第9話 どちらも、必要な人材だった 2

 中学生の頃でそんな調子でしたから、高校生や大学生、まして社会人になって後にも至れば、事あるごとに御相談もいただきました。

 私も、できる限り真剣に、会話に臨みました。

 私自身にとっても、森川先生は自分を大きく成長させて下さった大恩人です。


 あれは、昭和44年頃でしたか、大槻君がよつ葉園に勤め続けるべきかで森川先生に相談を受けて、話し込んだのは。

 あの頃山上先生は、大槻君の危険性と言ったら語弊はあるが、子どもたち相手の仕事にそもそも向かないのではないかと言っておられたと伺っています。


 クリスマス会について、クリスチャンでもない者が何故本来宗教行事である者の片棒を担ぐ必要があるのか、それでやっていることと言えばちょっとした御馳走与えてそのついでに物も与えるだけのシロモノではないかと。

 そんなことを言っておった大槻君に、森川先生は社会評論としては大いに結構だが、このような場所でそんなことを言っていてはひねくれ者にしか見られないから自重せよと、たしなめられたようですね。

 まあ、あの手の職場でああいうことを言うのは、正直私もいかがなものかと思っていまして、さすがにそういう方向からの議論はやめろとたしなめましたよ。

 それでは左翼系の学生運動の連中と同じじゃないかと、ね。


 大槻君が養護施設の職員に向くかという件に話を戻します。

 私と同級生で元プロ野球選手の西沢茂君は、確かにその側面はあるものの、逆説的にこの仕事に向く、つまり、まったく適性がないわけではないと森川先生に進言させていただきました。

 要するに、仕事の対象となる子どもが好き過ぎないところで、冷静な判断ができるのではないかと。そういう視点で子どもに接する必要は、必ずありますから。

 

 ではもし、山上先生のおっしゃっていたように、大槻君が好きなクルマの店でも出すべくよつ葉園を退職して事業を起こしていたらどうだったか?

 間違いなく、それなり以上の成功を収められたでしょうね。

 あんなことを言っている本人が、クリスマスともなればクリスマスセール何て銘打って何か商売のキャンペーンの一つもやったかもしれませんよ(苦笑)。それこそ、サンタクロースの格好をして店に立つとか、ね。

 それはともかく、私生活の面において危うさが頭をもたげた可能性も高い。

 その意味では、彼自身、よつ葉園の仕事をして正解であったと言えるでしょう。


 ではもし、大槻君がそういう事業の道に入ったとして、その後、あのよつ葉園という場所で、山上先生の存在がどのように活きたかということを考えてみました。


 私はむしろ、大槻君が来たからこそ、山上さんも活かされたのではないかと、そのように思っています。これは、彼がよつ葉園に就職し、児童指導員から今のように園長に就任して後まで含めて、一貫していたのではないでしょうか。

 ここにはさらに、東先生も入ってきます。あの先生が10年間にわたって園長を務められたのは、お二人がおられたからこそではないでしょうか。

 山上さんと大槻君は、実は、あのよつ葉園という施設にとって、どちらも必要な人材ではなかったかと思われます。


 私の見聞きした範囲での話で必ずしも一般化できないかもしれませんが、養護施設という場所は、どちらかというと男性より女性の職員のほうが割合的には多いですよね。若い女性だけでは、申し訳ないがすべての子を見切れない。

 だからこそ、男性職員も、ベテラン保母さんも必要なのです。

 特に、年長の子ら、男の子なんかは、なおのことですよ。

 そこで、さあどこに力を入れるべきかを考えたとき、大槻君は園長として、年長の子らにきちんと対応できる人材を強化しようと考えた。

 これは確かに、経営者の判断としては妥当であると、私は思っています。

 もちろん、それをもって山上先生を定年の時点であのような形で御引取願うことがよかったとは、必ずしも言えませんがね。


 どうだろう、正義君。

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