ほろ苦い一杯のコーヒーを思わせる読書体験

離婚、不倫、家庭内問題、どこにでもついて回るお金の問題……と、言葉だけ並べると憂鬱になりそうな要素を、史緒と千鶴がこれから二人で生きていくために直視しなければならない現実として物語に落とし込んでいるのが妙です。

私達は多かれ少なかれ面倒や厄介を抱えて生きているわけですから、二人が直面する問題は私達が日々直面している問題と本質的には同じなのだと思わされます。ここに作品と読者の接点があり、彼女らが実感していることを読書を通して実感できるようになっているとも思いました。

史緒が電話で話しながらコーヒーを淹れるシーンなどは生活感がにじんでおり、新幹線の連結部という非日常の片隅に行き場のない身を押し込んでいる千鶴との対比を明確に描き出していました。この対比は二人の関係を反映しており、会話を、思いを重ねることで生じた変化と空間の移動、時間経過が対応していて情景と心情がつかみやすかったです。

二人の心の底にやさしさが見え隠れすることも大きいと思います。

なにより、最後は二人が納得できる(覚悟を決められた)選択ができたことに集約する構成が5000字程度の尺に綺麗に収まっており、明るい話ではないけどハッピーエンドだとはっきり伝わってきました。
ほろ苦い一杯のコーヒーを思わせる読書体験でありました。

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