第2話

「行ってきま~す」


 朝の澄み切った冷たい空気の中、優しい日差しが眠気を誘う今日この頃。俺は学園へ向かうため玄関のドアを眠気を振り切るように勢いよく開いた。すると―――


―――「おはよう、式影しきかげ君」

「うわっビックリした―――って……なんだ礼奈か」

「驚くなんて酷いじゃない……」

「ごめん。礼奈がいるなんて思ってなかったから……。今日はどうして?」

「昔はこうしてよく一緒に登校してたなって思い出したの……」

「昔?あ~そうだったよな。近所だったからよく集団登校とかさせられてたよな」

「だからたまにはどうかなと思って、ダメだった……?」

「ダメなわけないだろ、ほら行こう。こんなとこで立ち話してると遅刻しそうだ」


 家の前に礼奈が立っており、久しぶりに幼馴染と登校することになった。しかし、こうしてみるとやっぱり礼奈は絵になるよな。マフラーと手袋が統一されたシックな色で上品な雰囲気を醸し出している。黒髪ロングの美少女と朝から登校とは役得だが周りの視線が妙に刺さるような気がする……特に男共からの視線が痛い。


 でも何で礼奈は今日になって突然一緒に登校しようと言い出したのだろう?

昨日から俺は礼奈に対して何か言いようのない違和感を覚えていた。俺はそんな不安を払しょくするためにくだらない世間話でもしようと口を開いた。


「それにしても一緒に登校するなんていつぶりかな。かなり昔にしたっきりだったよな」

「8年と12日ぶりかしら……」

「え?」

「なんとなく、ね?逆算したらそれくらいかなって」

「ああ、何だビックリした。正確に覚えてるのかと思って少し焦ったぞ」

「そんなわけないじゃない」


 彼女はそう言って少しはにかんで笑う。珍しいな、彼女が笑っている所なんて幼馴染で付き合いの長い俺だがあまり見たことがない。それにしてもアバウトな逆算にしては少し日数が具体的すぎるような気もするが……。


 学園の前までつくと朝の眠気も吹き飛ぶ人物の声が聞こえてきた。


「浅井君、闇夜さんおはよ~」


 はつらつとした声、ブラウンのゆるふわヘアーに目元がくりっとしていて長い睫毛が特徴的な美人。住谷さんだ。


「住谷さんおはよう」

「おはようございます……住谷さん」

「二人で登校するなんてやっぱり仲いいんだ?浅井君と闇夜さんって」

「ん、今日はたまたまかな。いつもは別々なんだけどね」

「……」

「闇夜さん?どうかした?」

「いいえ、ごめんなさい。私、ちょっと委員会の用事があるから先に行くわね……」


 礼奈はそう言うと足早にその場を立ち去った。やっぱり何か昨日から礼奈の様子が変だ。

 しかし原因が分からない。何か悩みでもあるのか?それとも……いやそれはない。


 俺は昨日した礼奈が俺と住谷さんが話すことに対して嫉妬しているのではないかという自意識過剰極まりない憶測をしそうになってしまう自分を咎めた。礼奈と俺とでは格が違う。彼女とは家柄も能力も雲泥の差だ。そんな完璧な彼女が俺に対して嫉妬なんてするわけがない。


「浅井君……?どうかした……?」

「ごめん少し考え事をしてた」

「そっか……闇夜さんと二人で話してたところを割り込んじゃって邪魔しちゃったかな……?」

「いやそんなことないよ。邪魔だなんてとんでもない」


 ようやく仲良くなれてきたと思っていた住谷さんとの距離が開いてしまうのは避けたい。幼馴染の礼奈と仲が良いと誤解されたままだとまずいな……俺は咄嗟に言い繕った。


「住谷さん誤解しないで欲しいんだけど本当に俺と礼奈は幼馴染以外の何物でもないから。だから変に気とか使わないでいいよ」

「ごめんね浅井君。私、邪推しちゃってたかも……二人がすごく親密な関係に見えたから……本当にごめんなさい」

「謝る必要はないよ。俺も幼馴染とはいえ少し礼奈に対して馴れ馴れしいところあったし、みんなに変な誤解を与えてしまうのは俺にも原因があったから……」


 これで何とか俺と礼奈が親密だという誤解も解けたかな……。俺がそう安堵していると、俺のカバンが空いていることに気が付いた。

あれ?何で空いてるんだ、俺ちゃんと閉めてたような気がするけど……?


 何か落としたものはないだろうか、俺がそう思ってカバンの中を見てみると中にスパイグッズのようなおもちゃのトランシーバーが出てきた。何だよこれ……


 俺の持ち物じゃないものが何故か俺のバッグに入っていた。これってもしかして今の会話を誰かに聞かれてたってことか??子供用のスパイグッズのトランシーバーに通信記録が残るなど聞いたことがない。となると恐らく指紋が検出されない限りこの盗聴している犯人を特定することは不可能そうだ。こんな物をわざわざ入れてくるくらいだその辺りも抜かりなさそうだな。


 すれ違う時にでも入れられたか?そうでもなければ俺が気が付かないはずがない。


 俺の会話なんて聞いて一体、誰が得するんだよ。俺は憤りを感じながら咄嗟に顔を上げて辺りに怪しい人物がいないか観察すると学園の三階の窓からブラインド越しにこちらの様子を伺う人影が視認できた。あいつが犯人か?


 俺は、住谷さんに急用ができたと告げると急いで三階に向かった。















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