第21話 開眼せよ 前編


 誕生日のこの日僕等は、メルさんの提案で僕に魔眼が有るか無いかの確認の為、とある古本屋に訪れていた。


 そこで彼女が運んで来た一冊の本を渡され、僕はドキドキしながらページを捲るのだが、残念ながら目に映るのは植物の絵がひたすら描かれた植物図鑑の本だった。その後、父も同じ様に本を開いた。僕はもしかしたら父には文字だらけにしか見えないのでは? と言う期待が有ったのだが、残念ながら僕と父が見えているものは同じだった。


 それは僕には魔眼と言う特殊な力が無い事を意味していた。僕も父も落ち込んでいたその時だった。突然見知らぬ男が現れ、声を掛けてきたのだ。するとメルさんは当たり前の様に彼に僕の魔眼の結果について話し始めた。


 本屋へ向かう道中、僕等に他人に知られると危険なため、他言無用とさんざん釘をさしていた当の本人が、本屋のオーナーに軽々しく伝えて居た事に僕と父は驚いた。


 それを聴いた父はメルさんに対し不注意であることを伝えたが、実は何とそのオーナーも魔眼の持ち主だった事が判明した。


 彼は魔眼持ちで有る事を隠し、本屋を営む事で安全に魔眼を持つ人しか読めない本を密かに集めて居た。古本屋を開けば、要らない本として勝手に売られて来るかららしい。そして、さっきメルさんが持って来た数十冊の本は、実はオーナーが彼女に渡したもので、それを彼女はただ僕等に持って来て見せただけだった。



「それじゃあ」


「そうじゃ、それらはわしゃがお前さんに用意した奴じゃよ」


「じゃあ……」


「ええ、私はロンベルさんに頼んだだけですよ」



 僕のさっきの言葉を回収したい。てっきり彼女は僕の為に必死になって、この本の山から眠る数十冊の魔眼に関係する本を探し出してくれたのだと思っていた。しかし、事実は違った。


 真実は恐らくこうだろう……



**********



「ロンベルさん、こんにちは」


「おお、メルさん」


「魔眼関係の本を何冊か頂きたいのですが?」


「魔眼関連の? それはまたどうして?」


「実は、私達と同じで魔眼持ちの子かも知れない男の子を連れて来たんです」


「それはそれは、よし来た。早速用意しよう」



**********


 と、まあこんな感じに違いない。



「ところでじゃメル、この子にどの本を見せた?」


「これですが」


「ほお、他には?」


「いえ、まだ一冊しか」


「そうかそうか、ガハハハハハ」



 いや、何がおかしいんですか? このおじさんは僕が魔眼が無い事が分かってそんなに愉快なのだろうか? 何だかわからないけどお臍の周りがチクチクとする。おかしいな~特に今朝は何も変な物は食べて無い筈だけど、なんだろうこのムカムカは。



「ロンベルさん笑うのはあんまりですわ」


「いやいや、すまんすまん。じゃがメルはこの本を確かめたのか?」


「いえ、しかしメディウスさんのお父様であるノラン様はお確かめになりました」


「そうかそうか、じゃあメルもこの本を確かめてみなさい」


「はい、分かりました」


「「……」」


「あれれ? 私にも見えません」


「そうじゃろう。それはわしゃが現在趣味で書いてる植物の図鑑での、間違って一緒に渡してしまったんじゃ ガハハハハハ」


「えっ?」


「はっ!?」


「あっ!?」



 何か騙されたと思って僕は子どもにはとても似つかわしく無い声が出てしまった。めっちゃ、皆が僕の顔を見てるんですけど。しかも全然関係無い人達まで僕に注目してるのは何故?



「メディウス、今の声はまさかお前じゃあ〜〜無いよな?」


「あんな鋭い威圧が有る声はメディウスさんな訳無いですよね。声も何か大人の方ぽかったし」


「ぼっ、僕な訳無いじゃないですか。嫌だな〜〜多分僕の後ろの誰かじゃ無いですか?」



 後ろを振り向くと、大人の男性客が三名ほど立っていた。一人は小じわが目立ち始めた四十過ぎの男。一人はいつもなのか分からないが、三白眼で唇は腫れぼったく、ジッと静かにこちらを見ている。最後の一人は、ズレた眼鏡をかけ直す際に、指がプルプルと震え額に汗をかいた男だ。



「此処は本を探し購入するところだ、見世物じゃ無い。何か意見が有るなら話を聞くが」



 父様は威圧的な眼で牽制すると、三人は慌てた様子で散り散りとなって逃げて行った。


 本当は紛れも無く僕の中から出た声だったが。咄嗟に誤魔化してしまった。三人の一般人の方にはとても申し訳無い。



「やれやれノラン殿、これじゃあ商売上がったりじゃわい。さっきまで居た客が殆ど出て行ってしまったではないか」



 周りを見渡してみると、確かにあんなにもごった返していた店内が、すっかりと静かになっていた。どうやら父様の圧で皆が店を出て行ってしまったらしい。



「まあよい、仕切り直しじゃ。まだ実質この子に魔眼が有るか無いかは確かめておらんわけじゃからのぉ」



 これはまさかの展開となった。いきなり本屋のオーナーも参戦してくるとは。しかもこのロンベルさんと言う人も魔眼の持ち主。こうもひょこひょこと魔眼使いが登場すると、そんなに凄い能力じゃ無い様な気がして来たのは僕だけでしょうか?



「ん? どうしたね坊や。何か言いたげな顔をしておるのぉ」


「メディウス、何か有るなら言ってみなさい」


「そうですよ、スッキリしないのは身体に良く有りませんし、漏れそうなら早く行かれた方が」


「そうなのか、メディウス。行きたいなら早く言わないと駄目じゃないか。恥ずかしがってる場合では無いぞ」


「いや、そなたはこの子の実の父親かね。彼は違う事を私に言いたい様にわしゃには見えるがのぉ。あんまりメルの言葉を鵜呑みしてはいかんぞ」


「そうでしたか。確かに彼女の言葉ですっかり勘違いしていました。メディウス、何か意見が有るのであれば、先に言いなさい」


「分かりました。初めて魔眼と聴いた時は、メルさんも珍しい力と仰られてたので、正直ワクワクしてたんです。でも、メルさん以外にこんなに早くもう一人の魔眼を使える人が現れたので、その……なんて言うか」


「拍子抜けしてしまったとかそんなとこかの?」


「はい、すいません」


「ガハハハハハ、素直で良いわい。じゃが、安心せい。何でそもそもこうも簡単にもう一人、魔眼使いが現れたのか? それにはちゃんとした理由がある」


「それは、どんな理由ですか?」


「理由は至極単純じゃ、そもそもメルが何故? この本屋に来たのか、そこを考えてみろ坊主。自ずと答えが見つかるじゃろう」


「何故……何故? 何故?」

「あっ!? 分かりました。メルさんは元々この本屋には魔眼の本が有ることを知っていた」


五十ごじっパーセント正解って所かいのぉ~~」


「えっ、まだもう半分理由が有るんですか?」



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