第23話 本に記されし予言の言葉 前編


「あのぉ〜〜ロンベルさん」


「ん? なんじゃな?」


「もう一度だけ試しても良いですか?」


「別に良いが」


「じゃあ、この本じゃ無くて、別の本で試したいのですが?」


「他の本?」


「はい、何となくなのですが、試していないもので挑戦したいと思って」



 魔眼が開眼したわけじゃない。でも、便利眼と言うものがこのタイミングで開眼したって事は何かしらの意味が有ると僕は心の中で感じていた。直感って奴だ。名前からして魔眼とは違うのだけれど、ひょっとしてまた別の意味で見えない文字が見えたりするのでは無いだろうか?


 何よりも僕の加護の中で最初に使用が可能となったんだ。試してみたいに決まっているじゃないか。


「ふむ、坊やの眼を見て分かった。よくは分からんが、何かを掴んだ眼をしておるの~~」


「はい、実際に試してみないと分かりませんが、もし出来た場合は、皆さんに理由を説明します」


「あい分かった、じゃあとっておきの本を渡してやるわい」


「ありがとうございます」


「っと、勘違いするでないぞい、今度はタダでやらんからの」



 僕が本を受け取ろうとすると、一旦両手を引き覗き込むような表情をしながら片眉を上げた。その後、いたずらっ子の様に笑ってから、そっとその本を渡してくれた。



 題名を見て驚いた!?


 それは魔法に関する本だった。魔眼の内容が読めなくてもワクワクするタイトル。それだけでも十分に楽しめそうなのに、もし魔眼持ちであれば、更に此処に記載されている以上の未知の知識がページに隠されている。


 僕は既に二度も失敗している。便利眼と言う名前の加護が使用可能となったとはいえ、魔眼の様に何かが見える保証は無い。まして、魔眼持ちが見る世界を見れる確約など無いのだ。


 僕は眼も瞑り、そして本のページをゆっくりと捲った。


「どうじゃな?」


「どうだ、メディウス!?」


「どっ、どうでしょうかメディウス……」


「魔法の事が書かれてます。物凄くこれは勉強になる本ですね」



 それを聴いたロンベルさんは溜め息をつくと、テーブルの横に有る椅子に座り、額に拳を当て首を左右に振った。


 それを見た父様もその意味を悟ったのか、何も言わずに天井を仰ぎ見た。



「どうしたんですか? 二人とも」


「いや……何と言うか、のおノラン殿」


「ええ、息子は普通のままでイイとは思っては居るのですが、息子の意気込みを見ていたので、結果がこうですと何もできない親としては……」


「あのぉ〜〜僕はまだ加護を使って居ませんよ」


「「何だって、何故それを早く言わんのだ!?」」


「メディウスさんはまだ落ち込んで無かったじゃ無いですか、早とちりはダメですよ」


「「メル、お前が言うな!?」」


「はひぃいいいい」


(あらら、とうとう父様までメルさんを呼び捨てする様になった)



「じゃあ、行きますね」



 この力が魔眼に匹敵するかは分からない。それに本当に使用出来るかも分からない。でも、僕の瞳へ何かが流れ始めているのは間違い無い。



━━便利眼



 これって……


 この本って市場に出回って良い物じゃ無いのでは? 何時の時代に記されたものかは分からない。でも、これは紛れも無い過去の賢者が遺したメッセージで有り、予言の書だ。一体、どういう経緯でこの本に記されたのかなんて不明ではあるけど、それにしても凄い。


 ダンジョンの秘宝とか素材とかそう言う物が書かれていると思ったけど、魔眼の様な力を使えるとこんな情報までもが手に入ってしまうんだ。


 確かに叡智の力だ。



「今度こそどうじゃ?」


「賢者の予言が書かれた本です」


「ガハハハハハ、やりおったぞ!? 見えとるわい」


「ほらほらっ!? 私の勘が当たったじゃ無いですか〜〜」


「それって?」


「息子さんは、いえメディウスさんは魔眼持ちです」


「じゃわい、じゃわい」



 皆が僕の結果に自分の事の様に喜んでくれている。でも、魔眼の力じゃない。せっかく盛り上がってるところ、水を差す様で悪いけど、この僕の加護の事を彼等には共有しなくては。



「あの〜〜」


「何じゃ?」


「どうしたメディウス?」


「どうかされました?」


「喜んでくれてるのは嬉しいんですが……実は魔眼じゃ無いんです」


「「「!?」」」


「父様もメルさんも、もう僕の鑑定書の加護を見てると思いますが、便利眼の力です」


「なんじゃと!?」



 便利眼と言った後、何よりも一番驚いていたのはロンベルさんだった。

彼は、何か知っていると言うのか?



「どうかされたんですか、ロンベル殿?」


「そうですよ、ロンベルさん。イキナリ大声何か出して、びっくりするじゃないですか!?」


「いやっ、済まん。じゃが、わしゃはなっ、冒険者をしていた頃、と或るダンジョン内でその事について記されている石碑を見たんじゃ」


「その事と言うのは?」


「お前さんの持つ加護、便利眼の事じゃ」


「僕の加護の事ですか」


「そうじゃ、便利眼はなっ。魔眼とは比べ物にならんほど、優れた力を秘めておる。じゃが、わしゃはこんなの眉唾の話だと思っておった。ダンジョン内にはなっ、悪戯書き等も少なくない。それに、今まで見た事も無いから、嘘だと思っておった」


「でも、実在したと」


「そうじゃ、メル。そうじゃ、わしゃにも鑑定書を見せてもらえんかのう?」


「えっ!?」


「さっき会ったばかりの男にほいほいと見せられんのは分かっておる。じゃが、本当かどうかこの眼で確かめたいんじゃ、駄目かの? 見せてくれたら、その本もタダでやろう。それでどうじゃ?」


 悪い人には見えないけど、全然面識が無い。まだ、僕の心の中で彼には開けない部分が有った。不安な僕は思わず父を見ていた。


 すると父はそっと首を縦に曲げた。

(信用できる人だってことですね、父上)


「分かりました、どうぞ」


「信用してくれてありがとよ、坊主」


 

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