第15話 司祭を名乗る男 後編



「大主教様!? 司祭などと」


「別に構わないだろう。私も神様にとってはいち牧師なのだから、それにあの少年に興味が沸いたのだよ」


「と言いますと?」


「この私のストラは君のまなこにはどう映って見える?」


「銀と金の刺繍が施されていますが、それが何か?」


「彼には青と緑色の結界文字が見えていた」


「それって……」


「ああ、これは賢者や一流の魔法使いレベルでしか見えない代物だ」


「と言う事はつまり……」


「彼は普通の子どもでは無いと言う事だよ。少し試したいことが有る」




◆◆◆◆◆




「お待たせして申し訳ない。少々用意に時間が掛かってしまった。もうすぐ鑑定のための水晶が用意出来るので、もう暫く待っていてくれませんか」


「それは勿論構いません。それよりも?」


「どうかしましたか?」


「いや、しかし豪勢な服じゃの~~金ピカじゃ!?」


「ジルスさん司祭様に失礼ですよ、儀式用にカズラをお着換えになられたのでしょう」


「儀式と言っても息子の鑑定程度なので、そこまでしていただくとも」


「いえいえ、息子さんの誕生日でも有りますから、それなりの恰好をさせていただきました」


「僕の為にわざわざありがとうございます!? 金色の輝きに、金とは違う白くてピカピカな文字と青色の絵がとても綺麗ですね」


「ん? 何を言っとるんじゃメディウス殿は?」


「そうですね~~何の事を言ってらっしゃるのかしら?」


「彼が想像力豊かと言う事でしょう。衣装を褒めてくれてありがとう。それより準備が出来ましたので、あちらの部屋へメディウス君」



 司祭の振りを装う男は、彼が身に纏うカズラという上祭服の感想を聴き有る確信めいたものが芽生えた。彼が着替えた服には上位の光魔法が施されていたのだ。先程のストラは偶然の可能性が有ったため、別の物を使って彼が賢者の素質を兼ね備えているか見極めるため、敢えて服を着替えていた。


 普段の人々は謁見する事のない聖女と同様に彼もその人であった。王都の大主教オムニバス・キャバリエその人である。本名を名乗れば、メディウスの父はもちろん、他の連れの者にも悟られるため、今日は此処の司教の名を使用していた。



「申し訳無いが、此処へ通せれるのはメディウス君のみです」



 すっと手を挙げると、男はドーフを制した。先程から笑顔を絶やさなかった男から笑みが消えていた。



「儂らは入っちゃいかんのか?」


「ジルスさん、当たり前じゃないですか?」



申し訳無いようにメルはペコペコと司祭に向かって頭を下げる。



「メルの言う通りだ。鑑定結果と言うのは本当は安易に人に見せるものじゃない。もし息子が見せて問題無いのなら別だが………」


「僕も鑑定時には一人のほうがいいです」


「さて、決まりだ。それでは行きましょうか」


 そう言うと彼はメディウスの横に並び、歩幅を合わせてゆっくりと荘厳な造りの扉まで歩いた。扉の前に立つと、ドア向こうに居る者たちへ合図した。


 観音開き式の旧い扉からは、開く度に軋む音がした。その音は、彼等をこれから別の世界へ誘うかのように教会の空間へと響いた。



「では行こうか、メディウス君。足元に気を付けて、何分旧い造りのため、出っ張った部分が有りますから」


「はい、ありがとうございます」


「それでは、連れの皆様は数分間祭壇の間でお待ちください。それでは」



 彼等が入って行くと、大きな扉は二人の牧師によってゆっくりと閉じられた。再び何も音のしない静かな空間へと返った。



「ふぅ~~」


「どうかしたのジルス、なんか額の汗がもの凄いことになってるけど?」


「いや、あの司祭普通じゃないわい。あんな人間がこんな辺境に居るとはのう~~教会も侮れんものよ」


「それはどういう意味ですか?」


「まるで真剣を抜いた戦士が眼の前に立ちはだかった………」


「そうじゃ、まさにそれじゃ。ノラン殿も感じましたか?」


「ええ、流石に剣気では無いとは思いますが、それに似た何かを私も感じましたよ。あの眼は一般人のものではなかった」


「え!? どっどいうことですか?」



 メルには何の事なのか分からなかった。しかし二人の会話には一切の冗談がなかった。彼女ができることは暫く、キョロキョロと二人を見る以外何も出来なかった。


 刃物を持って生身でモンスターへと立ち向かう者しか分からない気迫。それを司祭の男から、二人は感じとっていた。治癒と防御を主体とする魔法使いのメルでは到底理解など出来無い。


 疑問に持つ方がおかしい疑念を、ジルスとノランは持っていた。本当に彼は牧師なのだろうか? と……





 部屋に入ると、以前鑑定をした時には無かった、大きな大きな水晶の玉が用意されていた。前回のものはまるでガラスの様に透明なそれであるが、今回置かれていたものは、透明では有るが、中にヒビが入って居る様に見えた。



「どうかしたのかな?」


「あの? 水晶にヒビが入って居るみたいですが?」


「ああ、それはヒビではなく、内包物が見えているものだ」


「内包物?」


「そう、インクルージョンと呼ばれていてね。この水晶玉は成長過程にある」


「成長過程ですか?」


「ああ、そうだよ。天然の水晶玉はね、長い年月をかけて無色透明のものへと変わっていくんだ」


「そうだったんですね。角度によって虹色に見えて綺麗ですね」


「そうだね。レインボークリスタルともこれは呼ばれている。長年使用している私達にも謎でね。水晶は二通りの成長をするのだよ」


「二通りですか?」


「ああ、一つ目は自然界でゆっくりと外界の影響を受けずに透明な水晶へと変化していく。これを見てごらんなさい。私が愛用している腕に付けているものだ」


「なんか、気泡が入っていますね。あっ、でも入って居ないのも有る」


「良いところに気が付いたね。実は以前はこの透明なものもこの玉と同じで、気泡の様になっていたのだよ」


「えっ!? どういう事ですか?」


「これが、二つ目の成長なのだけれどね、どうやら我々の魔力を吸って水晶自体成長することが分かっている」


「不思議ですね!?」


「ああ、水晶とは不思議な石だ。そして、理由は分からないが、我々の能力を読み取ってくれる道具にもなる。これから行う鑑定がそれにあたる」


「………」



「どうしたのかな? メディウス君」


「いや、こんなとても大きな水晶なので、なんかドキドキしてしまいまして」


「なるほど、そういうことですか。やり方は小さくても大きくても何も変わりません。両手を水晶の上に置いて、そう、そして瞳を閉じて、水晶の声を聴けばいいのです」


「はい」



 メディウスは言われた通りに眼を閉じた。閉ざされたはずの視界は暗くなることは無く、寧ろ白い光に包まれた。まるで以前何処かで此処に来る前に体験したようなそんな懐かしさ。


 暫くすると、視界がゆっくりと開けてきた。眩しい太陽の光を見たあとにできる黒っぽい何か、それが段々と小さくなってゆく。まだ若干ぼんやりとしてるが、まなこには光の文字が浮かんでいるように見える。今自分は眼を閉じているというのに。


(普通なら僕の瞳に映るのは瞼の裏側のはず、なのにまるで目を開けているようだ。それに、この空間は一体………)


 光の文字がハッキリと映し出された。本当は瞳のピントが合っただけなのだろうが。そこにはこう書かれていた。




 ━━現在のステータスを上書きしますか?




 文字を頭の中で読もうとすると、今度は声が聴こえて来た。

(誰だろう? 知らない女の人の声だ)


 僕は姿の見えない彼女へステータスを上書きして貰うよう頼んだ。



「おっ、お願いします」



━━畏まりました。貴方のステータスを最新の状態へ変更いたします

━━暫くお待ちください

━━………Loading

━━………完了するまで、手は決して離さないでください

━━………30%

━━………78%

━━………Complete



名前:メディウス・アーネスハイド A


身分:元男爵家、現騎士の息子

レベル:3


HP X052 MP 0501

STR 001X ATK 05XX

DEF 002X AGI 051

LUK 不明 INT 0015

CHR 00001



EXP 次のレベルアップまであともうちょっとかも?


加護: 

便利眼、マガジン、イマジン、アニメ、

口寄せ

ズル賢X、X間魔X、X力XX、X憶術、速読、X生X力

不明、その他


魔法属性:8(光.......)


勇者確立:対象外

※勇者とお話できる特典がつきました

英雄適合率:なしというか、それ以上です



━━此処に表記されていること及び、体験されたことは他言無用でお願いいたしますね。

━━同意されましたら、この作業は終了となります。


━━同意しますか?





「どっ、同意します」







 

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