第2話 初めて幽霊を視た 後編

 その後、千春達はバーベキューを楽しみ、気付けば辺りは真っ暗になっていた。


 腹も膨れて片付けも終わった千春は、持って来た椅子に座りながら、花火がしたいと駄々を捏ねる拓哉を咲が拒否してる姿をなんとなく見てた。


「えー…だったら夜は何するんだよ?お前らみたいに恋バナでもしろってか?勘弁してくれよ」

「誰もそんな事言ってないでしょ。そうね…暑いから橋を渡った先に売店があったからアイスでも買いにいかない?」

「まぁ…暇だしな。じゃあ売店に行くか」

 千春たちはキャンプ場を出て売店に向かう事にする。


 キャンプ場を出ると道は二手に分かれていて、左に行けばダムがありその橋を渡っていくと売店がある。右手は子供たちが遊ぶ公園に続く道がある。


 このキャンプ場は少し古いからなのか、外灯のようなものはキャンプ場の入り口に一つあるだけで他には灯りは一切ない。


 そのせいか、いつもに比べて闇の密度が濃い夜に感じた。持っていた小さなライト一つで道を照らしながらちはる達は横並びで歩く。橋を渡りきると古びた公衆便所があり、その奥に続く道を歩いて行くと売店がある。


「ちょっと小便してくる。先行ってて!」


 拓哉は急いでトイレに駆け込んで行った。

 だが、腹を抑えながら走って行ったところをみると、どうやら大きい方が出るらしい。



「じゃあ私たちはあのバカを置いて、アイスでも買いに行きましょうか」

「そうだな」


 売店に続く道は少し坂になっていて、それを越えると売店があるのだが、いざ着いてみると売店はもう真っ暗で営業時間は終了しているようだった。


「17時に閉まるみたいだね」

「私のアイスが…」


 この売店の営業時間を見る限り、やはりこのキャンプ場は人気がないみたいだった。


 ここで拓哉の事を待っていてもしょうがないので、千春達は坂を下りて拓哉を迎えにいこうとした。だが、ここから少し奇妙な事が起こり始める。


 坂を下っているとトイレがある方から、白いTシャツをきた人が横切っていった。


「拓哉君…?」

「あのバカついに頭でもイカれたのね。売店はこっちだっていうのに何処に向かってるのよ…」


 この中で、白のTシャツを着ているのは拓哉だけだ。自然と皆は横切った人影を拓哉だと思っていた。だが、トイレの近くまで来るとスッキリとした顔で拓哉がトイレから出てくる。それを見て千春たちは固まった。


「どうしたそんな顔して?売店にもう行ったのか?」

「あんた…今までずっとトイレに居たの?」

「は?そうだけど…やめろよ。俺を怖がらせようとしたって無駄だからな!」


 拓哉の様子を見る限りでは嘘はついてないように見えた。だったらあの人影は?そう思った千春は人影が走り去って行った方向を見た。


 暗くて見えにくい道を、ライトの小さな光源を頼りに進んで行く。そこには小さな祠があった。


 あの人影とこの祠がどういう関係があるのかは分からない。だが、絶対にこの場所に人影は走り去って行ったというのに、祠があるだけで誰も居なかった。


 人が隠れるような場所もないし、道もない――その事に気付いた俺は、トンと小突かれたような恐怖を感じる。



 未だ言い合いを続けてる2人と、止めようとしているサクラの元に戻ると、


「千春も俺の事騙そうとしてんのか?」


 ちょっと切れ気味の拓哉を宥めて、事の経緯を説明した。興奮気味で顔が赤かった拓哉も、千春たちが嘘を言ってない事が分かると次第に顔が青ざめていった。


「だから嘘は言ってないって言ったじゃない」

「あー…ゴメン。俺が悪かった。とりあえず気味が悪いから戻ろうぜ」


 雰囲気が悪くなった千春達は、ここにいつまでも居たくないという気持ちもあり、橋を渡りキャンプ場に戻って行った。


 キャンプ場の入り口に近づいて行くと、何やら少し騒がしい。


 どうやら昼間に見た家族が夜のダムを見に来たらしく、橋の傍に居るのが分かった。


 あまりジロジロ見るのも悪いと思い、千春はチラッとだけその家族を見ると、騒いでるのは一人だけだという事が分かった。両親を見上げながら一生懸命に何かを伝えようとしている子供。それをまるで聞こえていないかのように無視する両親。


 なんだか頭の隅に引っかかりを覚えた千春だったが、そのまま家族の横を通り過ぎキャンプ場に入っていった。


 クーラーボックスに入れておいた、冷えてる炭酸を飲みながら誰ともなくあの家族の話になった。


「さっきの家族何してたのかな?」

「ダムでも見てたんじゃねぇの?」

「男の子が凄い話してたわね。それなのに両親は真剣にダムばかり見てて変な感じだったわ」

「「男の子?」」

「え?居たでしょ?昼間に来た家族…あれ?男の子なんて昼間居た?」


 この時ようやく気付いた違和感。そうだ、あの家族はだ。


 拓哉とサクラは両親と女の子しか居なかったし、騒いでる声なんて聞こえなかったという。


 すぐに千春は一人であの家族の元に確認に向かったのだが、やはり男の子などおらず三人家族だった。


 その後の事はあまり覚えていない。ただ、明るい時にキャンプ場で撮った写真を現像してもらった時、撮った身に覚えのない木?のドアップの写真や、拓哉だけを取った写真には無数のオーブが写っていた。


 よくある話だが、後で聞いた話ではあのキャンプ場に幽霊が出るという噂があるらしく、心霊スポットになっているらしい。それを聞いてかどうかは分からないけど、自殺をする人が後を絶たないらしく、千春がキャンプに行った一か月前に、公園の木で首つり自殺をした人が居たという事を友人から聞いた。


 この出来事を機に千春は幽霊の存在を信じると共に、視えるようになってしまった。

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