第2話

「ねぇ、恥ずかしいけん撮らんとってやー」


 銀杏並木が季節の移り変わりを伝え、あたり一面に黄色の絨毯を広げている。

 ファインダーの中で恥ずかしそうに俯く彼女は、その身長の低さも相まって、まるで秋を知らせる妖精のようだった。


 制服姿の彼女は、お世辞にも美人とは言えない童顔で、ぺたんこのスニーカーが似合う、いわゆる“女の子”だった。

 その人懐っこい容姿と、明るく、誰とでも仲良く話せる人柄からか、彼女の周りには自然と人が集まっていた。

 かく言う僕もその朗らかさに魅せられた内の1人で、学校から駅までのこの銀杏並木を2人で歩く時間は、まさに夢のようであった。






「そのカメラ、いつも持ち歩いとるん?」


 気まぐれだったであろうその一言が、彼女と僕との始まりだった。

 教室の隅で1人窓の外を眺めていた僕は、彼女の短い指が示す先を追う。高校の入学祝いにと祖父が買ってくれた、持ち主とは到底不釣り合いな一眼レフカメラ。


 写真好きだった祖父が、所狭しと家に飾った写真達。それをまじまじと眺め、僕もやってみたいと言うと、祖父はとても嬉しそうに笑った。

 初めは親のデジタルカメラを借り、見様見真似で花や景色、公園の遊具なんかを撮りまくった。到底作品とは呼べないそれらを、帰省のたびに祖父に見せつけ、褒めてもらう。小学生の僕にとって、その賞賛は何よりの誇りだった。

 そんな無邪気だった少年も、中学生になると、自分の撮ったものに納得できなかったり、周りの目が気になったりと、自然とカメラから遠ざかって行った。祖父に対する罪悪感を感じながらも、帰省に合わせて適当な写真を撮っては関係を取り繕っていた。

 何かを察したのか、祖父は高校受験を終えた僕に、こう言った。


「本当にええ写真言うんはな、撮りたいと思うた時にしか撮れん。そんな心動く一瞬を楽しみんさい。」


 霧が晴れたように感じた僕は、それ以来常にこのカメラと行動を共にしていた。

 心が動く、その一瞬を逃さないために。

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