第5話 ボール投げるの命懸け
最初にボールを持ったのはるばあとにんじんだ。
「組長!さっきの恨みを晴らさせてもらう!」
「私被害者よね?」
にんじんは完全にクチナシ狙いのようだ。さっき倒れていたにんじんだが何をされたのかは俺も見ていない。きっと怖かっただろう…ヤクザみたいなサングラスの黄髪が襲いかかってくるのは恐怖でしか無い。
「にんじん流奥義!分身!」
「なにそれ聞いてないんですけど?」
「アイツ分身できたのか…」
驚くクチナシ。俺は冷静に分析する。にんじんが三人になって、分裂した方は一人一つ人参を持っている。おそらく威力も本体と同程度だろう。中々強いぞ。…ってかるばあは?
「危ねっ!」
背後から飛んできたボール。だがその方向には誰も居ない。ほとんど皆にんじんに釘付けだ。るばあも見当たらない。まさか…
「透明化してんのか?」
「やっぱバレるかぁ…でも、姿は見せないよ!」
どうやら予想的中のようだ。俺はボールを持ち周囲を見回す。にんじんは三人でクチナシに集中攻撃(人参とボールで)、クチナシは全力で回避している。他の皆は警戒しておらず、るばあは透明化。なら…
「おらぁぁぁぁ!!!」
全力でクチナシへと投球。だがクチナシはそれをバク宙で回避。ボールは壁にめり込んだ。
「こら永遠ぁぁぁ!今こっち大変なんだぞ!」
「知らん。」
めり込んだボールは気づけば消えている。きっとるばあだろう。警戒しなければ。
「キャッ!」
「痛ぇ!」
だがその必要はなかった。るばあは警戒していなかった皆にボールを当て始める。完全にるばあの無双だ。そしてクチナシはとうとう…
「うおぉぉぉらあぁぁぁぁぁぁ!!!」
にんじんの投げた人参をキャッチし、全力投球。その人参はにんじんのこめかみにヒット。三人居たうちの一人が消滅した。そしてもう一人も、クチナシの投球ならぬ投人参によって消滅。
「あぁ!僕がやられいでっ!」
「…僕は見逃さないよ?ちょっとした油断もね。」
透明化したままのるばあがにんじんにボールを当てた。どうやら投げる直前までボールも透明化するらしい。にんじんが取り落としたボールをクチナシが拾う。
「皆見てるだけで暇でしょ?行くよー☆」
そしてクチナシの蹂躙が始まった。次から次へとヒットするボール。皆逃げ惑うが、クチナシは正確に当てていく。もはやさっきまでの八つ当たりだ。だがそれだけの投球技術は素直な称賛に値する。
「とわにぃ!ちょっと遊ばない?」
「お、るばあ。何か思いついたのか?」
「うん。僕の計画は…ゴニョゴニョ…」
「わかった。それでいこう。」
るばあから話された計画を頭の中で反芻し、俺は行動に出る。
「クチナシ。こっち来いよ。お前しかボール持ってねぇぞ。」
「なんか私の扱い酷いよね?絶対酷いよね?」
「わかったわかった。じゃあこうしよう。俺は今からボールを投げない。だからクチナシは全力で俺を狙え。他の皆も、少し見ていてくれ。なんか俺らばっかり楽しんでゴメンな。」
「皆気にしてない。見てて楽しいし。」
ふうかに許可を得て、俺はクチナシとの一対一に望む。だが皆気づいていない。もう一つのボールの存在に。勘の良い人はもう分かるだろう。俺を当てることに夢中になったクチナシにるばあがボールを当てる。たったそれだけの簡単な作戦だ。
「いつでも良いぞ。」
「…じゃあ遠慮なく。」
だがここでその作戦は崩壊する。クチナシの言葉と同時に、クチナシの周囲に数十、数百のボールが出現した。
「アニメの魔道士じゃねぇんだぞ…やべぇ…」
「私を侮ったこと、後悔させてあげる。」
やばい。これは間違いなくやばい。だが俺は信じられないくらいにワクワクしていた。
漫画や小説の戦闘狂達の気持ちがわかった気がする。こんな状況、ワクワクするに決まってる。
「とわにぃ、動かないで。」
俺が回避行動に出る直前、るばあの声がした。この状況を打開できるとでも?まぁ信じるけどな。この状況で冷静な声。何か秘策があるのだろう。
だったら賭けようじゃないか。るばあの切り札とやらに。
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