第二章 告白と返事

第9話 宣戦布告

 私は陽菜ちゃんに誘われ校舎から少し離れた人気ひとけのないベンチで一緒にお昼ご飯を食べています。


 なぜ陽菜ちゃんが急に誘ってきたか、私には大体の要件が分かっています。


「桜ちゃんはフミのこと好きなんだよね?」


 陽菜ちゃんは確認するような口調で聞いてきました。


「うん、陽菜ちゃんもそうだよね?」


 私ははっきりと答えてから、同じ口調で聞き返します。


 やはり、フミくん関連でした、私も彼のことで話そうと思っていたのですぐにわかりました。


「うん」


 陽菜ちゃんは少し恥ずかしがりながら、でもこれ以上ないほどにはっきりと答えてくれました。


 ―――――――――


 少しの沈黙がありましたが、今度は私から質問させていただきます。


「陽菜ちゃんはフミくんのどこが好きなの?」


 陽菜ちゃんは恥ずかしがることなく


「えーっと、普段はだらしなかったり、かっこ悪かったりするけどするけど、いざというときに誰よりも頼りになるところかな、あとは私のことを一番知ってくれいていると思うから。」


 これについては私も同感です。


「逆に桜ちゃんはどうなの?」


「私はフミくんに助けてもらって、その時に惚れちゃって、一緒に居ればいるほど好きになっていった感じかな、、」


 私も恥ずかしがらずに答えます。ここで恥ずかしがったら、フミくんのことが好きであること自体、恥ずかしいことだということになってしまいますから。


「へー、そうなんだ」


 陽菜ちゃんは『やっぱりそうか』と納得したような表情を見せていました。


「お互いにフミのことが好きっていう事であってるよね」


 最終確認といった感じで陽菜ちゃんは聞いてきます。


「うん、間違いないよ」


 私はより声に力をこめて答えました。


「じゃあ、桜ちゃんと私は恋敵ライバルってことだね、絶対にフミと付き合ってやるんだから!」


 陽菜ちゃんは顔は笑っていましたが、後ろには燃え上がる真っ赤な炎が見えました。


「そうだね、私も負けない!いや、フミくんに私のことを好きになってもらう!」


 私も負けるわけにはいかないので、笑顔で返しました。

 このときの体温は自分でも気付けるぐらいに高くなっていました。


 お互いに宣戦布告を果たしたところで陽菜ちゃんが呟くように


「でも、桜ちゃんとはずっと友達でいたいなぁ」


 ほんとに陽菜ちゃんにはよくしてもらってますし、これからもっと、仲良くなりたいとも思っています。


 しかし、お互いに恋敵ライバルになってしまった今、そんな都合のいいことを言っていいのかと思っていたところで陽菜ちゃんは声にしたのです。


「そうだよね、私も陽菜ちゃんとずっと友達でいたいし、なんならもっと仲良くなりたいな。」


 ここは私も同じように思っていると伝えます。


「じゃあさ、そうしようよ」


 私は陽菜ちゃんの返しに驚きました。


「で、でも、結果的にどちらかがフミくんにフラれることになって、間に溝ができるんじゃない?」


 私は一番の懸念点を陽菜ちゃんに言いました。


「その時はその時でいいんじゃない?私たちはここではっきりと恋敵ライバルになったわけだけど、それとこれは別々ってことにしてさ」


「そんなんでいいのかなぁ?」


 不安になりますがそれぐらいでいい気もします。


「決着がついたときは確かに気まずくなるだろうけど、将来一緒に話した時にはいい思い出になってるだろうから」


「まぁ、そうだね」


 私は陽菜ちゃんの言ってることが正しいように思い、結局、友達として仲良くしていくことになりました。


―――――――――


 昼休みがおわるころ、教室に戻ってからのフミくんの私に対する態度が少しよそよそしかった気がしますが気のせいでしょうか。


 =============


「フミ、かえろ~」


「おう、桜はどうする?」


 フミは他人が見ても分からない程度だがはっきりとぎこちなく桜ちゃんに声をかけた。


「一緒にかえりたいかな」


「了解、じゃ、一緒に帰るか」


 桜とフミはカバンを肩にかけ教室の出口へ向かった。


 ―――――――――――



「そういえば桜ちゃんはフミとおんなじマンションだったよね、こっちまで来たら遠くない?」


 私は桜にけん制するように聞いた、できればフミと一対一で帰りたいのだ。


「私は大丈夫だよ」


 桜も私の意図に気付いたのかはっきりと大丈夫といった。


 フミの目の前では見えない火花が散っていた。


「俺には何も聞かないのな」


 フミはそんな様子に気付いた様子もなく、私にツッコむかのような口調で言った


「まぁ、フミには自己決定権ないから。」


「ん?俺には日本国憲法適応外なのか?」


 フミはこのノリにノッてくれたようだ


「え、適応されてたの?」


 私はフミがノッてくれたことをいいことにボケる。


「人間だし、ちゃんと日本国籍だわ!そういえば、俺一回も外国行ったことないな、なんならパスポートすらないわ」


「私もかな」


「うん、私も」


 私と桜も同じく『パスポートすらない勢』だった。


 この後は外国行くならどこがいいかとか、修学旅行は海外がいいとか、そんな他愛のない話で時間が過ぎていった。


「じゃあ、また明日」


「おう」


「また明日」


 私は二人に別れを告げると桜への宣戦布告以降初めての一人の時間になった。


 改めて考えると、同じマンションに住んでいるということはこれ以上にないアドバンテージで、

 私がそこに勝つにはもっとアピールしていかなければならないということだ。

 

 とりあえず、明日はフミのために弁当を作っていこうと決意し、アラームをいつもより1時間早くセットし、

 メッセージアプリでフミに


『明日、フミの分の弁当用意するから』と送った。



 フミからは数分後に


『いいけど、なんで?』と返ってきた


『なんでわかってくれないの?』と陽菜は思ったが、


 急に『明日、弁当作っていく』と言われたらこういう反応になるのが普通だろう。


 そんなことすら気付けないほど、恋に盲目になっている陽菜は


『ちょっと料理の練習がしたくて』ともっともらしい言い訳をつけて送った。


『どういう風の吹き回しだ?』と秀文はふざけたようなスタンプとともに送ってきた。


 陽菜は少しイラっときたが、本音をこんな感じで伝えるわけにもいかなかったため

『ちょっと心情の変化がありまして、、』と相当濁して送信した。


この時の陽菜はスマホに跡がつくぐらい強く握っていた。



 それに対してフミは『なんかこの返事聞いたことがあるな』と思って苦笑いしていた。

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