第9話 メディウスには問題が有ります


「メディウスよ、 おいメディウスよ、これメディウスよ、ほれっメディウスよ、やれメディウスよ、あれメディウスよ、あっそーーれメディウスよ、もういっちょメディウスよ、やーいメディウスよ、ばぁーかメディウスよ」


「じゃかーーしぃわ、ボケが、あっ!?」



 ゴチンッ!!!!!!!?



「ふう〜〜やっと起きたわい、何も頭を小突かんでもええじゃろう」


「じゃろうじゃねえジジイ、てめぇは俺に喧嘩売ってんのか? 最後俺を明らかにコケにしていやがったよな? ゴラァ、あっ!?」


「おっ、怒るでないわい!? それよりも、其方は気付いておらんじゃろう?」

(ジジイじゃなく、儂はこれでも神なのじゃが……)


「何がだ、あっ!?」


「今の其方はすっかり、良い子のちゃんになってしまっておる」


「ほぉ~~このいまの俺の何処をどう見て僕ちゃんって言えるのかな、あっ!?」


「こら、待て待て、精神の世界のお前は別じゃ、今は眠っておるからお前を起こす事ができた」

(何て、暴力的に育ったんじゃ)


「何? それはどういう意味だ? ジジイ」


「儂は現在、空間干渉の力を使って、其方の精神世界に来ておる」


「何? 此処は現実世界じゃねーーのか?」


「そうじゃ、しかもお主は厄介なことにかなり深い階層まで潜り込んでしまっておる」


「腐海? 海藻?」


「違う違う、そっちではない!? それは別のストーリーと食べ物がごっちゃに混ざっておる。お主まだ寝ぼけておるのかの?」


「あっ!? てめぇ、やっぱ俺に喧嘩売ってんだろ? 消し炭にするぞ」


「コラ、待て。まずは話を聴ききんしゃい!? 良いか、どうやら物凄く温かい家庭に育てられたことによって、記憶が消えるよりも最悪な事が起きたようじゃ」


「あっ!?」


「いまの温くて心地よい生活のせいで、お主の他にもう一人の精神体であるが誕生してしまった。本当は一つの精神体であるお前さんらは、分離をしてしまったんじゃ」


「はっ? 分離?」


「そうじゃ、僕君は記憶を受け継いでおらず、これから学んだり経験をして成長していく。一方お前さんは、儂から授けた加護はもちろんのこと、記憶がちゃんと残っておる方の精神体じゃ」


「それって、つまり……」


「つまりは、僕君自身のままでは、加護が付与されておっても、それを正しく使う事ができん。そのため、其方が何かしらの形で入れ替わるか? もしくは彼と融合しないと、未知の問題が発生するやもしれんのじゃ」


「おいおいおい、待て待て。何とかできねーーのか?」


「無理じゃ……何度か試したが、僕君の方には儂の声が届かん。イレギュラーじゃ」


「急に横文字使って誤魔化してんじゃねーー、てめぇ今その言葉使って少し自分がカッコイイと思ってんだろ? あっ!?」


「いや……そんなことは思っておらん、すっ少し、ほんのちょっぴりだけ」



 ゴツンッ!?



「しっかり思ってんじゃねーーか」


「すんません……」

(すぐ手が出るのこ奴、女の子に嫌われるぞ)


「で、干渉出来ねーーなら、ソイツじゃなくって俺を此処から引っ張り出せばいいだろう」


「それもできぬのじゃ。よいかメディウスよ、今お主はの多重夢の空間に落とされておる。さきほど深い階層と言ったが、その場所こそ多重夢の世界なんじゃ」


「多重夢? なんだそりゃ?」


「通常の夢であれば、眠っている時に人は夢を見るじゃろう。そして夢から覚めると現実に戻れる。じゃが、多重夢の場合は、夢をみていて、目が覚める。しかし、実はまだ目覚めておらんくて、起きていると思ったら、またその中で夢をみてるんじゃ」


「おい、何を言ってるのかわからん、もっと簡潔に説明しろ」


「簡単に言えば、夢の中で夢を見ている状態じゃ、そしてそれが何回も繰り返されるため、起きる事ができん、それが多重夢の世界じゃ」


「何だそりゃ、俺はいまそんな場所にいるってことか?」


「そうじゃ、そして厄介なのが、お前さんはその中で更に眠っておった」


「いやいや、起きてるだろ」


「今はな、じゃがそれも儂が空間干渉を試み、声を掛けたからじゃ」


「ちっ」

(マジか、結構これまずくねーーか)


「しかもじゃ、儂が空間干渉できる条件も限られとる」


「どういうことだ?」


「良いか、が深い眠りについてはじめて、儂は其方に干渉ができる。もし、浅い眠り程度じゃと、儂は其方が居るこの空間に入れんのじゃ」


「マジかよ」


「マジじゃ。普通の眠りではダメじゃ。もう一人のお前さんが精神的にも眠りに入らんとダメなのじゃ」


「精神的に?」


「つまりはじゃな、肉体だけでなく、精神もこの世界で寝てる状態、ちょうど儂がお前さんを起こす前の状態にならんと、儂はお前を起こす事ができんのじゃ。それだけで済むなら問題ないのじゃがな」


「まだ、問題が有るって言うのかよ?」


「有る。大ありじゃ、寧ろここが一番の課題と言ってもいい」


「それは何だ? もったいぶらずに教えやがれ!?」


「儂は其方をこの精神世界では起こせても、肉体まで繋げることができん。じゃから、起きた後はお前さんが何とか自分で、精神と肉体が結び付くようにコントロールする必要が有る」


「つまりどういうことだジジイ?」


「精神体として起きたら、今度は肉体も起こせるようにするのじゃ」


「そう言う事か、じゃあさっそく……」


「「!?」」


「ジジイ何しやがった?」


「違う違う、儂じゃない。儂は何もしておらぬ。じゃが、何かしらこの精神世界に干渉してる者がおる」


「なにぃ? 敵か何かか?」


「違うそうじゃない、恐らく僕君メディウスを外部から起こそうとしてる者がおる」


「ちっ、その前にコイツと入れ替わらねーと、俺は此処に閉じ込められたままになるじゃねーか」


「いや、それだけならまだいい」


「あっ!? どういう意味だ」


「恐らく、またお主は深い眠りに着く可能性がある」


「マジかよ……さっき起きたばかりなのに、また俺は眠るのか?」


「これじゃあ、どっかの神様と同じじゃな」


「おっ、お前がそういう事言うなよ。コンプライアンスに引っ掛かるじゃねーか!?」


「いや、それを言うなら、著作権とかコピー&ライトじゃな」


「おい、そんなこと……話し……じゃ……」


「おい、メディウス、メディウス!? やい、メディウス、阿呆メディウス、くそメディウス……駄目じゃ、完全にまた眠りについてしもうた、儂も長居は無用じゃな」





*******************





「メディウス、起きなさい、起きなさい!?」


「う……ん、父上……」


「起きなさいメディウス。お前が寝ている間に、もう隣町には入り終えた。もうすぐ目的の宿にも到着をする。馬車から降りる準備をしなさい」


「わっ、分かりましたお父様」


「どうぞ、帽子をお忘れですよ、メディウス様」


「ありがとうございます。メルさん」


「いえいえ」


「ほら、まだお前には高い、私に掴まりなさい」


「はい」



 5歳になったばかりの僕では、まだ一人で馬車から降りることが出来なかった。馬車から地面まで幾分か距離があり、子どもの僕では足が届かないのだ。父様は僕の脇下にてをいれ持ち上げると、彼の左肩に僕を乗せ、そのまま馬車を降りた。



「ありがとうございます、父上」


「当然の事をしたまでだよ、メディウス。おっと、気を付けて」


「ありがとうございます、ノラン様。では、お手を借りますね」


「では、皆の者、宿へチェックインと行こうか」


「いや、旦那。俺らは別の宿にしますは」


「ええ、ちょっと此処は私達には………ねえ」


「うむ、ちぃと豪勢過ぎるわい」


「ですね、私達冒険者には不釣り合いかと………」


「お金の事なら心配しなくて大丈夫だ」


「うぇ!? いや、いけやせんよ旦那」


慌てたように両手を出してブンブン振ると、助けを求める様にケイラを見た


「ええ私!? おっ、お気持ちだけで十分です。はい」


そう言うと伝言を回すように今度はジルスに助けを求める。


「うむ、お心得だけで十分ですじゃ」


「はい、私達には行き着けの宿が有りますし」



 順番が回って来ましたわよっと言いたげな笑みを浮かべながら、メルさんはトロイにバトンタッチした。



「うえ、また俺!? え〜〜そうそう、それにちょっとギルドに行ってアイテムとか換金しようと思ってるんで、ここだとギルドに行くのに不便かなと」


「うむ、そうじゃのう」


「ですので、また後で合流と言う事でどうでしょうか?」


「分かった。それでは、せめて夕飯だけでも奢らせて貰えないだろうか?」


「「「「はい、それなら是非」」」」


 僕は父さんと手を繋ぎながら、暫くの間彼等の背中を見送った。


「行ってしまわれたのですね」


「ああ、でもご飯の時にまた会える。何だ、寂しいのか?」


「いえ、そうじゃ有りません。ただ、一緒の宿ならもっと冒険のお話を聞く事が出来るのかなと」


「食事の時に聞いたら良いではないか?」


「父上、彼等は冒険者ですよね?」


「そうだが………それがどうかしたのか?」


「冒険者は元来お酒好きと言います。お酒の席で、まともにお話を聴けるのとは思えないのですが?」


「うっ………多分、大丈夫じゃないか」










「お前ら!? もっと飲め〜〜」


「いや、ノラン様もう十分に頂きましたから」


「うむ、ノラン殿。わっ、儂ももう結構じゃ」


「「もっ、もう飲めらへん」」



















一番酒癖が悪かったのは何を隠そう父だった。



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