最終話 決戦・魔獣大氾濫から王都を救え その④

 最終話 その④




 豪鬼side 前編




 スタンピードに対する作戦会議が終わりを告げ、私は冒険者ギルドの会議室を後にしました。


 外に出るとラドクリフ氏と奥様のツキ様、そしてギルドマスターのミソラさんが話をしていました。


「それではラドクリフ氏。お互いに力を尽くすことにしましょう。これが終わったら王都の観光をしようと思ってますので、案内をよろしくお願いします」


 と、少し冗談を混じえてラドクリフ氏に言うと、彼は笑いながらそれを快諾してくれました。


「ははは。良いですよ豪鬼さん。ちょうど貴方に案内したい場所があるんです。その店のためにも頑張りましょう」

「なるほど。ラドクリフ氏がそこまで言うのでしたら期待が出来ますね。では私は持ち場へ向かいます」


 私はそう言うと、彼らに別れを告げて持ち場の南の門へと向かいました。




 持ち場へ向かって歩いていると、私の頭の中に『女性の声』が響いてきました。


『マスター。私はお腹が空きました。朝の食事を所望します』

『もうすぐ持ち場に到着する。そしたら喰わせてやるからそれまで我慢しろ、ソハヤ』


 私が頭の中でそう言葉を返すと、彼女 ―ソハヤノツルギの意思―は小さく『仕方がありませんね。それまで我慢します』と言ってそれ以上を求めては来なかったですね。





 リインさんから用立てて貰った大剣 ソハヤノツルギは、ラドクリフ氏の持つ月光と同じ様に『意思のある武器』だったようです。


 ソハヤノツルギを手にして、私が刀身を引き抜いた時にそれはわかりました。


『ああああああああぁぁぁ!!!!!!お腹がぺこぺこです!!このままでは死んでしまいますぅぅううう!!!!』

「……ぬぅ!!」


 頭の中に響いた彼女の声と共に、私の『生命力』がソハヤノツルギへと流れて行くのを感じました。

 ……なるほど。確かに無尽蔵に供給して行けば命に関わるかもしれませんね。


 ですが『この程度』ならば大したことは無いでしょう。


 そう結論付けた私ですが、どちらが『上』かの格付けは必要でしょう。


『美味しい……美味しいよぉ……』


 そんなことを言いながら、ソハヤノツルギは私から生命力を吸い上げています。

 何だか可哀想な気もしてきましたが、躾は必要ですからね。


 私は大剣の柄を握り締めて一気に力を込めました。


「はぁ!!!!俺に従え!!ソハヤノツルギ!!」

『は、はぃぃぃぃ!!!!』


 その瞬間、ソハヤノツルギの刀身が光り輝き、満点の星空のように変化しました。

 なるほど。これが彼女の真の姿ですか。


『す、すみません……お腹が減りすぎて調子に乗ってました……』


 申し訳なさそうな彼女の声を聞くと、何だか小さな子供を相手にしているような気分になってきましたね。


 そして、この大剣以外のものを用意しようか?と言うラドクリフ氏の提案は取り下げさせて頂きました。

 何だかんだ行って、私はこの大剣が気に入ってしまいましたから。


 借りている宿場へと向かった私は早速彼女に話しかけてみることにしました。


「まずは自己紹介といこうか。私の名は豪鬼と言う。トウヨウの地で冒険者をしている。ソハヤノツルギよ、お前はどんな名で読んで欲しい?」

『は、はい。マスター。私のことはソハヤと呼んでください』


 マスター……主人という意味だったかと。


「わかった。ではソハヤよ、お前が俺に望むものはなんだ?」

『あ、朝昼晩でご飯をいただけるのでしたら身を粉にして働きます!!』


 ご飯。生命力の事ですね、あの程度なら一晩寝れば回復する程度だから特に問題は無いでしょうね。


『わ、私の能力は『武芸大食ぶけいたいしょく』です。いただけたご飯の分だけ強くなります。あ、あと……多少の損傷でも自己治癒が可能です。ご、ご飯をいただければ……ですが』

「なるほど。では今日の夕飯分をくれてやろう」


 私はそう言うと、彼女の柄を握り締めて刀身を引き抜く。

 すると、先程までは満天の星のようだった刀身は漆黒のものへと戻っていた。


『ど、どのくらいいただいて宜しいのですか、マスター?』

「とりあえずお前が満腹になるくらい行ってみろ。まずはそれを知りたい」

『わーい!!いただきまーーーす!!!!』


 彼女がそう言うと、私の手を通して生命力が吸い上げられていく。生命力とは言っても『命』を削ってる訳では無い。

『体力』を分け与えているような気分ですね。


『美味しい……美味しいです……あぁ……本当に幸せですぅ……』


 恍惚とした声が頭に響く中、彼女の『食事』は五分程続いた。


 そして


『ご馳走様でした!!私は大満足です!!』


 その言葉と共に彼女は俺からの食事を終えた。

 漆黒の刀身は先程と同じように満天の星空のようになっていた。


「ふむ……こんなもんでいいのか?」

『え?』


 軽くジョギングをした程度の疲労感に、私は少し拍子抜けしてしまいました。


「まだまだ行けるだろ?行くぞソハヤ!!」

『ああああああああぁぁぁ!!!!!!』


 一気に力を込めて生命力をソハヤに流し込むと、彼女の嬌声が頭に響いた。


 戦闘中に五分近く悠長に力を分け与えるなんて暇は無いですからね。


 そして力の譲与が終わると、彼女の刀身は眩く光り輝くものへと変化していました。


『こ、こんなの初めてぇ……』

「このくらいの食事はさせてやる。明日は宜しく頼むぞソハヤ」

『は、はい……マスター……』



 そんなやり取りをした昨晩のことを思い出していました。


 すっかり従順になった彼女と共に私は持ち場の南の門へと辿り着きました。


 すると、ここからそう遠くない場所に『かなり強力な魔獣』の気配を感じました。


『かなり強力な魔獣の気配を感じます』

「そうだな。あれが今回の俺達の敵だ」

『なるほど。まぁ私の敵では無いですね。ご飯さえいただければ……ですが?』


 頭の中に響いたご飯を求めるソハヤの声。

 私は彼女に『朝ご飯』を与えることにしました。


『ああああああああぁぁぁ!!!!マスターのご飯美味しいですぅぅぅううう!!!!』


 魔獣気配の元へと駆けながら、彼女に力を分け与えているとその姿が見えてきました。


「……なるほど。なかなかの大きさのオーガですね」


 私の目の前には、十メートルはあろうかと言うオーガが居ました。

 通常のオーガが五メートル程と考えるなら破格の個体ですね。


『貴様の気配は先程より感じていた。我を高みへと導く者よ、贄となるがいい』


 オーガの口からそのような言葉が放たれました。


「言語を使う魔獣……A++~Sランク。そんなレベルでは無いですね」


 SSランクレベルですね。羅刹の刻を使う可能性すら出てきました。


「私の名は豪鬼。貴殿の名は」

『我は鬼神。豪鬼よ命のやり取りを始めようか』


 神の名を冠するオーガは、その背丈と同じ大きさを誇る鉄の棍棒を手に取りました。


『あんな鉄塊に私は負けません!!マスター!!瞬殺してしまいましょう!!』

「ははは。頼もしいセリフをありがとうソハヤ。では行こうか」


 私はそう言うと、ソハヤを上段に構えて鬼神へと斬りかかった。

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