農業高校出身 キン・ニクオ

 3人が会話を続けること数分、やっと現場に到着。


 そして現在、セクシャルは農業初心者の2人に耕し方などを教えていた。


 本当は農民に教えてもらったほうがいいのだが、貴族を相手させるのは可哀想だし、そもそも彼らの仕事が進まなくなってしまう。本末転倒である。


 そのため、前世の知識+農民から教えてもらったノウハウを活用して、ドヤ顔で指導を行っていた。


「まず、肥料をこれくらい撒く」


 そうそう、そういえばだが、最近はセクシャルが作り出した肥料も農業に活用しているみたいだ。


 前世では一応農業高校に通っていたようなので、頭が悪くても、窒素・リン酸・カリウムが肥料の三要素だということくらいは知っていたらしい。たしかNPKというやつだな。


 ちなみに、効果はまだ表れていない。まあ、肥料使い始めてからまだ数日だしね。当たり前だ。


 それに、一応ここは異世界だから、肥料もいろいろ違ったりすることもあるだろう。


 一応知識としては間違っていないはずだから、成果が出なくても落ち込むことはないぞ。セクシャルくん。


「そして、奥から手前に向かって30センチほどの深さで耕していく。イメージは空気を含ませるように。フォームはこうだ。」


 農民や先生たちが言っていたことをそのまま復唱するだけなので、簡単なお仕事である。


 しかし、フォームに関してはセクシャルの土俵。腰を痛めにくくて全身の力をうまく伝えられるようなフォームを独自で考え、実践しているのだ。


「大切なのは、腰が丸まらないこと。腰が丸まると腰を怪我するリスクが高くなる。これは、デットリフトでもそうだ」

「ふんっ! ふんっ!」

「なるほど、デットリフトの応用だね」


 そうしてセクシャルに基本知識をコピペされた2人は、セクシャルの真似をしてクワを素振りする。


 一般6歳児のアクティには少しきつそうだったので、セクシャルがお手製の少し軽いクワを用意した。それでどうにか頑張ってくれ。


「ていうかセク、農民たちが付けているあれはなに?」

「うん、実は僕も気になってた」

「うん? ああ。あれは、怪我防止のパワーベルトと、握力補助のパワーグリップだ。」


 アクティが気になった『あれ』とは、セクシャルが農民たちの体を気遣ってプレゼントした、緩めのパワーベルトと高性能のパワーグリップである。


 トレーニングギアを農業に応用するのは草だが、腰痛が治ったという声もあるので割といいプレゼントだったのではないだろうか。


 それぞれの効果を一応説明すると、パワーベルトはお腹に巻くことで腰の怪我のリスクが下がるとともに、腹圧を簡単にかけることができるようになり、力を発揮しやすくなる。


 ちなみに、長時間の農作業に使うものなので、緩め調整できるように作られているようだ。


 もう一つのパワーグリップはかなり農民たちからも好評で、手首に装着したパワーグリップのベロの部分を棒状のものに巻きつけてから握るすることで、握力の補助になるのだ。


 子供たちが言うには、鉄バケツで水を汲みに行く時などにも助かっているらしい。


 セクシャルもギアについて説明をしていたのうで、納得したアクティはふむふむと頷いてみせた。


「へぇー。農民はそういうのをつけるのね。勉強になったわ」

「……ここだけが特殊なんだと俺は思うよ」


 間違った知識を身につけたアクティと、それを指摘するべきか決めかねるコウセイである。


 結局、勘違いは正されないまましばらく農業を体験した2人。意外と楽しんでいたようでなにより。


「それじゃあ、俺はこのまま森に行くから」


 これにてお役目終了。と言わんばかりに2人を置いて森に行こうとするセクシャル。


 客人兼友人を畑に放置するのは流石に酷すぎるが、狩りに行くという事情を考慮すると、確かに森には1人で行きたいのも理解できた。


 狩りに行くということをちゃんと2人に伝えたセクシャルだが、それでも興味があるということだってので、とりあえず入り口まで着いてくるということになったようだ。


 正直、セクシャルが領民達の食事のために狩りに行っているという事情を知る身としては邪魔せず帰れと言いたいところだが、まあ2人はそんな事情を知るはずもないし、入り口までということで妥協してくれたので別にいいと思う。


 流石に、狩りまで同行すると言ったらセクシャルは2人を置いて1人で向かっただろう。やっぱり危険だからね。


 それに、2人とも貴族らしく香水を振っているのでまともに狩りはできないだろう。野生動物はそれだけ匂いに敏感なのだ。


◇◇◇


 しばらく歩くと3人は森に到着した。


 すると、セクシャルはおもむろに地面の土を掘り始め、土の中から取り出した土まみれの迷彩服を着用し始めた。


 それから、同じように土まみれのヘルメットをかぶる。髪を一本残らずヘルメットに入れているのを見るに、このヘルメットにはきっと派手なピンク色の髪を隠す役割もあるのだろう。


 手慣れた様子で土まみれになっていくセクシャルを見て、2人はドン引きの様子。アクティは手で口を覆い、息を呑む。コウセイは眉間を摘んで、理解に苦しむような表情をした。


「ん? どうかしたか?」


 当の本人は、うざいくらいのとぼけ顔である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る