番外編 第2夜 ひとりかくれんぼ

 こっくりさんをした事がある人はいると思うが、その起源を知ってる人はあまりいないのではないだろうか?


 元々は西洋のテーブル・ターニングという占いの1種のようだ。机に乗せた人の手がひとりでに動く…それは昔から心霊現象だと信じられてきた。


 しかし、近年になり科学が進歩してきた現在では『意識に関係なく身体が動くオートマティスムの1種』とみなされているようだ。


 そんな中、現在ではこっくりさんと似たようなチャーリーゲームというのも数年前に流行った。俺は正直、この降霊術という物は信じていない。勿論、俺だって小学生の時に学校で流行っていたのでやったことはある。だが、信じてるからやったわけではなく、お遊び感覚で友人に付き合っただけ、というのが本当のところだ。


 ほとんどの人はこっくりさんが、存在するなんて思ってないんじゃないか?本気でこっくりさんが居たとして『好きな人と両想いか』、とか下らない質問に答えると思うか?そんな奴が居るのなら頭をどつきたいね。





 だから俺は目の前でこっくりさんに使う道具を広げている、篤の頭を無言で叩いた。


「いってッ!いきなり何すんだよッ!」


「それはこっちのセリフだ。人の家に押しかけてきて何やろうとしてんだよ」


「千春もしたことあるだろ?こっくりさんだよ。久しぶりにやりたくなってさ」


「人に挨拶する時みたいなノリでこっくりさんやろうとすんなよ。却下だ。俺は絶対にやらん」


「えー…しょうがないか」


 おかしい…いつもの篤ならしつこく付き纏ってくるはずなのに、今日はやけに素直だ。


 そんな時、篤の横に置いている鞄に目が言った。篤が普段、絶対に持ち歩いていないであろう物が鞄の隙間から見えた。


「…なぜにぬいぐるみ?」思わず声に出してしまった。しまった!そう思った時には既に遅く、


「バレてしまったらしょうがない。今日、千春の家に来たのはこっくりさんをやる為ではなくて、ひとりかくれんぼをする為でした!」


「驚いただろ?」と言いながら1人でパチパチと拍手をしている篤。相変わらず人の事をイラつかせる天才だが、


「ひとりかくれんぼなら自分の家で1人でやれよ」


「1人でやっても楽しくないだろ?楽しさを共有する為に千春の家に来たんじゃん」


 ありがた迷惑だわ。時計を見ると23時を過ぎたあたり。だからこんな時間に篤は来たのか。


 結局いつもの様に篤に押し切られてやる事になってしまう。



 当然俺はわざわざ1人でこんな降霊術をした事はない。ないのだが、やり方くらいは知っている。一時期、ひとりかくれんぼが話題になり多くの動画配信者がこぞって動画を上げていた。


 中には本当に物音がしたりとかしていたが、本当かどうかは怪しい所である。だからこそ、篤は本当に怪奇現象が起こるかどうかを検証したいと、熱く俺に語ってきた。


 正直暑苦しいし、大迷惑である――





「まずはこのぬいぐるみに名前を付けよう!そうだな、レイちゃんにしようッ!」


「幽霊だけに…?安直すぎないか?」


「分かりやすいからいいだろ?その後はぬいぐるみから綿を出して、米を詰めて――」


 

 全ての準備が整ったので早速風呂場に行き、ひとりかくれんぼを開始する。


「最初の鬼はレイちゃんだから」と3回言って水を張った風呂桶にレイちゃんを入れる。その後は家中の電気を消し、テレビだけは砂嵐の状態にしておき、10秒数える。


「後は確か包丁を持ってレイちゃんに刺せばいいな。少しの間だったけど、愛着が湧いたレイちゃんを刺す事が、俺に出来るのか…?」


「ふざけてないでさっさとやれよ」


「千春は非情だッ!!」とかほざいていたが、篤はなんの戸惑いもなく「レイちゃん見っけ!」と言って笑顔で刺していた。


「次は千春が鬼だから。」勝手に俺の名前を使った事に腹が立ったが、邪魔をするわけにもいかないので我慢する。


「よしッ!隠れるぞッ!!」


「はぁ?塩水は?」


「良いからッ!」


 そう言って篤と俺は塩水にしたコップを持たずに狭い押し入れの中に隠れた。


「さて、何か起こるかなー?」


「なんも起こらないだろ。こんな子供だまし」


「えー?でも動画では部屋から物音とかしてたぞ?」


「家鳴りとかだろ?そんな物音だけで幽霊に結び付けられてもな。心霊動画として配信するんだったら、音量上げないと聞き取れないような音が撮れたくらいで、動画にすんなって話だよ」


「いや、俺達もさ心霊スポットによく行くけどさ、変な事が起こる事なんてほとんどないじゃん?せっかく時間と金掛けて心霊スポットに行ったんだったら、ボツにしたくはないって」


「確かにそうだけどさ。最近そういう動画配信者が多くてさ。それに顔出ししてる人のほとんどがイケメンだよな」


「コメント欄とか見ると女の人が多いよな…心霊が見たいんじゃなくてイケメンが見たいだけなんじゃねぇのか?って心霊マニアの俺は思うんですよ」


「まぁ、需要と供給ってやつだな」



 そんな動画配信者あるあるを話しつつ、1時間以上押し入れの中に入っていたわけだが、特に砂嵐の音以外は聞こえてこない。


「そろそろキツイんだが…」


「まだ大丈夫だろ?もう少しすれば何か起こる気がする」


「いや、身体がキツイじゃなくて、男2人で押し入れの中に居る事がキツイって意味なんだけど」


「そっちッ!?そこは我慢しろよ。後10分だけでいいから」



 我が儘を言う篤に後10分な?と念押しをして、10分待ってみたが特に変化はない。


「結局何も起こらなかったな。最後一応、手順通りに終わらせるか。じゃあ襖開けるぞ?」


 襖を開けた先は、砂嵐のテレビが点いているだけで特に何も居なかったし、風呂場に行ってもぬいぐるみが動いているなんて事もなかった。分かってはいたが、結局何も起こらずに篤はしょんぼりしていた。


 手順通りに終わらせた頃には時刻は2時を過ぎていて、そのまま篤は俺の家に泊まっていき、翌朝に帰っていった――






 異変に気付いたのは秋が終わりを迎え、冬に差し掛かろうとしていた時だ。寒くなってきたので押し入れから毛布を1枚取り出すと、フローリングから何か小さい物が跳ねる音がしてきた。


 その音に気付いた俺は床に顔を近づけて見てみると、生米だった。それも1粒や2粒ではない。10粒以上フローリングに落ちていた。


 その押し入れは以前、俺達がひとりかくれんぼをした時に隠れていた押し入れだった。


 あの時、何かの拍子で米が篤か俺に付いていたのが、押し入れに入った時に落ちたのかもしれない。



 そう考える事にした――




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