ものぐさ盾オトコ(防御は最大の攻撃系怠け者with武闘派美少女幼馴染)

1輝

祭りとかメンドクサ〜

 ココは、〈リマジハ村〉。かつて世界を支配しようとした魔王を討ち倒した、勇者の生まれ故郷。今日は年に一度の意欲的な老若男女が参加する、勇者祭り。祭りで選ばれた者は一年間、勇者として国の行事に参加できる素晴らしい行事である。村の中央広場で行われる祭りに続々と人が集まる中、一人だけ逆走して村の外れに向かう少女が居た。長いオレンジ髪を揺らし、脇目も振らずに駆け走る。一軒のボロ屋に着くと、即座に戸を開け中へ駆け込んだ。家の中には物は少ししか無く、必要最小限と言えば聞こえが良い方だった。ズンズン中へ進むと、膨らんだ布団一式があった。掛け布団を勢いよく剥がすと、少年が一人うずくまっていた。

「起きてー!」

「……」

「起きなさいよ!!」

「…………」

「いい加減に起きろ!!!」

「……………………」

少女が大声を出すも、無反応で寝続ける少年。少女は寝る少年に近づき、首元を掴み揺さぶる。

「起きてよ!祭りだよ!!!」

「……よ。」

「なに?」

「起きてるよ。」

「じゃあ、返事しなさい。」

「ダルい。」

「もー!またそんな事、言って。」

「祭りの時ぐらい、寝かしてくれよスイナ。」

「ダイタは、いつも寝てるじゃない!」

スイナと呼ばれた少女は、ダイタと呼んだ少年から手を離すと、近くの棚を漁りだした。

「ほら、祭りに行くわよ。」

「えー……」

「着替えて着替えて。」

「メンドクサ…………」

「服は、ココに置いておくから。」

「ネミィ……」

「お腹は?空いてるの?」

「うーん。いい。要らない。」

「お水は?飲む?」

「飲む。」

ダイタは差し出された器を受け取ると、寝床にアグラをかいてゆっくりと飲む。

「急いで急いで!」

「行かなきゃダメか?」

「ダメ!絶対ダメ!!!」

「カッタリィ〜」

「今年こそは、参加してよね。」

「見るだけは?」

「ダ!ァ!メ!ェ!」

「余計な仕事、増やしたくねぇ……」

「出れば勝てるんだから。」

「やりたいヤツにやらせろよ。」

「ワタシが嫌なの。」

「分かったよ。」

遠くから太鼓の音が聞こえ始めた。そろそろ祭りが始まる合図であった。

「先に行くからね。」

「…………」

「二度寝しないでよ。」

「…………」

「待ってからね。」

「うーん。」

スイナは祭りの会場に向けて、再び駆け出した。ダイタはボーとしながら、眠たい目で着替えを見る。お腹をボリボリとかきながら、置かれた着替えと今の寝巻きを見比べる。大差が無いと思うと、そのままの格好で家を出た。ゆっくりと、祭りの会場に歩いていった。足取りは重く、何のヤル気も覇気も感じられない、ダラダラとダラけきった後ろ姿であった。


 広場に近づくと、話し声が聞こえる。ウロウチョ長老の長い長い長すぎる話が、際限なく魔法で拡散されていた。ダイタが歩いていると、スイナが数人の男に絡まれていた。

「ちょっと、止めてよ!」

「オレ達と遊ぼうで〜」

「待ってるんだから、どっか行って!」

「どうせダイタだろぅ?」

「そうよ!今年はダイが勇者になるんだから!」

「アイツじゃダメだろい!」

「そんな事、無いわ!!!」

「いいから遊ぼうで〜」

「触んないでよ!」

集団の一人が伸ばした手を、スイナがはたき落とす。叩かれた男は怒りだし、すぐさま手を拳に変えてスイナにくり出した。

「テメェ、何すんだい!」

「キャッー!」

バシンと音がする。拳が当たる音だ。しかし当たった先はスイナでは無く、いつの間にか間に割り込んでいたダイタの掌だった。すぐに手を閉じて、拳を逃げられなくする。

「ウチのツレに、何か用か?」

――メキ

「怠惰なダイタ、かい。」

「もう一度、聞く。」

――――メキメキ

「邪魔すんなよい!」

「ウチのツレに、何か用か?」

――――メキメキメキ

「ウガァァ!!!」

ダイに拳を包まれていた男が、苦痛の声を上げて膝をつく。徐々に力を込められて、とうとう我慢できない程の痛みを拳に加えられていた。

「用が無いなら、どっか行け。」

「あああぁぁぁ!!!」

「それとも、俺に用事か?」

「拳が砕けちまうでー!」

「うがぁあぁあ!!!」

「有るのか?無いのか?」

「無いぃ!無いからぁ!!!」

「そうか。」

ダイが拳に放り投げて解放すると、苦しむ男の体ごと吹き飛んだ。地面に体を転がると、他の男たちが心配そうに取り囲む。

「今回は、祭りの辞退で許してやるよ。」

「辞退ぃ!?」

「次やったら、永遠に祭りを辞退しなきゃいけない体になるからな。」

「すいませんでしたでー!」

さっきまでスイナを囲んでいた連中は、一目散に逃げ出した。姿が見えなくなるまでダイタが見ていると、後ろから声がした。

「守ってくれて、ありがとう!」

「…………ダル」

「ダイは頼りになるねー!」

「メンドクサ……」

「かっこよかったよ!」

「……カッタル………………」

「褒めてるんですけど〜」

「あんな連中、お前ならスグに失神させられるだろ……」

「か弱い乙女には、出来ません〜」

「熊を素手で狩る奴が、か弱い乙女とか無いわ。」

「えーん、怖かったよ〜」

「ぶりっ子、ダッッッッッル!」

「もう、早く行こ!」

「はいはい……」

「長老の話がチョー長いからって、ゆっくりしてちゃダメよ。」

「分かった分かったよ。」

スイナはダイタの手を取ると、引っ張りながら走りだした。嫌々その手に引かれて、祭りの会場へと向かって行った。


 村の中央広場には、沢山の人がいた。勇者祭りの参加者に応援団や運営陣、国中から集まった見学者たちが、取り囲んでいた。出店もあり、辺りには良い匂いも立ち込めていた。ダイとスイナの二人は、祭りの運営がいる場所へと辿り着いた。

「すいませーん!」

「何でしょう?迷子ですか??怪我人ですか???」

「祭りの参加って、まだ大丈夫ですか!」

「大丈夫ですよー。あなたが参加するの?」

「いえ、コッチです。」

運営の人に、スイナはダイタを指さした。見るからにヤル気の無さそうな少年に、すこし不安になった運営の人は確認した。

「怪我とかするかもしれないけど、大丈夫?」

「まぁ……」

「自己責任になるけど、大丈夫??」

「大丈夫です……」

「死んじゃう人も、たまに居るけど大丈夫???」

「…………良いっす。」

本人が大丈夫と言う以上は引き止められないので、出場の許可が出された。二人は急いで出場者限定の入り口に急ぐ。入り口付近には沢山の人がたむろしていた。全員、お金を出して何やら叫んでいる。

「さぁさぁ、買った買った!今年の勇者祭りの優勝者を、当ててみろ!!!」

「ウシュウユに10!」

「オレはナアオオに20!」

「アタイはマウロクに50だよ!」

「勝率が低くれば低いほど、倍率は上がるよー!」

どうやら祭りの優勝者で、賭けが行われているようだった。老若男女が入り乱れて、賭博に挑戦していた。勇者祭りの参加者よりも、熱がこもっている様に見えた。

「やーねー、すぐ大人は賭けするんだから。」

「…………」

「全員、外れるでしょ。」

「なんで?」

「それはダイが勝つんだから!」

「じゃあ、賭ければ?」

「子供はダメなんだって〜」

「あっそ。」

「ちなみに、ダイの倍率が一番高いよ。」

「ふーん……」

「みんな負けると思ってるんでしょ?」

「ちょっとヤル気が出たわ。」

「頑張ってね!」

「うい。」

「応援してるから!」

「早く行け。」

「逃げないでよ。」

「分かってるよ。メンドクサ……」

ダイはトボトボと参加者の控える場所へと向かい、スイナは観戦する為に広場へと向かった。

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