第37話 テラス先生の黒歴史 その3

『いやぁ、結構出たなぁ』

『うん。これでもネタの一部だけど』


コメント:これで…一部…?

コメント:前菜に大盛りカレー食わされた気分なんだけど。

コメント:あの地獄を除けばギャグ漫画みたいな目にばっか遭ってるな、先生。

陽ノ矢 テラス:都合のいいタイムマシンの作り方、知らないですか?

コメント:↑いつぞやのコトバ様と同じこと言ってるの草。


人の過去を笑いものにして楽しいか?

…いや、楽しいか。僕も思い出話になると、歯止め効かなくなるし。

いつか絶対にやり返してやる、と思っていると。

2人が投げ銭と共に流れてきたコメントを見たのか、モデル越しにも気まずそうな表情を浮かべた。


────フラれた経緯を教えてください。


これを送ったやつは相当に悪趣味らしい。

わざわざ傷口を抉りに行くか、と思っていると、ヒトエさんが苦々しい声音を響かせた。


『フラれた経緯かー…。

あんま話したくねーけど…どうする?』

『言ってもいいと思う。五人同時告白』

『五人っつーか…、フタリも含めて六人だろ、アレ』


コメント:ファっ!?

コメント:修羅場でしかなさそう。

コメント:あれ…?ギャルゲーでそんなイベントなかったけど…?

コメント:攻略サイトにもないぞ。

コメント:たぶん、激ムズ条件絡んでくるタイプのイベントだと思う。

テラス嫁:正解。

コメント:先生以外に初見で見れたやつおらんやろ…。

コメント:↑その初見、画面の外なんですが。


嫁がニマニマ笑ってる。

選ばれた者の余裕というべきだろうか。

この話になると、必ずと言っていいほど嫁が勝ち誇るんだよなぁ。

僕からすれば、気まずいことこの上ない。


『告白したのって、私らが卒業した後の夏休みだったよな』

『うん。地元の夏祭りで、花火の時ならムードあるなって皆で言って、皆で告白した』

『アイツ、面食らってたよな。

「マジで言ってんすか?」って、いつものスカした態度無くなってさ』


コメント:それで勝った奥さんとも交流はあるの、地味にすごくない?

コメント:割と羨ましいシチュで告白されてんのうらやま。

コメント:大丈夫?ヒトエちゃんとフチロちゃん、他の人好きになれる?

コメント:↑無理やろ。

言霊 コトバ:ヒトエちゃんとフタリちゃんに初恋奪われた先生の弟さんが、自ら身を引くくらいにはゾッコンだったみたい。

コメント:弟くん…。強く生きてくれ…。

テラス嫁:ちなみに当時3歳な。失恋にガチ泣きしとったとこ妹が慰めてた。

コメント:物分かり良すぎなぁい…?


なにそれ、初耳。

実家に帰ったら、本人に聞いてみよう。

そんなことを思いつつ、2人が思い出話に花を咲かせるのに集中を戻す。


『皆一斉に「好きです、付き合ってください」って頭下げてさ。

タイミング合わせてねーのに、ほぼ同時だったの笑ったよな』

『うん。しかも、頭と一緒に手を出してたのもおんなじ』

『今思うと、それ以外はなんの面白味もねー告白だったよな。なんか、捻りあった方が良かったんだろうけどさ…』

『弱いとこ全部見せ切ったあと。

長々と自分語りとか、する必要なかった』

『そうなんだよなぁ』


コメント:ギスギスしてなさそうなのすごい。

コメント:お互いに惚れた理由が似てたからじゃない?知らんけど。

コメント:先生は責任を取って全員と重婚すべきだった。

テラス嫁:↑日本から出す気ないで。出したらどんな目に遭うかわからん。

MAIC:その案も出たには出たけど、テラスくんを海外に出したら、前より悲惨な目に遭うような気がしたから却下になった。

コメント:頑張って日本の法律変えなきゃ…。

コメント:ヒトエちゃんの恋叶えなきゃ…。

コメント:よし。出馬して法律変えてくる。

コメント:出馬の理由が「推しの恋を叶えるため」とかいうクソみてぇな政治家が爆誕しかけてる件について。

コメント:草。


やめてくれ。僕にそんな甲斐性ない。

というか、そんな不誠実な真似できない。

僕のじいちゃんはどろっどろの昼ドラ見て「Sod off!!」と叫んでテレビの画面を膝で叩き割ったことがあるような人だ。

もしも僕が5人…いや、6人もの女性と関係を持ってるなんてことになったら、顔面潰れるだけじゃ済まなかった。

だって、今でも筋肉ムキムキだもん。

近場に出没したクマをワンパンで沈めて、解体した肉を実家と僕の家に送ってくるもん。今年で85なのに。


『アイツ、迷わずく…、嫁ちゃんの手を握ったよな。あれ、なんでだったんだ?』

『くれ…、嫁ちゃん、事前にテラスくんのメンタルケアしてたみたい。つまり、勝ち戦だった』

『あー…。マジかぁ…。勝てんわけだ』

『うん。勝てないわけ』


テラス嫁:戦う前に勝負は終わっとるんやで。

コメント:めちゃくちゃドヤ顔してそう。

コメント:負けた側、そんなに気にしてなさそうだけど、今だに独身なんだよな…?

コメント:大なり小なり先生のこと引きずってそう。

MAIC:じゃあ聞くけど。私たち視点で、あいつよりいい男いる?

コメント:居ないんだよなぁ…。

コメント:「テラス先生みたいに、自己犠牲の塊みたいな男じゃないから無理」で生涯独身貫きそう。

コメント:やはり、先生は責任を取るべきだったのでは…?

陽ノ矢 テラス:無理言わないでください。


うちの弟とかいいだろ。僕から見てもいい子だし、ゴリラと戦っても勝てそうなフィジカルというアドバンテージもある。

…まぁ、彼女たちどころか、弟からも断られるんだろうが。

そんなことを思っていると。少しばかり、二人の声が震えるのがわかった。


『…あーっ…。やっぱ、まだ好きだわー…』

『うん…。まだ好きだね』


…めちゃくちゃ居た堪れない。

こぞって僕を責め立てるコメント欄に、僕は深いため息を吐いた。

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