第2話 ドラッグマン


【ドラッグマン】



フィリピン人のカルロ ガルシアが留学生として日本にやって来たのは18才の時だ、母親にお前の父親は日本人だと聞かされていたカルロはアジアNo.1の日本に強い憧れを抱いていた…

フィリピンと言う貧しい国で育ったカルロは父親の母国日本に行けば自分の人生にも光があたると期待していた…

しかし世の中は甘くない仕事にも着けずに貧しい生活は変わらなかった。


ある日、希望を失ったカルロが留学先の日本語学校に登校すると校長がバイトの話を持ち掛けて来た。



「カルロは仕事しに日本に来たんじゃないのか?」


外国人のロングステイの合法化を目的にしている日本語学校は多数存在するが、カルロが通う日本語学校も例外ではない…まさに外国人犯罪の温床だ。


「つまらないバイトしてたけどクビになったよ…」


そのつまらなバイトはこの学校が斡旋した仕事だ…校長は前からカルロに目を付けていてわざと外人に当たりが強い会社を紹介して辞めるのを待っていた…自分の本業であるブラックマーケットで働かせたいからだ。


「…リスクがあるが実入りの良いバイトする気はないか、私がフォローするから心配は要らないぞ」


リスクと言う言葉に犯罪の匂いを感じて校長の様子を伺うカルロ…


「……」


「すでにこの学校でこの仕事をしてる奴は3人いる…どうだ」


警戒心を見せたカルロにみんなやってる仕事だからと安心させる校長。


「何の仕事ですか?」


校長は、警戒しながら尋ねるカルロに誤魔化さずストレートに答える。


「ドラッグの販売…儲かるぞ」


日本に稼ぎに来ている外国人達に〝儲かる〟と言うワードは刺さりやすい。


母国のフィリピンで犯罪まがいの仕事をそれなりにしていたカルロは、特に戸惑いも無く〝儲かる〟ならと仕事をする事にした。





カルロが日本語学校を隠れ蓑にドラッグマンと名乗る様になってから6年が過ぎた…今では完全に日本で暗躍する外国人犯罪者だ。薬に手を出してれば当然黒い付き合いも増えるし仕事は薬の売買だけではすまない…


6年でもう10人以上殺してる、最初の殺しはSを持ち込んで来た北朝鮮の売人だった…





カルロはフィリピンでも人を殺した事はなかった、だから校長に初めて人を殺せと言われた時はきっぱりと断った…


「なんだとぉ! …お前は、もうこっち側の人間なんだぞ…」


校長に人を殺すのが当たり前の人間の様に言われカルロが苛立つ…


「どっち側か知らないが殺し何て出来ない!」


「深く考えるな…薬の売人なんて殺されても仕方ない奴ばかりだ、相手は3人私1人じゃ厳しい…手を貸せ」


「嫌だ、断る!」


すると、校長が何処から出したのか拳銃をカルロの眉間に押し当てた!


「なっ、何の真似だ…」


「1度始めた事を途中で投げ出すな…それにな薬を売ってる時点でお前は殺人者と変わらない、ドラッグとはそう言う物だ…お前はもう、人の命を奪う側だ」


ドラッグで命を落とす者は少なくない、校長の言う言葉には重みがあった。



… ドラッグの売人はイコール人殺しでもある…なるほど自分の浅はかさに嫌気がさす…犯罪を犯しても殺人だけはしないと決めていたがもう遅いか …



カルロは身から出た錆びだと殺人を受け入れた。そもそも銃を突き付けられ殺れと言われたら殺ると答えるしか無い…断れば殺されるのが落ちだろう。



「分かったよ、銃をしまってくれ」


「…来週だぞ、逃げるなよ」


「逃げたら助かるのか?」


校長が両手を広げ誇大妄想に取りつかれたインチキ教祖のように答える。


「私の両手には世界が入る…当然お前もその背景も…」 


この背景とは、カルロだけじゃなく家族や恋人、友人までもと言う意味だ。


「逃げたら悲しい事が起こるぞ」



カルロは逃走も考えた…パスポートなどは校長に押さえられてるが今のカルロには金がある…

 偽造パスポートを手に入れれば何とかなるのではなど模索したが、そうゆう類いは全て校長を経由しているため直ぐにバレるだろう、かといって独自のルートは無い…

仮に上手くパスポートを手に入れても母国の家族を校長に知られている母親と妹や弟がどんな目にあうか分かったもんじゃない…

 カルロ ガルシアは日本で暗躍する犯罪者になると腹を括った。





横浜港 埠頭

午前0時


国籍不明の船を見つめる校長が車のトランクの中に入り銃を構え潜んでいるカルロに話掛ける。


「来たぞ、奴等は銃を持ってる…躊躇すれば死ぬのはお前だ」


「何度も練習した安心しろ」


カルロの言葉に蔑んだ笑みを浮かべる校長…

 今回の殺しはカルロを殺し屋にするための儀式だ、校長はカルロが銃撃にテンパって失敗する事を分かっていた。


「そうか、なら安心だ…」



北朝鮮の売人と校長が英語で話すのを聞きながらトランクが開く瞬間に神経を尖らせるカルロ…


「金を改めさせて貰う」


「どうぞ、いまトランクを開けます」


校長は運転席に入りトランクの鍵を開けた…その音に敏感に反応するカルロは緊張から全身で汗をかいていた。


トランクが開けられるとカルロは手にしてるリボルバーを乱射した!バイヤーは3人全員銃を持っている、一人がカルロに撃たれ倒れた。


カルロは冷静に狙って残りの二人を撃つつもりだったが恐怖で頭とは裏腹に体が反応して乱射する…

カルロの銃撃にバイヤーが応戦、銃を取りだしカルロに発砲する、腹に4発の銃弾を受けたが防弾ベストに助けられたカルロ…

しかし至近距離からの衝撃で気を失う…



10分ほどたって校長に起こされたカルロが目にしたものは二人のバイヤーの死体と足を撃たれ倒れたバイヤーだ。




校長がカルロにナイフを渡した。


「止めを刺せ…」


校長はわざと、銃ではなくナイフをカルロに渡した…人殺しの感触を実感させるためだ。


目覚めたカルロは現実を直視し震えだす…銃を乱射していた時は無我夢中で殺しの実感は無かった…


だがナイフで人を刺すとなればその感触は指先と言う人の触覚から脳へダイレクトに伝わるだろう…人を殺すという恐怖がカルロを襲う。


「どうした… 怖いのか?もうお前は一人殺してるんだぞ…」


朝鮮人のバイヤーが英語で命乞いをするがテンパるカルロの耳には届かない。


 目を血走らせ決意を口にするカルロ…


「…そうだよ、もう決めたんだ…見てろよ殺ってやるよ…」


精一杯強がるカルロ…体の震えは止まらないが強くナイフを握りしめバイヤーに近付く…





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