第14話 頭ではわかっていても・・・
あれは確か、よつ葉園を辞める2年程前の春先でした。
当時義母はすでに当直のような泊りの仕事はなく、日勤だけの勤務になっていました。若い頃は住込みで津島町のよつ葉園に寝泊まりしていたこともあったようですけど、すでに孫がいてもおかしくない年齢になっていて、現におりましたから、そりゃあ、独身の若い頃のような無理は言えないでしょう。
「これまで私は、よつ葉園の子どもたちのために一生懸命取組んできたけど、だんだんと自分の居場所がなくなりつつあるような気がしてならなくなってね、その理由が何なのか、吉村先生に、仕事の合間に尋ねてみた」
そんなことを、ぼくに言ってきました。
「で、吉村先生って人は、どんなことを?」
義母の話を聞く限りですが、なるほどとは思わされました。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
「今までは子どもたちの「母親」、お母さんとしての役を、山上先生はなさってこられましたけど、これからは、お孫さんも大きくなりつつあるわけですから、いっそのこと、母親的な役割から、祖母、おばあさんのような役割に変えていかれたらどうでしょうか?」
「おばあさんのような役割?」
「そうです。その役割は、山上敬子先生以外の誰にも、できません」
「それは、私が50歳を過ぎた年寄りだからってこと?」
「表面的な話で申し訳ありませんが、それも、あります。しかし、それは大した問題ではありません」
「ということは、子どもよりもむしろ、その親代わりの保母さんたちの母親としての役割に変えろ、ってことですか?」
「それもありますが、若い保母がどうこうというよりも、子どもたち相手においてのお話です」
「おばあさんのような役割、って、確かにうちには孫がいますけど、その子に接するような感じで、よつ葉園の子どもたちの世話をしろってことかしら?」
「そうです。先生の場合、若い保母さんがいらしても、やっぱり、若い頃と同じように子どもたちと接している感じが強いと、はたで見ていても感じます。そこをうまく軌道修正できれば、年長の子どもたちにとっても、いい意味でおばあさんとしての役割が果たせるようになるのではないかと、私は思っていますけど・・・」
「保育のほうでは、どうかしら?」
「そちらは別に問題ないでしょう。すでに、私も含めて若い保母たちの至らないところを、「大台高所」から見て、適切に導いてくださっているじゃないですか。あんな調子でいいのです。それが年長の子らに対してもできれば、と・・・」
・・・ ・・・ ・・・・・・・
正義氏が、覚えている範囲で吉村保母と山上保母の会話をざっくりと再現して見せて、一言述べた。
でね、ぼくはおばちゃんに言ったのよ。
ぼくらの子、おばちゃんからしたら孫の世話をしている感じでやればいいって、吉村先生もおっしゃっているわけだね。それなら、ぼくらの孫がそのくらいの年齢になった時の予行練習として、できる範囲でいい、年長の子らとも接触してみる機会を作ってもらうようにしたら、いいのでは?
おばちゃん自身は、ぼくなんかに言われなくてもそんなことはわかっていた。
でも、「山上先生」という立ち位置からは、なかなか、それが、頭ではわかっていても、いざそういう子らと接しようとしてみたら、やっぱり、昔ながらの意識が頭をもたげてきて、どうもうまく行きそうにないって、ね。
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