女装してたら、美少女限定のデスゲームに巻き込まれてしまった

@NEET0Tk

第1話

 人は誰しもストレス鬱憤を溜める生き物だ。


 何気ない日常の中にも、少しの我慢が、少しの懸念が、少しの争いが、それらを少しずつ蓄積していく。


 そしてこの世に存在する全ては、溜まった物は吐き出さねばいつか壊れ、溢れてしまう。


 そうならない為に人はストレスを発散する。


 そのやり方は人それぞれであり、そのあり方は普通のものからアブノーマルなものまで様々だ。


 そんな中で俺はどの部類に適用されるかと問われてば……まぁ間違いなく普通ではないのだろう。


 バレてしまえば全てが終わる。


 だけど……もう抜け出せない。


 この快感を覚えてしまえば、もう一度求めてしまう。


 体がいつしかそうなるように変わってしまうのだ。


「最近、ご飯あんまり食えてないな」


 どうしてこうなってしまったのか。


 別に俺には壮絶な過去なんてものはない。


 至って平凡。


 普通の家庭に生まれ、普通に友達を作り、普通の知能で、普通の高校へと入った。


 変わっている点といえば、両親が美形で俺自身も結構端正な顔をしていること。


 と言っても女顔で背も低く、結果男として見られることが少ない。


 家族も家族で俺のことを可愛い子として扱うことが多かった。


 そんな環境のせいなのだろうか。


 それとも元々その資質はあったのだろうか。


「減量したからピッタリだ」


 鏡を見る。


 黒いゴシック服に身を包み、同じく黒い日傘を手に持つ美少女。


 否、美少年がそこにいた。


「やっぱり俺……今日も可愛いな」


 そう、俺こと鬼頭葵は


「じゃあ出掛けるか!!」


 女装趣味を持っているのだった。


 ◇◆◇◆


「可愛いー」

「モデルさんかな?」

「凄い格好」


 道を歩くと、やはり目立つのか色んな目線が向けられる。


 手を振り返せば黄色い声援が飛んでくる。


 最初の頃はバレて酷い目に遭うんじゃないかと不安で仕方なかったが、今になったら分かる。


(俺は間違いなく可愛い!!)


 あまり言いたくはないが、アイドルなんかといい勝負するのではないかと思うレベルだ。


 外見だけで俺を男と見破れる人間は、この世にせいぜい数名くらいだろう。


 だからこうして堂々としいたら、俺が女装趣味の変態男子高校生だとバレることは決して


「少しお時間よろしいかしら?」


 突然声をかけられる。


 振り向くと、そこにはサングラスとマスクをした怪しい女がいた。


(え?不審者?)


 俺は軽くパニックとなる。


 確かに俺の可愛さならそういった類いの人間が現れることは想定していたが、まさか相手がこんなヤバそうな女なんて(女装趣味の男による発言)。


 すると不審者は俺の顔をジロジロ見る。


 警察に連絡するか迷うが、その場合俺もピンチの為渋っていると


「あなた……隠しているようだけど、私には全てお見通しよ?」

「!!!!」


 ま、まさか女装がバレた!!


 嘘……だろ。


 まさか俺の人生、こんなところで終わるのか。


 きっとこいつは俺の姿をネットに晒して


『道の真ん中で女装してるキモい男見つけたお。タピオカ美味ー』


 とか言って承認欲求を満たすに違いない(偏見)。


 そしてその代償に、俺は一生ネットの海に世紀の大変態として社会的に死ぬのだ。


 ごめん、母さん、父さん。


 先立つ息子の不幸をお許し下さい。


「もし私に着いて来たのなら、あなたの秘めた思い、私が叶えてあげる」


 ……え?


 まさか……この人……


「こうすれば……分かりやすいかしら?」


 女の人はサングラスを外す。


 目元だけで分かる。


 この人は間違いなく美人だ。


 ハッ!!


 まさか!!


「気付いたようね」


 そうだったのか。


 この人もまた


(女装男子……だったのか……)


 俺以上の本物。


 この人は間違いなく、俺よりも可愛い男だ。


「さぁ一歩を踏み出しなさい。そうすれば、あなたを世界一にしてあげる」


 彼の差し出す手。


 その手はきっと地獄へと繋がる悪魔との契約なのだろう。


 だけど


(行きたい)


 このままチャンスを逃すなんてことしたら、きっと俺は一生自分を許せなくなると思うんだ。


 俺は彼の手を取った。


 男にしては小さくて柔らかく手だった。


「ここから先に進めば二度と普通の人生は送れない。それでも……いいのね?」


 二度目の忠告。


 だが俺に迷いなどない。


 力強く頷いてやった。


「……やっぱり正解だったわ。あなたこそ、新たな世界を見る者」


 こうして俺の、世界一の美少女を目指す旅が幕を開け


『これより皆様にはデスゲームに参加してもらいます。勿論異論はないですよね?』


 たのだった?


 ◇◆◇◆


 え?


 デスゲームってなんぞ?


 お、おかしい。


 俺は女装を極めに来たはずだよな?


 それがまさか


『ここであなたは自身の力で夢を勝ち取りなさい』


 そう言われて中に入ると


『それでは荷物検査を』


 そう言って強面のおじさんにスマホやらを没収され


『次にお名前と生年月日、自身の特技などをこの紙に書いて下さい』


 そして俺は紙に個人情報を書き出し


『これらは誓約書です。良く読んで参加の意思を示して下さい』


 と言われた紙の内容を見ずに適当にサインした結果


(デスゲームに参加ってどゆことやねん)


 そんな俺の疑問を代わりに尋ねてくれる人物がいた。


「デスゲーム?そんな話聞いていませんわ」


 近くにいた金髪縦ロールが声高々に喋る。


 凄い、現実にあんな子いるんだ。


(まぁ俺もこんな服で外を徘徊する時点で同じか)


 それにしてもめっちゃ可愛いなあの子。


 胸も大きいし、金持ちそう。


 凄い女装のレベルだ。


 声も声優みたいである。


 ちなみにだが、俺は女装中に人前で喋ることは絶対に無い。


 これは俺の流儀であり、保身のためである。


 まず普通に喋れば男だとバレる。


 声だけは男らしいと有名だ。


 そして、俺のような美少女からこんな野太い声が出るのは解釈違いだ。


 俺が喋ればこの世から美少女が一人消える。


 そう思うと、俺は女装中に喋ることは決して許されないのだ。


『これで納得しましたか?』

「……ええ、承知しましたわ」


 あれ?


 なんかモノローグに浸っていたら会話を聞き逃してしまった。


 ど、どうしよう。


 誰かに聞かないとだけど、俺今声出せねぇし。


 そ、そうだ!!


 スマホで文字を打てば……って没収されるんだ!!


 どどどどうしよう!!


 こ、このままじゃ良く分からずに俺死ぬんじゃ……


「あの」


 そんな慌てる俺に声を掛けてくれた相手こそが


「何かお困りですか?」


 俺の人生を大きく変えることとなる。


「……」

「えっと……私の顔に何か付いてますか?」


 付いてるも何も……とんでもない美少女の顔がそこにはあった。


 ぱっちり開いた目に、天井に刺さるくらい長いまつ毛。


 腰までに伸びた黒髪も枝毛一本もないくらい艶やかだ。


 すげぇ、芸能人とかかな?


 俺あんまりそういうの詳しくないけど、こんだけ可愛いならさぞかし有名なんだろうな。


「えっと……さすがに恥ずかしいんですが」


 おっと、ごめんなさい。


 確かに、美少女とはいえ人にジロジロと見られると恥ずかしいよな。


 まぁ俺はむしろウェルカムだけど。


 てかこの子も男ってこと?


 もしかして女装界隈って今きてるのか?


「あ、私の名前は美咲っていいます。お名前をお聞きしても?」

「……」


 自己紹介が始まってしまった。


 どうしよう。


 どうやって伝えるべきか。


 喋れない俺としてはどうしようも……あ


「私の服がどうかしましたか?」

「……」

「……もしかしてですが」


 美咲ちゃんは何か理解したように


「あお……青い……葵さん、ですか?」

「……(コクコク)」


 パッと花が開いたように笑う。


「素敵な名前ですね!!」


 俺の心臓が大きく動いた。


(いやいや、流石にチョロすぎるぞ俺)


 俺は頭を横に振り、冷静さを取り戻す。


 それにしても、運良く彼女の服に青色があって助かった。


 ありがとう母さん、俺に喋らなくても伝えられる名前にしてくれて。


(さて)


 自己紹介を終えたところで、どうやって状況を尋ねよう。


 声も出せず、スマホもない。


 周囲には紙やペンも見当たらないし、デスゲームって一番最初に動くと死にそうだから下手に動けない。


 ここはどうにかジェスチャーで伝えなければ。


「えっと……モニター、ハテナ、聞こえない……」


 俺はゲームマスターっぽい奴の声がしたモニターを指差してた後、?マークを作り、耳を抑えた。


「あ、話を聞いていなかった……ということで合ってますか?」

「(合ってる!!)」

「よかったです」


 俺が激しくヘドバンすると、美咲ちゃんは嬉しそうに胸を撫で下ろす。


 凄いなぁ、今ので分かるんだ。


「あ、私人間観察が好きで、昔から結構人の考えてることを当てるのが得意なんですよ」


 えっへんと胸を張る。


 なにそれ可愛い。


 しかも俺の疑問に気付く辺り、本当に得意そうだ。


(いや待て、これって俺が男だってバレる可能性高いんじゃ……)


 俺の警戒リストにこの子を入れておく。


「あ、そうでした。どうやら私達、デスゲームに参加することになったそうです。びっくりですよね」


 凄い、なんでこの子当たり前みたいにデスゲームを受け入れてるのだろう?


 デスゲームって今時普通なのか?


 タピオカ、TI◯TOK、デスゲームみたいな時代が来ているのかもしれない。


 いやタピオカはもう古いか。


 じゃあ代わりにフィッシュ&チップスでも入れとくか。


「夢を叶える為にはデスゲームで生き抜け。詳しい話を今から説明しよう。そう言ってどっか行っちゃいました」


 夢を叶える為には勝ち抜け……か。


 確かに俺は世界一の女装マスター、略してジョソモンを目指したいと言ったが、命までは賭けたくはない。


 どうにか逃げ出せる方法はないのだろうか。


 そんなことを考えていると


『さて、お待たせしました。これよりデスゲームの詳細をお話しします』


 モニターからまた声が聞こえる。


 今度は聞き逃さないようにしよう。


『まず前提として、今の皆様の姿は全世界に生放送されています』


 どうやら犯人は相当イカれた愉快犯のようだ。


 俺達が殺し合う姿を全国に放送し、それを楽しもうなど異常者の発想だ。


『既に視聴数は数万人を達成しています。これからも視聴数は増え続けるでしょう』


 え、普通に凄いな。


 そんな一瞬で数万なんて、もしかして有名なデスゲームだったりするのかな?


 デスゲームが有名ってなんだろう。


『皆様にはしばらくこの施設で生活してもらいます。期間はそうですね……とりあえず一カ月といったところでしょうか』


 とりあえず。


 つまり、一ヶ月を過ぎてもまだ何か残っているということか。


『そしてその間に、皆様には様々なゲームに参加してもらいます』

「そのゲームに勝てば、わたくし達は生き残れますの?」

『話は最後まで聞きましょうか、宮本アイリーン様』


 宮本アイリーン!!


 名前が強過ぎないか!!


『ゲームはあくまでゲーム。生き残る方法は、施設を出る日。つまり一ヶ月後、視聴者にアンケートを取るその日に全てが決定します』

「それは一体何のアンケートなの」


 あ、急に新キャラ出てきた。


 あの子も可愛いな。


 てかこの部屋顔面偏差値高いな。


 俺含め。


『アンケート、もう皆様は気付いているのではないですか?』


 え?


 何?


 なんか周りの人が真剣な目付きになったけど、俺何も分かんないんだけど?


『そう、一ヶ月後。この中で他のメンバーよりも魅力的だと判断された女の子のみが、このデスゲームを生き抜くということです』


 み、魅力的!?


「つまり……この中にいる皆さんがライバル……ということですか」



 美咲ちゃんは深刻そうな顔でルールを咀嚼する。


 だけど俺にはそれどころではない情報が与えられた。


(女の子ってどゆこと?)


 ここにいるのって女装男子だけじゃないのか?


 もしかして俺


(間違え……られた?)


『一週間ごとに仮のアンケートを行います。そして一ヶ月後、この中の半分の人間が消えることを肝に銘じておいて下さい』


 こうして


「私は……夢を……」

「わたくしが生き残るなんて当然ですわ」

「めんどくさ」

「はわわ、ミナミには絶対に無理ですぅ〜」

「もしかしてあの声って!!」

「こんなの余裕でしょ♪」

「……なるほど」


 7人の美少女と


「……(お家に帰りたい)」


 一人の女装男子による


『さぁ、思う存分潰し合え!!』


 アイドル選抜デスゲームが幕を開けたのだった。

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