第2話 二人目の仲間ができた!!
「さて、目的がハッキリしたところで主。これからどうする気だ?」
リントはまだ人間の姿が慣れていないのか体を柔軟しつつ己の主人となった与人に問う。
余談であるが与人からしたらリントの一つ一つの動きが艶があるものに見えるため止めて欲しいところである。
「う、う~ん。……そもそも俺、ここが何処かも分からないからなあ」
「ああ、たしか同族に飛ばされたんだったな」
「クラスメイトな。……ま、どうでもいいけど」
「どうでもいいか。恨みを晴らしたいとかは無いのか? 私に任せれば地獄を見せつけてやるぞ」
リントにとって与人のクラスメイトなどそれこそどうでもいい存在ではある。
だが役に立たないからといって同族である与人を、簡単に放り出すような奴らをいたぶる事に躊躇は無かった。
「いいってそんな事。お陰で魔王討伐なんて面倒事から逃げ出せたしな」
「それは本音であって本音ではないな主」
「……」
顔にぶつかりそうになるほど顔を近づけ、リントは黙り込む与人に語り続ける。
「私を舐めるなよ。そのくらい簡単に分かる」
「……何の事か分からないんだけど」
「……」
「……」
しばらく二人は至近距離で黙り込むが最終的にはリントが折れた。
「はぁ、分かった。認めないのならそれでいい。主の問題だ、私は知らん。だが一つ主と従の関係の言葉ではなく、生命体の先達として言っておく。いざという時に自分の心を偽るのはやめろ。そんなことしても誰も幸福にはならんぞ」
「……分かったよ。心配してくれてありがとう」
「フン」
そう言うとリントはようやく与人から距離を取り話題を元に戻す。
「で、元々はここが何処かという話だったな」
「ああ、森なのは分かるんだけど」
「ここは『グリムガル』の王都からほど近い森で、人間の間では『神獣の森』と呼んでいるようだな」
「『神獣の森』?」
そもそもドラゴンであるリントの言う近いが人間の感覚と合っているかも不明であるが、この世界の常識など知る訳も無い与人には『神獣の森』と言われてもどのような場所かピンとは来なかった。
「そうだ。ここは人間の前には現れない簡単に言えば希少な種が多く巣を作っている」
「え? でも大国の王都の近くなんだろ? そんな所に希少な種族がいたら乱獲とかされるんじゃ……」
「逆だ。希少種にとって『グリムガル』でここより安全な所は他に無い」
「?」
与人が不思議そうな顔をしてるとリントは仕方ないといった感じで説明をしだす。
何だかんだで面倒見がいいのは与人にも理解できた。
「そもそも『グリムガル』は元はこの森がまだ『神獣の森』と呼ばれる前に、住んでいた少数の部族が他の部族を併合して王を名乗り強大になっていった事から始まる。だからこの『神獣の森』は奴らにとっては始まりの地であり聖地だ。だから『グリムガル』の人間、特に王族は不要にここに立ち入る事を嫌う」
「ああ、だからここは希少種にとって楽園な訳ね」
「そうだ。まあほとんどは『グリムガル』が建国したずっと後に住み込んだ奴らだがな。私もその内の一人だ」
「でもリントはドラゴンな訳だし人間ぐらい簡単に倒せるんじゃないのか?」
「……聞くが人間は毎日毎日昼夜問わず飛んでくる大群の蚊が現れたら、最初は振り払ってもうっとうしくなって別の静かな場所に移りたいとは思わないか?」
「な、何かすみません」
与人はリントの強い語気に押され思わず謝るが当の謝罪された本人はハァとため息を吐く。
「謝るな、小僧が悪い訳じゃないからな。ともかく大事なのはここなら誰にも邪魔さをされずに希少種を主の配下に加える事が出来るという事だ」
「な、なるほど」
確かにと与人はリントの提案に納得していた。
これから何が起こるか分からない以上戦力のアップは必須だろう。
そこまで考えてある疑問が与人の頭によぎった。
「リント? そういえば人間になった訳だけど元の体と比べてどうなの? ……その、戦力的に」
「最もな質問だな。 そうだな……」
そういうとリントは腕を組み手を顎に当て考え始める。
必然的に形のいい大きな胸が強調され思わず与人は顔を背ける。
「ん? どこを見ている?」
「い、いや別に? ずっと見てると考え事の邪魔かなって」
「? ……それならもうこっちを向いていいぞ」
それを聞いた与人が再びリントの向き直し会話が再開される。
「先に結論だけ言わせて貰えば今の私は弱体化している」
「……そう」
「全力が百とするなら今のままなら精々出せても四十といった所だろうな」
「半分以下じゃん。……元の姿には戻れないのか?」
「聞け、この先元の姿に戻れるかどうかも全力を出せるかどうかも主の成長に掛かっている」
「俺の?」
与人が聞き直すとリントは深く頷く。
「これは主の『スキル』を受けた時から得た断片的な情報とこの『ルーンベル』の常識から導き出した推論だが、私の全力が出せないのは主の『スキル』によるところが大きいだろう」
「……? それはつまり人間の姿になったから弱体化したんじゃなくて、『スキル』のせいで弱体化した。って事?」
「なんだその位の頭は回ったか」
「で? それが俺の成長とどう関係が?」
軽くバカにされた与人であるが受け流し話の続きを促す。
「そもそも人間の『スキル』というのは成長するものだ。例えば剣士の『スキル』を持ってたとするなら、剣を使えば使うほどその『スキル』は成長していき真の力を出す事が出来るようになる。……ここまで言えば何が言いたいか、分かるだろ?」
「つまり俺が『スキル』を使えば使うほど、この『ぎじんか』の『スキル』が成長して元の力が引き出せるようになるって事……でいいのか?」
「あくまで推論だ。主の『スキル』は今までに無いものだからな」
「けど推論通りならとにかく女の子にすればするだけ、仲間も増えて強くもなるって事だよな」
「まあそうなるな」
「……強くね?」
何時ぞや見たチートな主人公が活躍する漫画を思い出してしまう与人。
仲間を作れば作るほどその仲間が強くなるのだから確かに近しいものがあるだろう。
「まあそれで元の姿に戻れるかは不明だがな。人間の姿は窮屈だ、その上わざわざ服というものを着ているのだから余計に窮屈この上ない」
「な、慣れればいいものだよ。……多分」
そう人間化した際に服はサービスなのか着た状態であった。
だがその恰好は何故か現代的で上は袖なし縦セーターに下はダメージジーンズとどこぞのマニアが好みそうな服装であった。
その上セーターは翼を出すためか背中がガッツリ開いており殆ど服としての要素を失っていた。
「ともかく今は推論が当たっている事を祈る他ない。上手く行けば私が戦えば戦うほど『スキル』が成長するかもしれないしな」
「だったらますます強くね?」
与人が何もせずとも仲間が戦うだけで勝手に成長していく。
その可能性にそう言う与人であったが同時に別の事も考えていた。
(なんか主従って言うか……ただのヒモ野郎?)
一方的に戦ってもらった女の子から貢いでもらっているようなものなのであながち間違いではない考えを考えないよう封印し与人は頬を叩く。
「? どうした」
「いや、ちょっと嫌な考えを封印してた」
「……そう心配するな。さっきも言ったが一方的とはいえ契約は契約、しっかり守ってやるさ」
「あ、ありがとうリント。……あ」
まさか与人が自分がヒモかどうかで悩んでいるとは思わずリントはこれから先の事を悩んでいると思い己が主を元気づける。
本当の事など言える筈もなく礼を言う与人であるがそこで大事な事を思い出す。
「リ、リント。そういえばここに来る前にバカでかい狼に襲われてたんだけど」
「……寝ている時に少し喧しいと思ったらあの新入りのフェンリルめ」
「フェ、フェンリル……名前からして凶暴そうな」
そんな相手と追いかけっこしてたかと思うと与人は改めて身震いがしてくる。
だがリントはその様子を鼻で笑うとイライラを吐き捨てるように断言する。
「フン、所詮はただのデカい狼にすぎん。あいつ程度なら四十どころか十の力で十分だ」
「マジで!? 凄!?」
「フフン。改めて私に敬意を払えよ主」
自分を褒める与人に気を良くするリント。
突然の『スキル』による主従であるが相性は悪くないのかもしれない。
「まあ心配しなくても奴は気が短い。もう既に近くを離れているだろうさ」
「そ、そう? ならいいけど」
ウォォォォォォォン!!
「いるじゃん!? しかもめっちゃ近くに!?」
「いたな」
しばらくぶりに洞窟から外へ出て来た与人を待っていたようにフェンリルは近くの茂みに潜んでいた。
「主、そうとう奴を怒らせたみたいだが何かしたか?」
「じ、実はここに飛ばされた際に運悪く下に居たみたいで……」
「それでか、全く随分と器の小さい奴だ」
ヴォォォォォォォォォォォン!!!
人間の言葉が分かっているかどうか不明であるが、明らかに先ほどより激高した様子で二人に喰らいつかんと猛スピードで突撃するフェンリル。
「た、倒せるんだよなリント! ……リント?」
何時まで経っても返事が無く、与人が隣にいるはずのリントに視線を向けるがそこに彼女はいなかった。
「リントォォォォォォォォ!?」
思わず絶望的な表情をして大声で叫ぶ与人だがフェンリルは近くまで迫って来てる。
「あ、ダメだこりゃ。死んだ」
そう諦めてせめて青空を見ておこうと視線を上に向ける与人は、そこで徐々に大きくなる点を見つける。
その点は徐々にその姿を明確にしていった。
深紅の長い髪に鋭い爪と大きな翼。
そうその姿はどう見ても。
「! リント!?」
その声が届いたかどうかは不明であるがリントが一瞬自分の方を見て笑った気がした与人。
リントはその勢いのままフェンリルに急降下していく。
迫り来る音に気付いたのか又は獣としての本能かは判断がつかなかったが、フェンリルは上を見上げリントを発見する。
だがその様子を見ながらリントはこう言うのだった。
「遅い」
フェンリルは止まろうとするが間に合わず降下の勢いをプラスしたリントのパンチがフェンリルの頭部に直撃する。
悲鳴も上げる事も出来ずフェンリルはその場に倒れ込む。
ひどい土煙の中で土を払いながらリントは与人に近づき一言。
「言っただろ? 守ってやるって」
「ハハ、ハハハ……」
安心した為かそれともあまりの一撃に驚いたのか、どっちともつかない与人の笑いが静かな森にしばらく聞こえるのであった。
「で、どうしようかこの狼」
ようやく落ち着き与人は未だ気絶したままのフェンリルを指しリントに意見を伺うが返ってきたのは素っ気ないものであった。
「どうするかは主である小僧が決めろ。私はそれに従うだけだ」
「そうは言っても」
「二択だ悩むな。このまま仕留めるのか、それとも今のうちに『スキル』を使うのかだ」
「……分かった」
そう言うと与人は気絶したままのフェンリルに恐る恐る近づいていく。
そして恐怖に震える手でフェンリルの頭部に触れる。
するとやはり『スキル』が発動してフェンリルの体が発光していく。
そしてリントと同じようにその光は小さくなっていき人間サイズになってようやく収まる。
「ん、んん……」
そこにいたのは先ほどの狼と同じ銀色の耳と尻尾をつけた与人より小さい少女がいた。
リントが大学生ぐらいとするならこの子は中学生ぐらいだろうか。
銀のウルフヘアが活発さを醸し出していた。
「ん? 頭が痛い? ……というか何かこの森、いつの間にか大きくなった?」
「ではなくお前が縮んだのだフェンリル」
「!!」
しばらく頭を擦りながら辺りを見回していた少女であったがリントの存在に気付くと距離を取ろうとするが。
「あれ? 何で?」
人間の体に慣れていないためよろめき倒れかける少女だったが。
「危ない!」
とっさに与人が少女の手を取り倒れるのは回避される。
「だ、大丈夫?」
「あ、ありがとう?」
「何で疑問形なんだフェンリル」
リントに地球の知識があれば漫画かと突っ込むところであったろうが生憎この世界に漫画という文化は無かった。
「……フェンリル。はっきり言っておくがその男は私の主だ」
「!!」
「ちょっ! リント! 何もこのタイミングで!」
少女の鋭い視線を浴びながら非難する与人であったがリントはそれを無視する。
「つまり、私に敵対するという事はその男と敵対するという事だ。……どうする?」
「う、うう……」
問いかけに少女はリントと与人、二人の顔を見比べながら悩む。
少女が強く手を握っているため逃げられない与人は冷や汗を掻きながら、その答えを待つ。
「……赤いの嫌い。けど、ご主人いい奴って分かる。だから攻撃しない」
「と、言う事だ。主よかったな、また一人従者が増えたな」
「あ、ああ。けどリント、後でこの件は話し合おう」
そう与人が言ってる間にも少女は冷や汗で濡れた彼の服を嗅ぎまくっていた。
「ちょっ! 臭いから止めなさいリル!」
「全然気にならないよ。それよりリルって僕のこと?」
「う、うん。フェンリルからとってリル。……嫌だった?」
「そんなことない。これからよろしく、ご主人」
「だから匂い嗅ぐのは止めてくれ~!!」
「……狼というより犬だなアレは」
リントの呟きは笑みを浮かべつつ、主人である与人の匂いを確かめるリルには聞こえないのであった。
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