第32話 謎の招待状 後編


 当然少し誤解されてしまった。


 あの母様まで少し固まって明後日の方向を暫く見詰めて居た。僕は慌てて弁解した。と言うかまだ僕は5才の子ども何だから、大人の様に言葉を順序立てて話すのなんか難しいんだから、そこは察して欲しかった。



「なんだ、そう言う事か。いきなり上着を脱げと言われたので私も息子とは言えドキッとしたぞ」


「僕がそんな趣味有るわけ無いじゃ無いですか」


「そうよね〜母さんは信じてたわ」



 どの口が!?

 真っ先にじと眼をして来たのは母様じゃないですかっ。



「それより背中の傷を見せて下さい」


「ああキマイラ戦の時のだな、分かった」



 そう言うと父様は身体を捻ると僕に例の戦闘の後に負った傷の部分を見せてくれた。


 驚いた!?

 傷がちゃんと残っている。


 じゃあ何故、ステータスが変わったんだ……。



「どうだ、身体の傷を見てなにかわかったか?」


「いえ、すいません。分かりませんでした。ただ、傷痕が残っているのですが、どう言う訳か父様のステータスが回復しています」


「それって、どういうことなのメディウス……」


「恐らくですが、父様は以前のいえ、それよりも強い一級剣士になられてます」


「また力が戻ったのは私にも自覚は有ったのだが、以前よりも強いとはどう言うことだメディウス」


「実は以前父様の経験値のステータスを見た時は何かの状態異常が起きていて、もうこれ以上経験値を積む事が出来ない状態だったのですが、今は異常が解除されています。なので、今回のシルバーウルフとの戦闘経験値が上乗せされてレベルアップされたのではないかと……これはあくまで僕の想像ですが」



 とは言ったものの理由までは便利眼で説明表示されるわけじゃない。いくら便利だと言っても、解析にも限界はあるようだ。ただあの時みた状態異常が消えているのだから、正直それしか理由が思いつかない。目に見える傷と経験値との間に状態異常を引き起こす関係性はなく、キマイラの魔素が父上の成長を止めていたのだと思う。その魔素が浄化されたことにより、今回の戦闘経験で父上がレベルアップしたが考えとして妥当だろう。



「まあ、そうだとしてももう私は王国騎士団へは戻らないがな」


「もしその話を受けるなら即離婚ですからね〜」


「そ……そうですか」



 母様の口角は確かに上がってはいるが目が据わっているのは気の所為でしょうか?


 久しぶりの一家団欒のひと時なのに僕も父様も嫌な汗が額から流れていた。恐らく僕と同じように背中の方でも流れているのだろう。


 シルバーウルフよりも怖いんですけど(汗)


 そう思っていた時、突然家のベルが鳴らされた。



 カランカラン



「あら、誰かしら?」


 突然の訪問者に僕と父様はこの緊迫した空気から逃れる事が出来た。居間で皆が待っていると、コンコンと扉を叩く音がした。この叩き方はいつも聞き慣れている優しくて暖かい気遣いの有るノック音。


「どうぞ」


「失礼します奥様、こちらを」


「アンナ、ありがとう」


 何か封筒の様な物が見える。今まで見た事の無い豪奢な材質なのか全体的に白を基調としているが外枠は金色で囲われている。また真ん中には見慣れない刻印の様なものが見えた。蝋で固めたのだろうか?まるで薔薇の華を使用した様に赤々とした色合いだ。



「このシーリングスタンプは教会からだな。しかもこのマークはオムニバス様のものだ」


「オムニバス……キャバリエ?」


「ああ、そうだ」


「どうして家にこんな物が ?」


「ミランダ取り敢えず中を見てみよう」


「ええ、わかったわ」



 そう言って母様が手紙を便箋の中から取り出そうとした時、割って入る様になにかしら慌てた様子で侍女のアンナが言葉を付け加えた。



「旦那様、奥様」


「ん? どうしたアンナそんな大きな声を出して」


「申し訳御座いません。実は、玄関にお待ちの方が……」


「そうなのか、何故それを最初に言わない。それじゃあそれは私が対処することにしよう。ちょっと二人は此処で待っていてくれ」


 そう言うと父様はおもむろに椅子から腰を上げると、足早に居間を出て行った。母様は取り出しかけた手紙を一旦中へ戻すと、テーブルの上に置きスカートの裾を両の親指と人差し指でギュッと掴んだ。それはギュギュっと力ずよく音を立てた。


 ウチに一体誰が訪問しに来たと言うのだろうか……。



 耳をそばだてていると、玄関の方でかすかに何やら揉めているような声が聴こえて来た。今の扉が閉まっているため、一体どのような会話をしているかははっきり分からないが、いつもの父様の声じゃないのは確かだ。


 声が止むと、ドタドタドタと床を踏みつける音が廊下の辺りで響いていたかと思うと、物凄い勢いで父が部屋に入って来た。



「信じられない、信じられないぞ!?」



 彼の一声はこうだった。

物凄く驚いた表情をし、そこには怒りよりも喜びに満ちた顔をしていた。



「いいか、聞いて驚くなよ。我が家に爵位が返されることとなった。特に王国騎士団へ戻る必要もない」



 どうやら、誰かと争い合っての声ではなく、興奮するほどの吉報に父は大きな声を出さずにはいられなかったようだ。しかし、腑に落ちないことがある。それは母様も同じで、すぐに理由を父様に確かめた。



「一体どうしてよノラン、例え今回のシルバーウルフの件が有ったとしても、そんなに早く王都へお話が行くはずないわ」


「ああ、そうだその通りだミランダ。理由は他にある」


「それって何かしらの交換条件が有るってこと」


「ああ条件は二つある。一つは手紙に書かれているそうだ。もう一つはまだ正式には決まっていないらしく、追って通知があるとの事だ。だが、王国騎士団に戻る事はないらしい」


「そう……。一つ目は此処に書かれているのね」



 そう母様は言うと、先程とは違いゆっくり封筒の中に指をいれ、それを掴むと深く一度深呼吸してから、やおら手紙を取り出した。


 そこにはこう記載されていた。



 ~~親愛なるアーネスハイド殿~~



 まずこの手紙を読んで突然のことに驚かれるやもしれない。

しかし、先のオートナリアの司祭フィアット・ワズナーより奇妙な報告を受けた。貴殿の息子殿の鑑定結果についてだ。一見特質すべき加護を持たない人間と見えるが、どうやら違っていたことが分かった。其方の息子の加護が未知のものであること。そして魔法属性が8と表記されていること。水晶から示される情報に出鱈目な結果を示すことは無いと私は考えた。


 貴殿も元王国騎士団の出、知っての通り先の戦で勇者は何者かの手によって殺された。勇者の持つ加護ではもう魔族に太刀打ちできないと言う事だ。そのため、私は其方の息子の加護が今度の魔王に対しての鍵だと推測している。そしてもう一つ分かった事は魔法の属性の8についてだ。色んな書物を漁ったががやはり8つの属性など確認ができなかった。そして疲れていたのかうっかりとその報告書を床に落としたのだが、その時に気付いた。あれは8ではなく、無限の文字であることを。


 だが、それだけならば私は其方にこの手紙を送る事はなかった。私が最大限に興味を持ったのは、何百年も経過せぬと完璧な水晶にならない鑑定用の水晶が、其方の息子の鑑定後に完璧な水晶へと昇華したことだ。偶然でなる代物ではない。特別な力を具えてこそのなぜる技だ。


 しかし安心して欲しい、将来はどうしても其方の息子の力が必要となるやもしれないが、其方の息子が成長するまで、我が教会は其方の息子を保護する観点で動かせてもらう。その為にも、立派に成長をして貰う環境が必要だと私は考えた。


 そこでだ、其方の息子を王立アカデミーへの無条件入学のパスを送ることにする。詳細はまた今度の使いにより追って報せよう。


 条件を呑んで貰える場合、貴殿の男爵の復帰を約束しよう。



王国 大司教 オムニバス・キャバリエより



~~~~




「司祭様には、どうやら息子に能力があることを見透かされたようだ」


「どうなるのメディウスは?」


「運命の歯車には我々では逆らうことはできない。それに大司教様は最善の策を息子に提供してくれるみたいだ。此処は王国の民として従うほかあるまい。それに息子を王立アカデミーへの進学させられる。これは願っても無いチャンスと言えよう」


「納得はできないけど、そうするほかないわね。それに条件を呑むことで、また爵位が得られるのですもの。こうしちゃいられないわ、今から修行を開始するわよメディウス!?」


「えっ、ぇえええええええええええ!?」


「何がええよ、善は急げと言うでしょう。時間は有限なの、アナタが王立アカデミーへ入学する頃には、最低でもCランク冒険者くらいの腕を身に付ける必要があるわ」


「まあ、もしあの時の戦闘で見せたお前であれば、既にSランクに近いAランクの実力なのだろうがな」


「あははは……はぁ~」



 そうして僕はその日以降父様と母様から剣術と槍術について毎日徹底的に叩き込まれた。一年、二年と時はあっという間に過ぎ、また青葉が生い茂るころ、僕は9歳を迎えようとしていた。


「父上、行きます」



 ━回天

 ━首狩り

 ━絶…………。



「うわぁああああああああああ、いつつつ……」


「はははは、メディウスまだまだそれはお前には早過ぎる」


「いやはや、大したもんじゃ坊ちゃまは」


「止めてくださいジルスさん、坊ちゃまだなんて」


「いえいえ、もう儂は、いや私めはアーネスハイド男爵様のいち召使となります故」


「はは、ジルス殿。私も流石に歯痒いというか、其方に言われると慣れないものだ」


「旦那様まで、こりゃあ参りましたな、ガハハハハ」



 そうと或る事がきっかけで、あの冒険者でドワーフのジルスさんが僕等の家族の一員となったのである。人生って言うのは本当に分からないもので。まあ、そのお話はまた今度機会が有ればと言う事で。



「ちょっとちょっとノラン、大変よ!?」


「どうしたというのだミランダ、そんなに血相を変えて? もっと自分の身体を大切にしなさい」


「大丈夫よこれくらい、それより……もう一つの条件が遂に届いたわ」


「一体、なんて書いてあった?」


「親愛なるアーネスハイド男爵殿、貴殿の一家は来年をもって、現イスカより王国近郊都市サザンオートクロスへの移転を命ず……」


「「「…………」」」


 そして僕が10歳になる頃には、イスカの町に別れを告げ、王国近郊都市サザンオートクロスへ引っ越すこととなった。




 ……人生って言うのは本当に何が起こるのか、分からないものだ。






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