第25話 便利眼の力
さっきまで普通の子、いや普通以下の子だと認識していた。それなのに急に実の父から僕が次世代の勇者だと言う言葉が出て来た。
教会の前に祀られていた勇者を称える像、そこでも確かに心の中に勇者ルーザー・マケルシカナイトさんが話し掛けてきた。あれは何かの幻聴としか僕は捉えていなかった。でも、どうやら幻聴では無いらしい。
今僕の眼の前には、勇者が立っていた。
やあ、と言う申し訳なさ程度に右手を挙げて。
これも便利眼の力の一つなのかもしれない。
「メディウスどうした?」
「いえ、何でもありません」
「そうか、メディウス安心しなさい。父は全力でお前を守ってやる。お前を勇者の二の舞なんかにしない」
その言葉に勇者は少し驚き、そして情けない顔をしていた。
魔王に辿り着く前に命を落としたのだ、面目が無いのであろう。
僕以外に彼の姿が見えないのは幸いだった。
「いや、それはちと無理が有るとわしゃ思うがの」
「賢者様が預言されたのであれば、いずれは……」
「未来の事などどうでもいい。あくまでそれは預言だ戯言かもしれない。それに私の息子の名前が記されているわけじゃ無い。他の誰かかもしれない。私は息子を危険な目に合わせたく無い、それだけだ」
「しかしのう……『ロンベルさん!?』……」
彼は何か言いかけたが、メルさんが彼を制するように袖を引っ張ると、静かに首を横へ振った。
父様の言葉を聴いた勇者ルーザは反対に首を縦に下し納得していた。そして、教会の時と同様に彼は僕の脳内へ話掛けて来た。
「君のお父上が言って居る事は正しい。私にも娘が居るから彼の気持ちが良く分かる。娘には僕と同じ運命なんて辿って欲しくない」
「娘さんが居るんですか?」
「ああ。幸い彼女には僕の様な力は無い。それに私の妻はエルフだ」
「それじゃあお子さんはハーフエルフ」
「そうだ、何故かは分からないが、他種族と血が混じると勇者は生まれない。別にそれを狙ったわけじゃないけどね。たまたま彼女と知り合い。恋に落ち、そしてあの子が産まれた。それだけだよ。それに、僕が魔王を倒す予定だったしね」
何処か遠くを見つめる仕草をすると、彼の瞳からゆっくりと滴が流れ落ちた。そして下を向くと同時に、ギュッと力強く下唇を噛んだ。
悔しい、彼は決してその言葉を口にしないが、メディウスにはそれが物凄く伝わった。例えまだ5歳の少年でも、彼の流す泪を見て彼もまた胸が苦しくなった。
「どうしたメディウス、何処か痛むのか?」
父の声で我に返ると、自分も勇者と同じ様に瞳から涙を零していた。
「いえ、何処も痛く有りません。父様の言葉に感動していたんです。この旅行に来て良かったなって」
袖で涙を拭うと、心配をかけないように満面の笑みを浮かべた。それを見て、ノランはもちろんの事、他の2人もほっと胸を撫で下ろした。
メディウスは2人にも笑顔を向けた後、本を再び選ぼうとした時、それは起こった!?
━━確認しますか?
唐突に、彼の父親の横の空間に文字が浮んだ。
謎の声と共に何かを確認するか、しないかを尋ねて来たのである。
(えっ? 何を確認?)
もしかして勇者様なら分かると思って、先程彼が居た方向へ視線を移したが、既に彼の姿は消えていた。
━━確認されますか?
またこちらの意図とは別に、まるで催促されるように空間に文字が浮かんでていた。若干言葉が変化している。
「あの、父上」
「どうした、メディウス?」
「変な質問をしても宜しいでしょうか?」
「なんだ?」
「いま、父上の横に『確認されますか?』って文字が表示されてるんですけど? これは何ですか?」
「私の横に文字……そんなものは無いが?」
チラッと左右を確認したあと、ノランは彼に答えた。
「えっ? 父上には文字が見えないのですか?」
「メルさん、ロンベルさんにも見えていないのでしょうか?」
無いと言われたので、メディウスは今度二人に空間に浮かぶ文字について尋ねた。すると、空間の文字が増えた。正確には、今度はメルとロンベルの横にも同じ文字が浮かんで表示されていた。
━━確認しますか?
同じように彼女等も左右を見渡すが、何も見えないと返答がかえってきた。
ここで分かった事が一つ、この空間の文字は対象物を見た時に表示されることが分かった。そして、同じ人間を繰り返しみていると、文字は少しづつ催促感を詰めて来る。
━━確認しますか?
━━確認されますか?
━━確認しないのですか?
━━確認してはどうですか?
━━確認したらどうですか?
━━確認したらいいのに?
━━確認しないの?
━━確認なんでしないかな~~
━━確認すればいいじゃん
━━もう確認してもいいんじゃないの?
見る回数が増えれば増える程、尋ね方がどんどん雑になって行く。しかも、同じ事を訊いて来てはいるのに、こんなにも言い方にバリエーションが有る事に驚いた。
次に対象相手を見た場合、一体どう尋ねてくるのだろう? と思いつつ、次でその声の要求に従う事にした。
━━そろそろ確認してよぉ~~
(うん、確認するよ)
僕は心の中で、頷きそして確認する事を願った。
━━畏まりました。ようやくかよ!?
━━ステータスをオープンします。
名前:ノラン・アーネスハイド
身分:元男爵、元一級剣士、現在三級だけど二級に近い
レベル:70
これ以上伸びる事はありません
HP 1500(*3000) MP 800(*2000)
STR 1500(*5000) ATK 2000(*3000)
DEF 800(*2000) AGI 1000
LUK 300(*1000) INT 1500
CHR 2500
*一級剣士時代
EXP これ以上伸びる事はありません
加護: (戦神)、(神速)、(剛力)、風、(光)
※加護で( )となっているものは、キマイラ戦闘後に失われました。
魔法属性:1
勇者確率:65%
英雄適合率:70% (剣王)
……これって
謎の文字と声が僕に確認を求めていたのは、紛れも無い対象者のステータスだった。通常は鑑定書の確認をするために、わざわざ協会へ足を運ばないといけない。
この力を使用すれば、対象者のステータスを勝手に覗ける事になる。しかも相手の許可無く。そして僕は今さっき、父上のステータスを勝手に確認してしまった。
表示された情報を見て、やはり父様は凄いと思ったものの、それと同時にショックも大きかった。もし、キマイラとの戦闘の後遺症が無ければ、今より遥かに強く、本当に剣聖になっていたかもしれないのだ。
紛れもなく、嘗ての父は英雄に位置していた人なのだ。
「メディウスさん、どうされました?」
「えっ?」
「さっきから、何処かを見詰められている様な気がしますが?」
「いえ、別に。ただ、少し考え事を」
声を掛けられたので、メルさんの方を振り返るとまた横にさっきと同じ文字が出て来た。いや、正確には言い回しが若干おかしくなっていた。
━━この
(いや、なんで急に声が男の声に……しかも意味深な声)
(確認しないよ)
━━ちっ
(なっ、舌打ちされた!?)
これはさっき覚醒した便利眼のもう一つの力なのだろう。凄い能力ではあるけど、人のステータスを勝手に覗くなんて……これは封印しよう。誰かと出逢っても勝手に覗かない。よしっ、そうしよう。
僕は僕の中で便利眼の二つ目の能力について勝手にルールを敷くことにした。
「ロンベルさん」
「うん、なんじゃな?」
「残りの本も見てもいいですか?」
「もちろんじゃとも」
その後僕は、この便利眼の第一の能力魔眼と同等の者を発動し、どの本が良いのか選んだ。僕は運命に従うかはまだ分からない。
でも、何となく選んだ全ての本には例の賢者のメッセージが含まれていた。
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