第3話 将来の夢

 広場の中央では、ドレスを着た踊り子が、音楽に合わせて華麗に舞っている。


「いいぞー!」「よっ!べっぴんさん!」


 それを囲むギャラリーたちは、酒を掲げて盛り上がっていた。


 そんな喧騒から一歩離れた木の下に、フレアとリーファは座り込んでいた。


 夕方歩き疲れたので、地べたでももう腰を下ろしたかったのである。


 フレアは、遠目から冒険者たちのテーブルを眺めながら言った。


「かっこいいだろ、冒険者は。みんな村のはずれにある洞窟で、魔物と戦って魔石や素材を採取して生活してるんだ」


「あの人たちこわい魔物と戦ってるんだ…すごいね」


 リーファも感心して、冒険者たちを見る。いまは飲んだくれてる男どもだが、普段は命をかけて金を稼ぐサバイバーたちなのである。


「ああ、私の憧れの存在だよ」


「もしかして……フレアも大きくなったら冒険者になるの?」


 リーファの問いに、フレアは鼻を擦る。


「いや、私はどっちかと言うと……冒険者ギルドの職員になりてーかな。私はこの村が好きだから、この村を支える仕事をしたいんだ。それでこのアシナ村をいまよりずーっと盛り上げてやるんだよ!」


「そっか!きっとなれるよ!」


 リーファはホッとして、フレアの夢を肯定した。もし冒険者になりたいと言われてたら、リーファは止めるつもりだった。フレアに命を落としかねない職業についてほしくなかったのだ。


 フレアは恥ずかしそうに、身じろぎをして、木の根っこによりかかる。


「リーファは?リーファは将来何になりたいんだ?」


 フレアの問いに、リーファはうーん、と唸る。考えたこともなかったのだ。


「私は……バッタル村で、おとうさんといっしょに農業できたらいいかなぁ。いっぱいお野菜作って、フレアにも食べさせてあげるよ!」


「へぇ、それは楽しみだな」


 フレアは優しそうに、深く頷く。しかし、内心リーファが特別な夢を抱えていないことにがっかりもしていた。


 他にも、ふたりは好きな食べ物の話、最近あった面白いことなど多くのことを語り合った。


 時間はあっという間に過ぎていき、リーファは父親に呼ばれる。


「そろそろ帰るぞ。宿はいっぱいだから兄貴の家に泊めてもらえることになった」


 冒険者の村なので、宿屋は多くあるが、今夜は他にも観光客がたくさん集まっていたのでもう部屋の空きはなくなっていた。


「えっ!ほんと!?フレアとお泊まり会だ!」


 リーファはフレアの家に泊まれることを喜んだ。


「寝るまで一緒に話せるな!」


 フレアとリーファは手を繋いで、祭りの会場をあとにした。


 10歳のふたりにとって、この祭りは大切な思い出となった。

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