第36話 決着

 僕の才能【make progress】はどういう意味なのかは分からないけど、ルーンを成長させる力を持つ。


 それにはレベルが存在していて、ルーンを成長させていくと【make progress】のレベルも上昇していった。そして、今回のダンジョンに潜った時点で、僕の【make progress】のレベルは4から5に上がったのだ。


 そこで手に入った新しいスキル【進化エボリューション】。


 本来なら【しんか】と読むはずなのに、どうしてこういう読みになるのかは僕にも分からない。けれど、天の声は【エボリューション】と呼んでいた。


 まあ、呼び名は問題ではない。


 いままでの進化はルーンを成長させるものだったのに対して、今回手に入れた【進化】はルーンというよりは、僕自身に対するスキルだった。ただし、僕自身が装着しているルーンに関わるものだが。




 【進化】を発動させると僕の全身に真っ赤なオーラが立ち上る。


 内側からとんでもない力を感じる。


 このスキルの力とは――――僕はこれから六十分間、装着した全てのルーンのレベルが最大値になった上で、限界を超える。


 ルーンのレベルは10が最大値だ。それ以上は上がらない。


 しかし、このスキルを使っている時だけ、全てのルーンが強制的にレベル11・・・・・になる。



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 名 前:アレン・ティグレンス

 才 能:make progressLv.MAX

 レベル:85


 状 態:〖進化〗

     〖ブレッシングLv.11〗


【能力値】

 体 力HP:C  魔 素MP:C+

 筋 力:D   耐 久:S

 速 度:C   器 用:D

 魔 力:S+  知 力:A

 耐 性:B   運  :B


【ルーン】

・フレイムバレットのルーンLv.11

・アースランスのルーンLv.11

・ブレッシングのルーンLv.11

★小経験値獲得のルーンLv.11

★回避のルーンLv.11

★探知のルーンLv.11

★聞き耳のルーンLv.11

★魔素自然回復のルーンLv.11

★エレメンタラーのルーンLv.11


【魔法】

〖フレイムバレット〗〖アースランス〗

〖ブレッシング〗〖エレメンタラー〗


【スキル】

〖探知〗〖聞き耳〗


【マスタリー】

〖小経験値獲得〗〖回避〗〖魔素自然回復〗


【ルーン倉庫】

・ワープのルーンLv.9

・投擲のルーンLv.1

・瞑想のルーンLv.6

・忍び足のルーンLv.6

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 【進化】状態の僕のステータスはこのようになる。


「な、なんだそれは!?」


 間抜けな顔のアンガルスが声を荒げる。


「お前が僕をダンジョンに落とした。そこで得た光だよ。この力で――――お前を討つ!」


「く、クソがっ!」


 慌てたアンガルスが僕に大剣を振り下ろす。


 その瞬間、アンガルスよりも先に黒い気配が僕を斬るのが見えた・・・


 ルーンがレベル11となった場合、10と違って特殊効果をもたらす。


 いま発動しているのは、〖回避〗だ。


 回避が限界を超えると少し先の未来が見える。僕を斬りつける影は一歩先の未来だ。


 その後ろで凄まじい形相で僕に剣を振るうアンガルスの攻撃を避ける。


 僕よりも早い彼の攻撃も来る場所が分かれば、紙一重・・・で避けることができる。


 避けた直後に手を伸ばして〖アースランス〗を発動する。魔法ももちろん限界突破による強化によって凄まじく強くなっている。まず目を光らせるのは発動までの時間。〖アースランス〗は元々生成されるまで少し時間がかかるのに、レベル11となると一瞬で生成される。


 僕が手を伸ばせば届く距離にいるアンガルスの前に鋭い岩の槍が現れる。もちろん、すぐに発射する。


 〖アースランス〗は威力も高いが、他の魔法とは違い、貫く属性を持っている。大きな岩の槍がアンガルスの脇腹を掠りながら放たれた。


「ぐああああああ!」


 痛みに顔を歪めたアンガルスが後ずさり、脇腹を抱えて尻もちをついた。


「今まで【絶望の銀狼団】から俺みたいな見習いが帰ってこなくなることがあった」


「ひい!?」


 両手に〖アースランス〗を作り、彼の足と肩を掠らせる。それだけでも彼はもう動けなくさせるには十分だ。


 痛みで叫び声をあげるアンガルスに僕は今までの疑問をぶつける。


「彼らは弱かった・・・・から狩りの途中で死んだと聞かされていた。でもお前にやられてやっと分かった。今まで…………何人もの新人をああやって殺したのはお前だろ!」


 次は掠らせるのではなく、足を直接撃つ。


「痛えええええええ!!」


 また二つの〖アースランス〗を作って近づいて行く。


「僕みたいに新人を何人もダンジョンの魔物に殺させたんだろ!」


 僕が声を荒げると同時に、後ろから矢が一本飛んできた。


 限界突破〖回避〗が発動したおかげで、難なく避けることができた。


「な、なっ!? それを避けただと!?」


 そこには、茂みに隠れてこちらにクロスボウを持って顔が青くなった――――ヘリスがいた。あの日まで……彼女のことは親切で唯一の救いでもあったはずなのに、それも全て演技だった。


「ば、化け物!」


 彼女は甲高い声を響かせてその場から逃げ始めた。


「ヘリス!? どこに行くんだああああ! 俺を助けろおおおおお!」


「残念だったね。彼女にも見捨てられて…………これがお前がやってきた罪だ」


 僕は精霊達を呼びよせる。


 クロエのような中級精霊ではない下級精霊。でもレベルが11となると中級精霊よりも遥かに大きい体を持ち、姿は下級精霊でも凄まじい強さの気配を感じる。


「みんな。彼女が【絶望の銀狼団】に逃げるはず。そこを制圧しておいて」


 僕の指示で四体の精霊が目にも止まらぬ速さで空に飛んでいった。


「さあ、振り出しに戻ったが、そろそろ新人達の事をちゃんと言ってくれるか?」


「ふ、ふざけるなああああ!」


 さすがは上位冒険者。落としていた大剣を左手で拾い上げて、僕に向かって突き上げてきた。それをも〖回避〗を使ってギリギリ避ける。


「何故当たらない! そんなはずがない! 俺の方が強いはずだああああ!」


「ああ。今でも僕よりお前の方が強い。それは認めるよ。でも――――僕が強くなくても僕の仲間達ルーンが僕を味方してくれる」


 右手を伸ばして、〖フレイムバレット〗を放つ。僕が一番愛用していた僕を最も助けてくれた魔法〖フレイムバレット〗は、さらに巨大化し、中級魔法〖フレイム〗をも超えてより大きく放たれる。


 凄まじい弾速でアンガルスの左手を飲み込むと、アンガルスが痛みで叫んだ。


「ずっとお前達を信じていたのに、お前達は俺達をただのおもちゃとしか思わなかった。だから簡単に僕達を陥れる。その報いを受けろ!」


「や、やめろおおおおおお!」


 僕はアンガルスの顔に向かって〖フレイムバレット〗を放った。


 〖フレイムバレット〗が壁に激突して爆炎をあげる。その脇に涙を流しながら気を失ったアンガルスの顔があった。


 程なくして、屋敷に大勢の兵士がやってきた。セリナさんが通報してくれたようで、迷宮都市の兵士が次々中に入っていく。


 ゲルサス子爵ももちろん捕まることとなった。




 それから二日が経過した。


 ゲルサス子爵が裏で【絶望の銀狼団】を利用してあくどいことをしていたことがバレた。


 自分達の敵をダンジョンでこっそり始末したり、禁忌である【魔物寄せの香】を使っていたことまで発覚。子爵も団も両方とも罰せられることになった。


 本来なら今まで失った命を代償にアンガルスも同じことに遭うべきかなとも思った。でも、簡単に死んでもらうよりは、死ぬまでやったことを反省しながら劣悪な環境で強制労働にさせた方がよりみんなのためになると判断した。


 団長もヘリナもその他団員達も、子爵に関わっていた全ての人が捕まることとなり、世界で一番の地獄と称される【デスヘル獄】に入ることが決まった。

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