第14話 白の領界


「なるほどのう。

 では今も、数多の人間に視られておるという訳か」


 俺は、マナに伝えた。

 配信されている事。

 様々なコメントが寄せられている事。


 それを伝えてマナは怒るかと思っていた。

 勝手に、自分のプライベートが数多の人間に見せられた。

 うん、俺なら怒る。


 けど。


「皆、儂はマナリアルツリーフォルス。

 儂は人の事を良く知らぬ。

 儂に友人はアタル一人しか居らぬ故。

 だから、其方たちの事を教えて欲しい。

 其方たちと友達になりたいと思う。

 何故なら儂は、アタルと友人になれて幸せだったからじゃ」


 その言葉は、少し寂しくもあったけど。


「どうか、儂と友になってはくれぬか?」


 マナの笑顔を見れば、否定する気は起きなかった。



 :なります。

 :俺なんかでいいの?

 :なんか、浄化される気分。

 :可愛い過ぎる。

 :涙出てきた。

 :これは死んで欲しくないな。



 応援するような。

 慈しむ様なコメント。

 凄い速さで流れていく。


「皆、マナの友達になりたいってさ」


 俺がそう伝えると、マナは目を輝かせた。


「本当か!?」


 純粋さというのは伝わる物なのだろう。

 また、コメント欄が湧いた。

 同時接続も徐々に増えて行っている。


 大量の投げ銭も送られて来た。



 技能値の合計量は13万と300。

 端数切捨て。


 この世界の固有法則は配信。

 それに付随する権利がある。


 コメントの閲覧とアビリティリストの表示だ。


 俺はリストの中から、幾つかの技能を所得して行く。


 リスト内には、数十万を超える技能が存在した。

 その中から、必要な物を検索する形で選ぶ。


 ゲーム的な物は、紘一と委員長に聞いてる。

 説明を見て、何が俺に有用は見定めていく。



 10万P【属性弾召喚】

 1万P【武器硬化】

 1万P【拳銃術】

 1万P【早業】



 まぁ、こんな所だな。



 :大盤振る舞いだな。

 :アレを取れ!

 :必須なアビリティがあるんだよ。

 :そうだな。あれは絶対いる。



 コメントの内容から察した。

 奴らは他のライバーも見てるっぽい。

 なら、有用なアビリティも知ってるかも。

 それは聞いておいて損は無いか。


 そう思い。


「何のアビリティを取れって?」


 聞いてみた訳だが。



 :画像撮影100P。

 :コスプレ衣装召喚100P。

 :ぬいぐるみ召喚100P。



 やっぱりこいつ等馬鹿だったわ。


「貯金だな」



 :このロクデナシが!

 :人の心は無いんか。

 :マジで、一生のお願いだから頼む。

 :課金します。

 :やれやれやれやれやれ。



「ボケ共が……」


「どうかしたのかアタル」


「いや、なんでもない。

 それより先に進むか……」


「うむ、冒険等した事も無い。

 楽しみで体がウズウズしておった所じゃ」


 樹でも体疼いたりするんだ。

 とか思いながら、俺はマナと進む事にした。



 :鼠の死体10Pくらいになるから換金しとけよ。

 :まぁ投げ銭貰えるなら、要らないだろ。



 いや10円は大切だろ。


「ちょっと待ってくれマナ」


「どうかしたか?」


 一度戻って鼠の死体を換金する。

 すると、鼠の死体が消えて10P増えた。


「おぉ、消え失せたの。

 どういう魔術じゃ……?」


「魔物の死体を売って魔法とかスキルを身に付けられるっぽい」


「そんな些事で……不思議な世界じゃな」


 投げ銭以外でも一応強くはなれるのか。

 憶えて置こう。


「よし、じゃあ今度こそ行くか」


「うむ、では行くぞ」


 そう言って、マナが胸の前に手を持ってきて丸を作った。



「――白花ノ領界」



 そう呟いた瞬間。

 足元が白く輝く。


「神樹の結界の簡易版じゃ。

 範囲は狭いが、儂の周囲に魔物を寄せ付けぬ」


 あぁ、あの時の……

 確かにマナの周囲5mが白く光っている。

 その中に魔物は入ってこれない……?


 え、ちょっと待って。


「これってこっちからの攻撃って……」


「あぁ、通るぞ」


 じゃあ、勝ちじゃん……




 ◆




 属性弾召喚。

 これは、火、水、雷、風の弾丸を生成できる。

 弾丸のサイズは自由。

 トカレフの弾様にカスタムする事も可能。


 薬莢もそれに伴って変化する。

 だから、普通の拳銃では耐えきれず破損する。


 その為の武器硬化。

 このスキルは、武器の耐久値を向上させる。

 これによって、属性弾を仕込める。


 その引き金を引く。

 対象は巨大な猪。

 炎を纏った大熊。

 影色の巨狼。


 第二階層。

 コメント曰く【強化動物園】。

 石造りの迷路が一片し、一面草原である。


 そこを歩きながら。

 いや、白い草木を足跡に、俺とマナは進んでいく。


 ながら、見えたエネミーに対して拳銃を叩き込む。

 相手は結界で入ってこれない。

 こっちは一方的に銃を撃てる。


 流石に銃弾を避けたり、弾いたりする敵は居ない。

 あのゴブリンキングが異常だっただけだ。

 迷宮探索は、一方的な虐殺に成り下がった。



 :うわぁ……

 :動物愛護団体に怒られろ。

 :その結界チート過ぎない?

 :最強能力リストに入れたいから、アビリティ名教えて。

 :何この幼女……

 :賢者で幼女か。

 :死体でポイント稼げるしクリアじゃん。

 :いやいや、まだ二階層だし。



 コメントも呆れてる感じがする。

 俺もちょっと、やり過ぎな気はする。


「ふんふんふ~ん。

 冒険とは楽しい物じゃのう」


 なんて、マナが言うから。

 もうこれでいいかと、思ってしまう。


「まぁ……楽はできるならした方がいいよな……」



 :ちょいクズ。

 :見てるだけの俺が言うのもあれだけど、努力しろ。



 なんてコメントに、「うっせ」と小声で文句を言ってると……



 ――それは、現れた。




 それは、翼で飛んでいた。

 それは、頭上で輪っかを回していた。

 それは、人間の様な身体だったが。

 それは、肌が雪よりも白かった。

 それは、長い槍を持っていた。


 それは、天使だった。



「エラーコード0043。

 未登録IDでのゲーム参加。

 及び、エラーコード2371。

 未登録能力アビリティの所得及び使用。

 よって、対象の削除を実行します」


「なんじゃあれは……」


「さぁ、喋れるって事は敵じゃないのか?

 っていうか、削除って何言ってんだ……」


 なんて、俺の言葉とは裏腹にコメントが一気に荒れる。



 :防衛機構が動いてる……

 :って事はこいつマジのハッカー?

 :チート使用は流石に駄目だよ。

 :逃げろ逃げろ! 殺されるぞ!

 :マナちゃん逃げてーーー!!

 :天使ちゃんいつ見ても美人。

 :そいつには何しても勝てないぞ。

 :投げ銭返せ。



 コメントの内容を見ても、良く分からない。

 ハッカーとかチートとか、聞いた事はあるけど。

 どういう意味だっけ……


「選択肢を提示します。

 即刻自害する or 即刻殺害される」


「選択肢になってねぇんだけど……」


「選択の拒否を確認。

 強制執行を開始します」


「あぁ、話し聞かないタイプだ。

 よく居るよ、そういう上司」


 その会話の間も、逃げろ逃げろとコメントが騒いでいる。

 でも、相手は飛んでいる訳で。

 逃げても終われるのがオチ。

 それに、マナの結界もある。

 最悪一方的に撃ち落とせばいい。


 そんな余裕が、仇になった。


神槍グングニル起動。

 対象捕捉。

 管理者権限を実行。

 ブラックリストにID登録完了。

 神槍グングニルの発射許可を要望。

 了。管理者の代行権限を所得。

 対象――望月充」


 槍が引き絞られる。

 棒投げの要領とは少し違う。

 上から下へ向けての投擲。


「不味いのう……」


 マナがそう呟く。

 額に汗が滲んでいた。


「あの槍には、あの赤の破片の力が込められておる……」


 赤の破片……

 次元断層片……

 だとしたら、こいつが持ってるのか……


「これは防げぬ……

 逃げるぞアタル!」


 そう、マナが咄嗟に叫ぶ。

 その瞬間には、俺は決めていた。

 この槍の投擲は多分避けられない。

 そして、マナの結界でも防げない。


 そして。



「――俺は不死身だ」



 マナ。


「アタル、何を……

 止めよ、儂は最後まで――」


 消えろ。


 樹の杖が。

 マナが。

 俺の念と同時に消える。


 それを確認して、俺は天使を睨みつけた。


「お前、顔覚えたかんな」


 目的の物は見つけた。

 後は、あれを倒す方法を考えるだけ。

 簡単な事だ。



「――神槍滅却アカウントバン



 真っ白な槍は、俺の反射を超越した速度を持って。


 俺の心臓を貫いた。




 ◆




 俺は目覚める。

 けれどそこは、学校の屋上では無かった……


「やぁ、起きたかい。

 異世界からの訪問者君。

 私はね、君を待っていたんだ」


 白衣を着たその男は、俺を見下ろして、そう言った。

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