第6話

「ウガァ!グァァ!!!!」


「正義くん!攻撃!」

「はい!『草薙剣』」

 間髪入れずに正義は反応した正義のその手には一振の剣が握られていた。正義はその剣に霊力を注ぎ込む。先ほどは女性を巻き込んでしまう可能性があったため使わなかったが、今回は遠慮なくその剣を一閃した。


 するとアダマンタイトゴーレムの間に現れた20体のゴーレムは残さず全て胴が真っ二つにされたのだった。しかし肝心のアダマンタイトゴーレムには傷すらも生まれなかった。


 怖い。それでも何も出来ないなら出来ないなりに自分にやれることを探すんだ。


 僕は怯える自分の体に喝を入れると、さっきはじっくりと見れなかったその体を観察し始める。明らかな硬さを推測させる黒曜色の薄ら青色が入っている黒光りした体。


 この違和感はなんだ。何がおかしい.....。なんなんだ。


「あ、」


 そうか、そうだ。頭だ。さっきの衝撃で頭の角がほんの僅かに掛けている。

 でもおかしいな。白虎はまだしも天馬さんのハンマーを食らったのにも関わらずその体は無傷のままだった。今まで見せてきた圧倒的防御力があるからだ。なのに、あの異常な硬さの体が土の壁如きで傷ついた。


 もしかしたら.....。


「オラッ!行け!白虎!」


 正義がアダマンタイトゴレームを草薙剣で切りつける。それと同時に正義の脇を翔って行った白虎がその爪を持って胴体を引っ掻く。アダマンタイトゴーレムは正義の攻撃を右腕で完封し白虎の攻撃を左腕で辛うじて防いだのだった。


 白虎のその速さから繰り出された攻撃は流石に対応するので精一杯だったようで少しグラつき後ずさった。


「ゥガァァァァ!!!」


 アダマンタイトゴーレムはグラついていた体勢から直ぐに立て直しそのまま一歩踏み出し腕を大きく薙ぎ払う。


 運悪く引き際を間違えた正義が強く叩きつけられる。


「カハッ。クソがっ、なんて馬鹿じからだよ!」


 正義は吐き捨てるように言うと追撃されないようにすぐさま後ろに下がる。しかし思った以上にダメージが大きかったようで、膝をついてしまった。


(そうか、やっぱりだ!!)


 この間によく観察していた僕はひとつの事に確信する。ゴーレムは今、白虎が攻撃した左腕は間違いなく少し欠けていた。


「天馬さん!!コイツらは防御する時や攻撃する時に他の部分が脆いです!」


「ナイスだ春くん!正義くん僕に合わせてくれ。行くよ!」


 天馬は体に力を巡らせ全力で走り抜ける。来させまいと攻撃してくる腕をハンマーで弾いて懐に入っていく。その間に気配を消して走ってきた白虎が右腕の鋭い爪を振り下ろした。


 しかしその爪は当たらず白虎は消え、逆から正義が草薙の剣で斬りかかった。白虎を使った正義のフェイントと同時に天馬が全力でハンマーがアダマンタイトゴーレムの体に当たる。春が看破した弱点を利用した天馬の攻撃。

 それはアダマンタイトゴーレムの右腕を消し飛ばすことを犠牲に防がれてしまった。


「なに?!でもこれなら!!」


 右腕を用いて防がれた天馬のハンマー。そのハンマーを捨て己の拳をぶつけることで一撃必殺の自分に出来る最大の攻撃を繰り出す。


「『ファットマン』!!!ハァァァァ!!!!」


 天馬の職業ネオファイターが持つ技の内のひとつである『ファットマン』。この技は一撃必殺の連発できない技だ。自身にある全魔力を消費して全身の力を高めて火力を上げる。一瞬といえど数倍にもなった化け物じみた攻撃力になる。


 しかし天馬がこの技を使う理由は他にある。この技は防御無視の貫通攻撃。一瞬のために全魔力を消費するこのデメリットを払うだけの価値がある。

 天馬はどうしてもこの一撃を確実に当たるタイミングで使いたかった。魔力を全て使い尽くした人間は魔力失う負荷から確実に気絶してしまうからだ。


 天馬の一撃によって強大な衝撃が引き起こされ破裂音が響く。

 確実に殺ったと思わせるほどの捨て身で渾身の一撃。



 それを受けてなおアダマンタイトゴーレムは倒れていなかった。だが確かに当たったその攻撃は今まで無傷だったアダマンタイトゴーレムの体に大きな穴をあけ、核すらも剥き出しになるほどのダメージを与えていた。



 ドサッ。

 天馬は魔力を全て失った反動で気絶してしまった。そうでなくともアダマンタイトゴーレムという鉄壁を殴った影響で天馬は既にボロボロだった。


 『ファットマン』は攻撃力を上げるだけで体の強度をあげる訳では無い。強く殴ってもその力の反作用でダメージが自分に返ってくる。強固な敵ほど反作用のダメージが高くなる。これによって敵次第ではこの技は諸刃の剣となる。


 相手はアダマンタイトゴーレム、他に類を見ないほどの防御力があるため、返ってくるダメージには貫通能力はついてないものの凄まじいダメージになるのだ。


「天馬さん?!!!クソッ!!春!俺が時間を稼ぐ今のうちに!我は願っ」


 ドクンッ! 正義の心臓が跳ねる。

(クソッ、こんなタイミングで...。すまん春)


 正義が急に力が抜けたかのように倒れていく。


 意識を失っていく正義の頭の中には、なんで!なんで!という考えが浮かび続ける。正義はその悔しさから拳を握りしめる。

 正義が倒れた理由は ‘時間切れ‘ によるもの。『呪縛』の対価が時間通りに払われたのだ。


「すまん。春。俺、ここまでみたいだわ。」


「え? ま、さ? マサァァァァァ!!!」


 正義か倒れたことにより春は春は不意に思考が止まってしまうが直ぐに気張る。

 アダマンタイトゴーレムはさっきの一撃と今までの蓄積されたダメージから核が見えている。危機的な状況で春は判断をくだした。



 どの道このままだったら死んでしまうんだ!だったら、それなら!いちかばちかに掛けるやる!!!


「『異空間収納』!!!頼む!お願いだ!!!」


 残りの力を振り絞って核に向かって手を伸ばす。

 春の最後の最後の悪あがき、それは奇跡的に成功した。核を失ったアダマンタイトゴーレムは体を維持できなり形を崩し消えていく。


 ドンッ!ドンッ! アダマンタイトゴーレムがいなくなった坑道に大きな鈍い音がゆっくりと響く。


 この音に春はハッと後ろを振り返った。


 そうだ!まだもう一体のアダマンタイトゴーレムが生き残っている。こっちは核が見えている訳でもない。それに損傷も少ない。考えないと!!勝つ手段を 皆が生き残る手段を!じゃないと皆が!


 でももう気づいた時にはもう一体のアダマンタイトゴーレムは目の前に来ていた。

 無慈悲にもアダマンタイトゴーレムは腕を振りかぶる。



 クソッ!! なんで僕には、、力がないんだ!!! 力が欲しい......。力がない自分にイラつく。


 現実は儚く、そして切ない。気持ちで力に目覚める訳もなく瞬く間に、残酷にその時間が過ぎていく。

 ゴーレムの腕は振り下ろされ、春は吹き飛び、壁にあたり肩から潰れる。この時には、もう、春には息がなかった。


 残った空間には虚しく静寂が訪れ、響くのはゴーレムの駆動音だけだった。

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