第二十九話 ~豪鬼さんとの本気の手合わせ。奥義をぶつけ合うことになった~

 第二十九話





「なるほど。ラドクリフ氏はご結婚の報告をしに二十年ぶりにこちらまで来られて居たのですね。こうして出会えたのはある種の奇跡かも知れませんね」

「ははは。そうですね」


 朝食を食べ終わり、緑茶を飲みながら俺は豪鬼さんと談笑をしていた


 今日の朝ご飯は豪鬼さんに合わせて和食が用意された。


 白米と味噌汁。そしてサザンドラ名産の海産物の干物を使った料理に彼はとても驚いていた。


『これほど見事な和食はトウヨウでもなかなか食べられませんよ。お気遣いいただきありがとうございます』


 そんな話をしていると、少しだけ疑問に思うことがあった。


「豪鬼さんは俺と手合わせをするためにガルムまで来たんですよね?でしたら何故王都に来なかったのですか?生まれ故郷よりは滞在してる確率が高いと思いますか」

「ははは。実は私はラドクリフ氏のファンでもあるのです。貴方が書いた『守護の太刀 柔の剣のきわみ』は穴が空くほど読みました。ですので貴方の生まれ故郷に来たのは聖地巡りとも言えます」


 少しだけ照れくさそうに言う豪鬼さん。

 そうか、俺の著書を読んでくれていたのか。


 なら俺も伝えなければならないな。


「実は私も読んでいるんですよ。貴方の著書の『剛の太刀 紅蓮ぐれんの剣のいただき』を」


 俺はそう言って懐から彼の著書を取り出した。


「そうでしたか。これはとても嬉しいですね」

「ははは。ですが私には難しかったようですね。『通常時』の自分では使いこなせる自信がありません」

「私も柔の剣は本で読むだけでは理解が難しかったです。ですので肌身で感じようと思ったのですよ」


 彼はそう言うと、椅子から立ち上がり俺に向かって言う。


「さて、食事をした腹も落ち着きました。そろそろ手合わせと行きましょうか」

「ははは。良いですよ。では外に出ましょうか」


 こうして俺たちは外に出て手合わせをすることになった。





「剣聖と呼ばれるラドクリフ氏の太刀。柔の太刀のことわりに至ったとも言われるその技を見せてもらいますよ」

「私としても剛の太刀の頂を味合わせてもらいますよ」


「何なのかしらねあの二人。というかベルの奴、私やツキとかとイチャイチャしてる時より楽しそうよ」

「まさか、最大のライバルは豪鬼さんだったとは……」

「俺のそっちの気は無いから安心してくれよ……」


 冷めた目でこっちを見ているリーファとツキに、俺はそう言葉を返す。


 そして、刀の姿に戻ったツキを手にした所で豪鬼さんがルールの話をする。


「お互いに全力を出しましょう。ですが、相手の命に届く一撃は無しとしましょう」

「ええ、構いませんよ。それではやりましょうか」


 俺がそれに了承を示すと、豪鬼さんから一気に闘気が溢れ出す。


「それでは……行きます!!」


 彼はそう言うと、背中の太刀を振り上げてこちらに斬りかかってきた。

 その巨体からは想像もつかないような速度に、俺は軽く目を見開く。


『ベルフォード!!彼はかなり強いです!!最初から全力です!!』

「そのつもりだツキ!!」


「剛の太刀 紅蓮流 いちの型!! 烈火!! 」


 ギィィン!!!!


 大上段から振り下ろされる彼の大剣を、俺は月光を横にして受け止める。

 そして、彼の一撃を受け止めたその衝撃で俺の足元が沈む。


 本来ならばこんな受け止め方をすれば俺の身体はタダでは済まないだろう。だが、次の瞬間。打ち込んできた豪鬼さんの身体が後ろに吹き飛ぶ。


「……何をしましたか、ラドクリフ氏」

「これが柔の太刀の真髄とも言えますね」


 俺はそう言うと、月光を正眼に構える。


「今のは守護の太刀 月天流 三の型 水月すいげつかえしという技ですよ」

「なるほど。今のがあの有名な……」


 三の型 水月の返。これは以前、大型ウルフの突撃を受けた際に使用し、弾き飛ばしたものだ。


 物理的な衝撃を身体の中で循環させ、相手へと跳ね返す。

 相手の力が強ければ強いほどその衝撃は大きなものになる。


「それでは次はこちらから行きます!!」


 俺はそう言うと、彼の懐へと一気に距離を詰める。

 そして、上段から月光を振り下ろす。


「守護の太刀 月天流 二の型 半月の斬!!」

「ぬぅ!!」


 大型のウルフやグリフォンの翼を切り飛ばすほどの威力を込めて振り下ろされた月光を、彼は大剣で難なく受け止める。


「……全力の一撃をなんの技でもなく受け止められると、ショックがデカイな……」

『それに、あの大剣を木の棒のように軽々振り回してるのも脅威ですね』

「ははは。お互いに決め手に欠ける。そんな感じがしますね」


 そうだな。俺の一撃は豪鬼さんには通らない。

 彼の剣も水月の返で弾き返せる。


 決め手に欠けるとはこの事か。


 そう思っていると、豪鬼さんは軽く笑いながら大剣を横に構える。


「ラドクリフ氏なら凌いでくれると信じていますよ」

「……ははは。受けて立ちます」

『豪鬼さんの闘気が膨れ上がってます!!これは危険です!!』


 紅蓮の炎を大剣に纏わせ、彼はこちらに斬りかかってくる。

 これは水月の返では弾き返せる技では無いな。


「剛の太刀 紅蓮流 奥義!! 紅炎こうえんはな!!」


 なるほど……奥義か。

 ならばこちらも奥義で答えよう!!


「……守護の太刀 月天流 つきの型 狂月くるいづきの夜」


 俺は目を閉じて意識の奥底に沈めてある扉に手をかける。

 そして、その扉を開いて中から『力』を顕現させる。


「んううううう!!!!」

「だあああああああ!!!!」




 彼の大剣と俺の月光が真正面からぶつかり合う。

 その衝撃波で辺りの空気が揺れ、木々の葉が落ちる。


 砂塵が舞い上がり、辺りには熱風の竜巻が舞い上がった。

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