アシナ村 - 1

第11話 アシナ村の現在

「いやぁはるばると、よくやって来てくれました、ガーレット様」


 村役場に出向いたガーレットは、手厚く歓迎された。座らされた卓のうえには、上等な茶葉の紅茶と、大量の茶菓子が並べられた。


「いえいえお構いなく」


 と、ガーレットは口では言ってるものの、お茶会が好きなので、心が躍っていた。


 ジャムの乗ったクッキーを齧りながら、現在アシナ村の置かれた状況について、村長の男から話を聞く。


 村長は比較的若く、聞けば40代前半だった。


「ご存知の通り、アシナ村は冒険者の村として有名でした。全国からダンジョンに挑む冒険者たちが集まり、宿屋は満員、酒場は繁盛、それに伴いその他様々な商店が軒を連ねました」


「はい、お噂は聞いたことがありますわ。周辺の村の中では一番なほど、それはもう大変栄えていたと」


「ですが……」


 村長は目を伏せる。現在のアシナ村にはもうその頃の賑わいはない。


 馬車を降りたとき、ガーレットたちが目にしたのは、かつて栄華を誇ったとは思えぬほどに寂れた街並みであった。


 5軒連続で閉店している繁華街、やってるのかやってないのかわからない商店、外壁の剥がれ落ちた宿屋……。


 ガーレットは冷めた紅茶をすする。

 

「魔石を取り尽くした、ということですわね」


「……はい」


 アシナ村は、厳しい現実に直面した。


 ダンジョン内には「魔物」が発生している。彼らは、空気中に漂う魔素が集まり、突然変化して生まれる異形の怪物である。


 魔物は倒すと、魔石や素材をドロップする。冒険者たちはこれを求めて、ダンジョンに潜るのだ。


 魔石には大きなエネルギーが内包されており、さまざまな燃料として使える。多くの分野で魔石を欲する人々がいるため、採取した魔石をギルドに引き渡せば、多額の報酬が与えられるのだ。


 しかし、ダンジョン内から魔素が枯渇すれば、魔物は出なくなる。


 魔物がでなくなれば、冒険者はダンジョンに潜る理由がなくなる。


 ダンジョンに潜る理由がなくなれば……アシナ村に人が集まる理由はなくなる。

 

 村長は神妙な面持ちで語る。


「ダンジョンから魔石が枯渇したと判明したのは8年前です。魔物の出現率減少の報告はそれ以前からギルドより受けていましたが、魔石は自然の鉱物であり、人間が手を打つことはできません。ジワジワと魔物は減っていき、冒険者は去っていき、冒険者を相手に商売していた村民たちも仕事を失っていきました」


「そうですか……それで、私はみなさんのためになにをすればよいのでしょうか」


 ガーレットは、沈んだ顔の村長に同情することなく、淡々と自分の役割について尋ねた。


 自身の家が治める領地内の村とはいえ、これまで訪れたことがないのだ。これから携わるとはいえ、ガーレットにとってはいまだ他人事の感覚だったのだ。


「はい、それに付きましてはこちらで担当のものを用意しておりますので、続きは其の者からお聞きください」


 村長は村役場のカウンターのほうへ声をかけた。


「フレアさん、ここからはガーレットさんのこと任せたよ」


 するとデスクに座っていたひとりの若者が立ち上がった。


「はい、任せてください」


 赤い短髪で、背の「低い」女性。呼びかけられたフレアは、ガーレットの前へやってきて握手を求めた。


「アシナ村役場ギルド総合課、フレアです。よろしくお願いします」


 フレアはニッコリと笑って手を差し伸ばしていた。


「よろしくお願いします、私ガーレットですわ……っ」


 応じた握手の力が、思ったより力強く、ガーレットは少し驚いてしまった。


 フレアの顔を直視すると、その瞳には燃えるような炎が宿っていた。

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