第5話 帰宅

 バッタル村は農村であり、とくに果物の生産が盛んであった。


 多くの果樹園で育てられているのは、丸くピンク色の甘い果物「チーピ」。


 リーファの家が管理している畑ではこの果物を育ててはいないが、今回家を空けてる間、畑を見守ってもらっていた隣人は、まさにそのチーピの生産で生計を立てていた。


「ただいま戻りました。ありがとうございます、畑」


 馬車から降りた父親は、さっそく隣人宅を訪ねる。リーファは父親と手を繋いでついていった。

 

 家の奥から顔を出した老人は、ニッコリと優しい笑みを浮かべた。


「ええよぉ。お祭り楽しかったかい、リーファちゃん」


 リーファは、恥ずかしそうにコクンと頷いた。


「そうかい、そうかいよかったねぇ」


「これお土産です」


 父親が祭りの土産品を老人に渡して、いくらか会話をしたあと、ようやくリーファは自宅のなかへ戻って来れた。


「疲れたぁ」


 リーファは固く強張った背中をうんと伸ばした。見慣れたお家のなかは、とても心が落ちついた。


 旅行は素晴らしいものだが、帰ってくるとこうした自宅のよさも強く再確認できるのだった。


「汗をかいて汚れてるだろう、水浴びしてきなさい」


「んー……」


 父親に声をかけられ、リーファはしばらく唸ったあとに、なんとか立ち上がった。


 アシナ村を早朝に出発して、気づけばもう夕方である。顔をオレンジ色に染めながら外へ出る。


 井戸からくんだ冷たい水を浴びて、スッキリしたリーファは、そのまま少し歩いて、村を一望できる丘の上に立った。


 畑の広がる田舎の村。ここが自分がいまいる場所なのだとあらためて認識した。


 もうすぐ日が沈むが、夕焼けに照らされた村の光景は、アシナ村とは似ても似つかないものであった。

 

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