最終話 廃ラブホテル 中編

「それで?事件が起こった場所は何号室なんだ?」


「そこまでは調べても出てこなくてさ…千春が居るから分かるかなーなんて」


「俺は幽霊探知機じゃねぇぞ。しょうがない…しらみつぶしに入っていくか」


 廃業してから数年しか経っていないせいか、建物自体は綺麗なままの状態。


「なあ、どれが事件があった建物だと思う?」


「分かるわけないだろ?霊能力者じゃないんだから」


「勘でもいいからさ。千春が決めた建物を最初に調べようぜ」


「んー…じゃああそこ」


 このラブホテルは円状に建物が並んでいる。俺が選んだのは入り口から1番遠い建物だった。」


「ふーん。ちなみに理由は?」


「少しでも事件がバレたくなかったら、管理人室から1番遠い場所を選ぶと思うから」


 俺達は小さなライトの光を頼りに、その建物を目指して進んでいるとある事に気付く。


「…落書きがないな」


「確かにそうだな…ヤンキーが存在しない街なんじゃない?」


「アイツらは何処にでも絶対居るから」


「ヤンキーをゴキブリ扱いすんなよ」


 無駄口を叩きながら最初の建物の玄関に到着する。玄関のノブに手を掛けるとカギがかかっていないようですんなりと開いた。


「千春…なんか感じる?」


「いや、俺は視えるだけで幽霊が居るとなんか感じるタイプじゃないんだが…。とりあえず入ってみるか」


 建物の中はそこまで荒らされていなかったが、少しカビ臭い。入り口から左がトイレと風呂、右がベットルームという間取り。これと言ってな何かあるわけでもなくこの建物を後にし、別の建物も見て回ったが特に何も起こらなかった。


「片道数時間かけて何もないとかマジかよ…」


「いつも大体こんなもんだろ?何かある方が珍しいって」


「千春は本当に何も視えなかったのか?」


「今回は本当に何も居なかったと思う。もう十分だろ?」


「えーもうちょい!もう1回この廃ラブホテルについて検索してみる」


 篤は少しカビ臭い建物の中でスマホで調べているが、俺は正直早く帰って寝たかった。


「んー…やっぱり調べても同じような事しか書いてないな。というかさ、なんでこの女の人は男に付いていったんだろうな」


 この記事を少しだけ話すと、どうやら殺害されてしまった女性は男性の元カノだったらしいのだが、なぜ1度別れた男と一緒にこのような場所に来たのか、という事が篤は疑問のようだ。


「そうだな…男が女を殺害したという事から考えると、男の方はまだ未練があったんじゃないか?だけど、女に断られて衝動的に殺害してしまった、とか?」


「殺害した男が完全に悪いって言うのは間違いないんだけどさ、でもなんか腑に落ちないっていうか…ラブホテルに付いて行く女も女じゃね?って思うんだけど」


「ストーカーになった男が無理矢理連れてったのかもしれないだろ?もうこの話はいいだ――」


 先程までとは違い、部屋の中の空気が突然重くなる。完全に、


「視られてる…?」


「は?いきなりどうした?視られてるって…もしかしてヤバい?」


 何処からかは分からないが、篤が女を馬鹿にするような発言をした瞬間に睨んでいる、というか憎悪そのものをぶつけてくるような尖った視線を感じた。


「逃げるぞッ!!」


 このままこの建物に居たら不味いと思い、篤を連れて廃ラブホテルから逃げ出した。帰りの車内で篤は、


「千春にも視えなかったんだろ?だったら気のせいだって」とヘラヘラ笑っていた。


 確かに俺はその視線を向けてくる者を視てはいない…いないのだが、あのような憎悪が籠った、まるで人を呪い殺そうとしてるんじゃないかと思うくらいの視線を感じた事は間違いない。


 幸いにも視線の主は憑いて来ていないようなので俺は安心していた。しかし、これが間違いだという事に気付いたのは、数日後に篤から連絡が来た時である。





「千春…やばいかもしれん」


「は?いきなりどうした?」


「あの女がッ!!ずっといるせいで、夜も寝れないんだよ!!」


 支離滅裂な事を繰り返す篤を落ち着かせて話を聞いたところ、あの廃ラブホテルに行った日からおかしなことが起き始めたという。


 あの日篤が家に帰ったのは朝の5時過ぎでそこから少し寝る事にしたのだが、久しぶりに心霊スポットに行った事で楽しかったからなのか、中々寝れなくてスマホをいじっていた。


 スマホの充電も無くなってきたので、充電器に差してそろそろ寝ようと目を瞑ると、充電してるはずのスマホが急に電源が落ちる音がしたという。


 壊れたか?と思った篤は再度、電源を入れなおしてみるとバッテリーはまだ残っている。しかし、再び寝ようとすると先程と同じようにスマホの電源が落ちる。


 これはいよいよ壊れたかなと思い、その日はそのままにして昼頃まで寝た。


 起きてからショップに行って確認してもらったが、何処にも異常がなくて安心していた篤だったがその夜から異変が起き始める――




 突然だが1度皆目を瞑ってみてほしい。


 明るい場所で目を瞑れば視界は瞼で塞がってるので見えないが、色は白く見えないだろうか?


 逆に暗い場所で目を瞑ると色は当然黒い。




 篤はその夜、中々寝つけなかったがとりあえずは目を瞑っていたらしい。すると突然の金縛り。


 身体は動かせなくなり、目すら開けれない状況の中、内心パニックになっていた。


 部屋は真っ暗で当然目を開ける事の出来ない篤の視界は真っ黒。だが、徐々に赤い色が集まって来て最終的に、


「女の顔になって睨んでくるんだ…それから寝ようとすると、必ず金縛りにあって女が睨むんだよ」


 憔悴しきった様子の篤に、俺はなんて声を掛けていいか分からなかった。勝手に心霊スポットに行きそこで故人を馬鹿にするような事を言う…ハッキリと言って、自業自得だ。


 だけど、俺は篤を見捨てる様な真似は出来なかった。ネットなどでお祓いをしてくれる神社を探し、なんとか篤から連絡をもらった次の日には、お祓いをしてくれる神社を見つける事が出来た。

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