第6話 義母の状況にたまりかねた娘婿 2

「ほう、なるほど。ところで山上さん、娘さん御夫婦に職場の話をされることが多くなったのは、やはり、移転後でしたか?」

 大宮氏の質問内容を、老保母はあっさりと認めた。

 それを受け、彼女の娘婿が話を続ける。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 特に、実の娘の恵美ちゃんよりも、その婿であるぼくのほうに向ってくる割合が激増しました。ぼくら夫婦はどちらも今に至るまで働きに出ていますけど、なぜかね、ぼくのほうに持込まれることが、多くなりました。

 子どもも次々生まれて、その世話をお願いすることが多くなっただけに、会話もそれに比例して増えましてね。子どもの話だけでなく、仕事がらみの話も多くなりました。昔話もありました。義母の若い頃のお話も出ましたけど、大宮さんの子どもの頃のお話もありましたよ。

 しかしどちらかというと、その時のよつ葉園の話の割合がやたらに多かったという印象がありますね。その内容ですが、一言で言って、若い職員の人たちとの世代のギャップというのでしょうか。

 その、若い職員さんたちや園長先生のお話になるたびに、思いましたね。

 義母は、相当な苦悩を抱えているなと。


 冷静に考えてみれば、そんな話はどこにでもある話のひとつでしょう。

 しかしながら、子どもの頃から知っている、今や義母となった人物が話しているとなれば、他人事なんかで済まないじゃないですか。最初は、はあそうですかと聞いていましたけど、ある時、逆にこちらから義母に質問してみました。


「おばちゃん、よつ葉園の先生たちの中で、誰か話しやすい人っている?」


って。あ、今でこそ義母ですが、子どもの頃からおばちゃんと呼んでおりまして、今も子どもがいない場所ではそう呼んでおります。

 何、子どもがいれば「おば「あ」ちゃん」にすればいいだけのことですからね。

 ま、それはいいとしまして(苦笑)。


 義母は、少し考えて、ある先生のお名前を挙げました。

「吉村先生って保母さんがいる。もうすぐ30歳になる人だけど、結婚して、子どもさんもいらっしゃる。一時期休職されていて、前園長の東先生が、お願いだから退職せずに戻ってきてくださいって頼まれて、それで、移転の少し前から、改めて来てもらっているのよ。あとは、男性の児童指導員か事務員、それに、結婚していない短大を出たばかりの若い保母さんたちくらいかなぁ・・・」


 ぼくね、大宮さん、その話を聞いて、すぐに義母に言いましたよ。

「おばちゃん、吉村先生としっかりお話されたらどう? なんで東先生が園長を辞められる前に吉村先生にそんなお願いをしたのか、オレすぐに分かった。おばちゃんを追い出さないように、よつ葉園で生かすための措置じゃないか!」


 義母はしばらく考えていましたが、思うところあったのでしょう。

「正義君の言うとおりだと思う。吉村先生と、しっかりお話してみるのが一番いいかもしれないわね」

「そうじゃ。それがエエよ。ずっと話聞いていて、大槻先生って人は、おばちゃんの味方にはなりそうにない。間違いないよ、そこは。下手すれば、少しでも早くお引取り願いたいくらいに思っているところでしょ?」

 その問の答はありませんでしたが、義母は、思うところあったようでした。 

 義母、いや、おばちゃんのこの一言、随分、寂しそうでした。


「昔のよつ葉園は、こんなところじゃ、なかったのにね・・・」

 

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