャルに話を戻そうか。


 現在、セクシャルは上裸で大胸筋のトレーニングを行っている。セクシャルの名誉のために一応言っておくと、上裸なのは変態だからではなく、商品の売り上げを伸ばすためのパフォーマンスの一種である。


 他にも商品を売るための工夫は為されている。たとえば、今セクシャルが使っているダンベルを見てみると、一般的にダンベルに使われる素材である鉄よりも軽い素材で作られている。


 そうすることで、普通のダンベルよりも大きいダンベルを使って筋トレすることができ、客や通りすがりの人々に与えるインパクトを強くすることができるのだ。


 まあ、単純に鉄よりもその素材で作る方が魔力消費が少なかったという事情もあるが。


 そういった客寄せの努力もしっかり行ったことで、筋トレを行うセクシャルの周りには人だかりができ始めていた。


 こっちの世界ではダンベルなど現代では一般的な器具を使ったトレーニングが存在せず、物珍しいということもあるだろう。


「おいおい、やばいのがいるぞ?」

「見たところ体を鍛えているようだが……やばいな」

「手に持ってるあれ、デカすぎだろ。一体何キロあるんだよ……」

「筋肉もやばいな。めちゃくちゃデカい」

「大きさもそうだが、何よりも脂肪の少なさが美しいと思うな」


 周囲の人々は、セクシャルの狙い通りデカすぎるダンベルやセクシャルの肉体美について語り始める。


 すでに、値札を見て購入を検討している人もいるようだった。


 しかし、トレーニングに全集中しているセクシャルはそんなこと全く気が付かず、眉間に皺を寄せてものすごい必死な顔でトレーニングを続けていった。


「すぅーっ……ふっ! すぅーっ……ふっ!」


 そして、やがてトレーニングは終盤になり、セクシャルの胸や腕がプルプルと震え始めた。


 そもそも片手150キロもあるダンベルでダンベルプレスを行っているのだから、そりゃキツいに決まってる。それでもフォームを乱さないのが、セクシャルのすごいところだ。


「……………………ふっ! ぐ、ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 うめき声を上げながら、最終セットのラスト一回をどうにか挙げ切ったセクシャル。


 ベンチに寝そべっていた身体を起こすとともにダンベルを一旦膝に置き、ゆっくりと地面に下ろしていく。


 すると、ゆっくり地面に置いたはずなのにも関わらず、あまりに重いせいですごい振動が響きわたった。


 ゆっくり置いたはずなのに思ったより音が響いて家族に怒られる。家トレーニーあるあるである。


 さて、思ったよりも大きい音が出て、セクシャル自身も驚いたようだ。驚いて跳ねるように顔を上げ、そこで初めて、自分が人々に囲まれていることに気づいた。


「……いらっしゃい」


 騒音を立ててしまった申し訳なさ、顔面を崩壊させながら必死こいて筋トレしているのを見られた恥ずかしさ、すっかりパフォーマンス中だということを忘れていた失敗感。どれが原因かは定かではないが、少し気まずそうにセクシャルは声を出した。



あとがき


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