退魔組合の混血

エドアルド

第1話

 翔矢しょうやは夜の山林に身を伏せ潜め息を殺し、数メートル離れた場所にいる鳥を見つめる。

 その鳥は一般的にはさぎと呼ばれる鳥だ。しかし、その体は青白く発光しており。更には青い炎が辺りを漂っている。

 その鳥、妖怪青鷺火あおさぎびはリラックスをしており毛繕いをしながら木に停まっている。

 翔矢の見ている青鷺火はの強さは中級と言った所だ。弱い下級の青鷺火はただ青白く光る鷺だから。ただの猟師でも仕留められる。

 それに対して中級になると青い炎を口から吐き出し、青い炎を少し操る。

 今青鷺火の周りを飛んでいる青い炎がその証拠。

 ちなみに上級になると肉体が炎で構成され普通の物理攻撃はまず効かないので厄介さを増す。青い炎の操作もより巧みになる。


 翔矢はゆっくりと音を出さない様に立ち上がる。遮音の護符を使いたいところだがこんなところで使ったら気付かれかねない。

 目標としては一撃で終わらせたいのだ。

 もし終わらせられなかったら、この山林は焼け野原になるだろう。


 翔矢が腰から取り出したのは棒型手裏剣と呼ばれる物である。

 それを野球選手がボールを投げるかの如く構える。投擲のモーションも殆どボールを投げる時と同じである。

 落ち着け、心の中でそう繰り返す。

 もし失敗しても翔矢の実力的には死ぬ事ほぼ無いだろう。しかし、山林を燃やしたとなると色々と響く。評判にも報酬にも。

 普通に嫌だ。

 青鷺火が飛び立たないうちに心を落ち着かせ目標を見据える。

 この時に殺気等を出さないのが重要だ。たまにバレて燃やされる奴がいるからな。

 雨の時ならもっと仕留めやすいのだが無い物ねだりはやめよう。


 そして俺は棒型手裏剣を青鷺火の胴体、心臓を目掛けて投擲する。

 青鷺火は棒型手裏剣の飛翔音に反応しこちらを向いたがその時には既に青鷺火の心臓に棒型手裏剣は命中していた。

 だが、心臓に命中したとしても油断はしていけない。

 人間でも心臓を貫かれてから10秒は動けるとされている。

 そこで翔矢はあらかじめ棒型手裏剣に細工をしていた。

 それは棒型手裏剣に対して術式を刻んでいた事だ。その術式はスタンガン程度の電撃を対象に命中したと同時に放つものだが、それで十分だ。

 その程度の電撃さえ与えられれば動けなくなる。死ぬまでの数秒で何かされる心配も無い。例外もいるが今は関係ない。


青鷺火が心臓を貫かれ倒れてから30秒程して動かないのを確認して翔矢は近付いていく。

 この時警戒を解くと焼かれる。

 青鷺火は妖怪としては知能が低い。ほぼ動物並だが死んだふりをして不意打ちぐらいする知能はある。

 俺は素早く腰から剣鉈を取り出し青鷺火の首に剣鉈を振るう。

 ザクッという音を響かせながら青鷺火の首が胴体と離れる。

 翔矢は普段通りの手順で青鷺火の血抜きをする。

 ただ仕留めるだけならこんな事はしないが今回の青鷺火は依頼で狩猟している。食べる為だそうだ。

 普通の鷺は不味くて食べられないらしい。だが青鷺火は妖怪故か美味しい。

 と言っても食うのはもっぱら同じ妖怪なのだが。

 人が食べるとポックリとあの世に行く事になる。理由はよく知らないが人が食べるとそうなる。

 ただ時たまそれでも食べようとする人は出てくるもので、やはり日本の食に対する情熱はおかしいと思う。フグしかり、コンニャクしかり。

 ただしそのお陰で今の食があるので感謝はしている。だが今まで食べる事に成功した奴はいない。

 人で食べれるのは妖怪との混血ぐらいだ。かく言う翔矢も混血だ。

 青鷺火に関しては食った事はある。

 美味いことだけは保証しておこう。


 血抜きをして数分あらかた血が抜けたら青鷺火を袋に包み背負い込む。

 そのまま山林を降りて道に出ると翔矢は懐から鳥笛を取り出す。

 笛を吹けばホーーという音が鳴り響く。

 その音を聞きやって来たのは一羽のフクロウだ。

 そのフクロウは翔矢の肩に乗り翔矢の顔に擦り寄る。

 可愛い奴だ。

「頼むぞ。銀日ぎんか

 翔矢がそう言うとフクロウの銀日は飛び立ちその体を大きくした。

 その大きさは人を2人から3人程乗せれる大きさだ。

 銀日はその巨体を翔矢の目の前で屈め、それに翔矢は乗る。

 翔矢を乗せた銀日はそのまま飛び立ちそのまま進路を京都にとる。


 銀日による空の旅はおよそ一時間程だった。

 京都につくと翔矢は銀日から降りて清水寺に向かう。真夜中の清水寺は人がおらず本来なら入る事も出来ないがそれは一般人に限った話である。

 翔矢はそのまま仁王門に向かうと菊花紋章の御守りを付けている事を確認しその門をくぐる。

 その先は人妖の喧騒が飛び交う町だった。

 人、妖怪、人、悪魔、人、妖精。人と人外がその町を闊歩している。

 人のみが住まう表の京都とは別の人妖入り乱れる裏京都。その一角、陰陽町いんようちょう

 数百年前、だいたい世界大戦ぐらいから出来たらしいが詳しい事は翔矢も知らない。

 知らなくても問題が無いと言うのもあるが。

 翔矢はそんな陰陽町の道を進んでいく。

 いつもと変わらず町は賑わっている。茶屋に宿屋、料亭、料理店、鍛冶屋、湯屋、煮売屋等の昔ながらの店が昔ながらの建築物で所狭しと並んでいる。現代のビルが建ち並ぶ都会とは違う光景だ。

 そんな事を思いながら進んでいくとこの町の何処からでも見る事の出来るもっとも大きな建築物の入口が見えてくる。

 〈退魔組合本部太平城たいへいじょう〉、その巨大な建造物の門前まで来て中へと歩みを進める。


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