俺の良かれと思ってした決断が幼馴染をより狂わせてしまう

第12話

 俺の決心、それは礼奈と決別することだ。今までの俺は礼奈と紅音どちらにもいい顔をして曖昧な態度を取っていた。しかしそれでは余計にどちらも傷つけるだけだ。


苦渋の決断だがそれ以外に今の礼奈を変えられる方法を思いつかなかった。


 私は式影君の家の前で彼が出てくるのを待っていた。彼はいつも時間ギリギリに登校するためなかなか家から出てこない。その間、ここで澄み切った空気にあたり身体を冷やしながら待っている。


そんな時間が好きだった。人を待っているだけなのにこんなに満たされた気持ちになるのはなぜだろう。しばらく疎遠だったけれど最近になってようやく一緒に登校することができるようになった。私はそれだけで充足感で満たされていた……


そろそろ来る頃だ。まもなく玄関のドアを気怠い様子で開ける彼が出てきた。


「おはよう式影君」


私はいつものように挨拶のキスをした。すると信じられない言葉が彼の口から飛び出す。


「礼奈、もうやめにしないか?」

「え? 何を?」

「登校を一緒にするのとか。もう必要以上に関わるのはやめにしよう」


絶句した。なんで?え……?


「礼奈? 大丈夫か?」

「……」

「おーい礼奈」


彼が何か言っているが聞こえない。今の私はただただ怒りに支配されていた。紅音と彼の仲に配慮してこの程度で抑えてあげているのにも関わらず彼は私を拒絶した。本来なら私が紅音のポジションにいたのに……。私にはその権利がある。だってあの日、私は彼に指輪をプレゼントされているのだから。


裏切りを見逃してあげた恩を忘れてこの仕打ちなのね。


許さない。許せない。憎い。彼が憎い。私の感情を抑えていた最後の砦が破られるような感覚がした。


「もう終わりだわ」

「礼奈?」

「もう全て終わりよ」

「おいさっきから何言ってるんだよ」

「抑える理由がなくなったわ」


そう。私が彼への気持ちを抑える理由がなくなった。今までは彼が幸せならそれで良いと思っていた。あの水族館で彼が紅音と恋人になった日。私は自分の心が砕け散っていくのを感じた。それでも彼が幸せなら私はそれで良かった。


幼馴染という形ではあっても彼と一緒にいられるなら……


でもそれすらも叶わないというのならもう私を抑えるものは何もない。この愛憎を彼にぶつけるだけだ。許さない。許さない。許さない。好き。好き。好き。


あはははははは


困惑する彼の顔を想像するだけでこんなに気持ちいいなんて……ビックリだわ。


 俺は礼奈に単刀直入に話をした。これからは距離を置こうと。しかし、礼奈はその話をした後、どこか上の空という感じで俺の言葉が一切耳に入っていないようだ。相当ショックだったってことか……。胸が痛むが仕方ない。


お互いが前に進むためにはこの痛みはなくてはならないものだ。


 幼馴染として一緒に過ごしてきて疎遠の時もあったが何だかんだで腐れ縁だった俺と礼奈の仲もこれで終わりか。俺は胸にぽっかりと穴が開いたような感覚に陥っていた。今まで当たり前のように存在していたものを失うというのは辛いものがある。


だがそれさえもいつかはいい思い出になるはずだ。俺にとっても辛い出来事だったが前向きにとらえるしかなかった。


 次の日、礼奈は俺の家の前にいなかった。分かってくれたってことか。そう思っていると学園のそばまで来たところで突然背後から何者かに抱きしめられた。


「はっ!? 一体何なんだ、誰だよ?」


俺は突然の出来事にたじろいだ。そして見知った声を聞いて戦慄する。


「おはよう、式影君」

「え……礼奈!? 急に何してるんだよ」

「え? ただ抱きしめてるだけだけど?」


悪びれる様子もなく礼奈はそう言った。


「昨日話したじゃないか。しばらく距離を取ろうって。分かってくれたんじゃないのか?」

「そうだったかしら? ごめんなさい私、朝が弱くてよく聞こえていなかったのかも」


白々しい嘘をつく彼女。


「さあ、一緒に学園に行きましょう」

「あ、おい!」


礼奈は俺の手を引いて学園へと向かう。咄嗟の出来事に俺は抵抗できなかった。こんなとこを誰かに見られたら誤解されるに決まってる。紅音に幼馴染とはいえ女子と二人でいることを注意されたばかりだというのに。











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