第13話 情熱

「私は子供の頃からこの村が大好きでした。大きくなったらこの村の冒険者ギルド職員になって、アシナ村を世界一のダンジョン村にしようと夢を持っていたんです。


でも、私が就職できる歳になる頃には、もうダンジョンは閉鎖していて、街は年々寂れていくし、止めようがないし……。


そもそも冒険者ギルド自体が解体されて、その機能を村役場が担うようになっていたので、役場員としてここで働くことになったんです」


 フレアは、自らの経歴を語る。ガーレットは興味がなさそうにその話に相槌をうつ。


 ガーレットは歩き疲れていたので、寂れた飲食店街でいまだ経営を続けている貴重な喫茶店へ、話をする場所を移してもらった。


 フレアはそこで、熱量をもって自分の思いを語り始めたのだった。


「私は役場員になってから、村長に訴え続けていました。この村にかつての輝きを取り戻したい、私に指揮を取らせてくれと。

説得には時間がかかりましたが、ついに私にも一定の決定権が与えられるようになりました。

今の私の肩書きは、アシナ村おこし委員会の委員長なのです」


 ガーレットは顔を顰めていた。フレアの話へではない、紅茶があまり美味しくなかったのだ。飲食店だというのに、村役場で飲んだもののほうがよっぽど美味しかった。


 のちにガーレットは知ったのだが、アシナ村の立地は、物流アクセスとしてかなりいい場所に位置している。しかし、商品の買い手が少ないため、商人が立ち寄らず、あまり質のいいものが村に流通しないのだという事情があるのだった。


 人がいるから、客がいるから、いいものも届く。


 単純な真理であるのだが、都市部近くで不自由ないお屋敷暮らしいをしていたガーレットには、肌感覚として理解できないことであった。


「で、どう思いますか!?」


 ガーレットが紅茶の味に思いを馳せていたところを、フレアはテーブルに身を乗り出して、意見を求めて来た。


「……コホン、えーと失礼、つまりまとめるとどういうことかしら」


 ガーレットは話を聞いていなかったことを悟られないように、咳払いをして、話の要約を求めた。


「つまり、私の希望としては、この村を栄えさせるために、再びマイル商会を誘致したいのです!」


 キラキラと目を輝かせるフレア。自らが思い描く都市計画に夢を膨らませているようだった。


「たとえば雑貨屋さんや鮮魚店、八百屋や肉屋などいい品を取り揃えた商店を村中に並べるんです!魅力的な商店が並ぶと村の外からもそれ目当てにたくさんの人が来るはずです」


 ガーレットはずっと手に持っていた紅茶を、皿の上に戻して冷たく言い放った。

 

「無理では?」


 ピシャリ。あまりの思い切りのいい返答に、思わずフレアは椅子から立ちあがる。


「ちょ、やってみなきゃわからないでしょう!……あっ、すみません御貴族様に……つい熱くなって」


 店員にも何事かと視線を飛ばされてしまい、我にかえってバツが悪そうにするフレア。ガーレットは、穏やかに嗜める。


「熱を持つことは素晴らしいですわ。ですが、そう簡単に行くでしょうか。一度撤退した商会にまた声をかけて振りむいてもらうなど……」


「難しいことはわかっています!でも、やらなきゃ……やれる立場になれたんだから、行動しなきゃ後悔するから……っ」


「…………」


 フレアは必死だった。拳を握って身振り手振りで訴えてくる。


 そんな姿を見せられると、先ほどまで気だるげだったガーレットも、少し心が動いてしまう。


 ガーレットは、自分とほとんど歳が変わらない女性が、こんなに情熱を持ってなにかに取り組んでいる姿を初めてみたのだった。


「だから、その、不躾なお願いなんですけどガーレットさんのお声がけでどうにかマイル商会さんに話をつけられないかと……!」


「そう、ですわね……」


 普段は物静かなガーレットも、少しだけ、ほんの少しだか感化されて、動いてみようかというやる気が芽生えてしまった。


「ど、どうでしょうか……!」


 ガーレットは頷いた。


「たしかにやってみなければわからないですわね、では掛け合ってみるとしましょうか。マイル商会さんに。おそらくウチにもコネくらいあるでしょう。お父様に聞いてみますわ」


「やった!ありがとうございます!ガーレットさん!」


 フレアは、ガーレットの手を固く握りしめた。


 これには、ガーレットも悪い気はしなかった。

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