第21話

 私は転移に失敗したことになっていた。


上級の方でも、転移先を迷うことがあるのですね


 控えめに言われる。迷ってなんかいない。人生には迷っているけれど、今現在迷っているけれど、帰りたい場所は決まっている!

「魔女さん、魔女さんの困っていること、知ってる知識でぜんぶ消化してみせますよ」

 私は強気だった。1度に2度も起こってたまるか!

「林檎の皮剥き、面倒なら皮ごと食べましょう。それが嫌なら林檎の芯抜きと、りんごカッターですよ。荷物の揺れ、こすれ、これはもうぷちぷち、緩衝材を巻いて防ぎ、大きなベルトのようなもので固定、です。結束バンドはさすがに小さすぎる。あとは、あとは、職。職の安定。幅の広げ方。魔女さん、物を持ち上げるの得意じゃないですか。それで子どもたちを高い高いして、観覧車でもいい、すべては」


 ズボラ!便利!娯楽!

 見ていて楽しい!

 もうやけだ。


え?え?


 混乱する魔女さんに、私は一つ一つを説明し始めた。林檎は何が面倒か。皮を剥いていわゆるくし切りにすること。そのまま種だけ残して食べるのでいいじゃないか。

 

アップルパイやパンプキンパイを作るのが趣味なのよ。綺麗に乗せたいわ!

 

 上級とやらに魔女さん、遠慮がなくなってきましたね。


でも芯だけ抜くとはどういうこと?かぼちゃの種取りにも使える?


 使えない。というか。説明が難しい。私は沈黙して考え込む。


なぜ、幻影を映さないの?


 幻影?


幻影魔術で伝えてくださいな。どんなものか。


 使えないよ、そんなの、逆に、


「逆に貴女が私の思考を読み取ってください」


 テレパシーでも使えるのか。それとも幻影とは。

 

いいわ。まず初めからお願い。


 初めから?

 私は手に持つ、一つの林檎を、頭に思い浮かべる。




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