第34話 待伏せ

《【フレイムバレットのルーン】が成長しました。》


 ダンジョンから外に出るその日にフレイムバレットのルーンが最後の成長を果たした。フレイムバレットのレベルが9から10になった。


「アレンくん? どうかしたの?」


「えっと、フレイムバレットが最後のレベルが上がって」


「見たい~!」


 アリスが目を輝かせて距離を縮めてきた。後ろからクロエも一緒に覗き込んだ。


 丁度六層でデザスコーピオンが現れたので、早速レベル10になったフレイムバレットを放つ。


「うわっ!?」


 ルーンのレベルが上がれば威力も上がり、大きさも上がり、弾速も上がり、連射力も上がった上に、消費魔素まで下がって至れり尽くせりだった。


 レベル10となったフレイムバレットはフレイムバレットとはとても呼べないサイズに変わってしまった。


「それってバレットの上位魔法のフレイムだよね……?」


 アリスの疑問に「ううん……」と首を横に振って答えた。


 デザスコーピオンがこちらに向かって猛烈に走ってくる。二度目のフレイムバレットを――――今度は連射で撃つ。


 今までの連射力を遥かに上回るので、二発ずつ撃っているように錯覚すら覚える程だ。


 威力も上昇したからか、デザスコーピオンが一瞬で沈んだ。


「フレイムみたいなフレイムバレット……一人で撃っているとは思えないくらいの連射力も凄いし、やっぱりアレンくんって凄いんだね」


 アリスに褒められるとこそばゆい気持ちになるけど、誰かに褒められるってやっぱり嬉しいものだ。


 そして僕達はそこから歩いて一層まで向かい、ダンジョンを出て迷宮都市に向かった。




 ◆




「おいおい。待ってもらおうか」


 ダンジョンを出てすぐに僕達を塞ぐ人達。


 いつの間にかダンジョンの中からも数人が出て来て僕達を囲んだ。


「何の用でしょう?」


「お前ら。レグルス商会の者だな?」


「…………」


「くっくっ。沈黙は同意の表示だぞ! かかれ!」


 問答無用ってことか。


 僕達を囲っていた二十人の男達が一斉に武器を向けて襲い掛かって来た。


 事前に・・・相談していた通り、精霊達を放ってダンジョン側から現れた後方に全力で走り込む。


「逃がすな!」


 ダンジョンの中から現れた男達は四人。人数は僕達が少ないが、精霊達がいれば相手にならない。一瞬のうちに四人の男を制圧した。


 そのままダンジョンの中に逃げる――――と見せて、こちらに向かってくる男達に体勢を向ける。


「アースランス!」


 僕の魔法とクロエの弓攻撃が始まり、こちらに向かってくる男達を撃ち落とす。


 圧倒的だと思っていた戦況が逆転したからか、男達の足が竦み始めた。誰だって自分が死にたいとは思わないはずだ。


「このまま放置しておくと全員出血多量で死んでしまいますよ? 連れて戻ったらどうです?」


「ふざけるな! 全員やれ!」


 リーダー格の男が声を荒げるが、周りの男達は一向に動こうとしない。


「それなら貴方が来てはどうです?」


「はあ……? クソガキが……舐めた真似をしやがって!」


 彼は腰に掛けていた剣を取り出す。周りの有象無象とは違い、圧倒的な強者のオーラを放つ。


「僕がいく」


「気を付けてね」


「ああ」


 正直に言えば、今でも逃げたい気持ちが多少なりともある。でも、僕もダンジョンで随分と鍛えた。信頼できる仲間ができた。たくさんの時間をこの日のために過ごして来たといっても過言ではない。


 息を呑んで、強烈なオーラを放つ男に向かって走り出す。


 最初に繰り出すのは四体の精霊達。下級精霊だけど、レベルによっては普通の下級精霊よりもずっと強い。


「このクソガキが!」


 男が手に持っていた剣を素早く斬りつけて精霊達を追い払う。剣に薄い光がまとっている。剣の系列のスキル〖剣気〗だ。


 しかし、精霊達がギリギリの剣戟の軌道を避けて魔法を叩き込む。


「ちいっ!」


 精霊に気を取られて距離を取った男の足下を目掛けてフレイムバレットを放つ。


「な、なんだと!?」


 着地に合わせた魔法により、男がその場に倒れ込む。


 尻もちをついた男は剣に魔力を込めて、座ったまま剣を振り回す。


 形となった剣戟が放たれる。それだけで男が普通の人よりも何倍も強いことが分かる。剣士系列の最高位である【剣聖】でも衝撃波をあれだけ連続して放つことは難しい。それに普段から大勢の仲間と行動しているからより強くなりやすかったと思う。


 これで……今まで多くの人を傷つけてきたんだろう。


 禍々しいまでのどす黒いオーラを放つ男が僕を睨みつける。


「許せねぇ……許さねぇぞおおお!」


 そう叫んだ男は懐から瓶を一つ取り出して飲み始めた。


 飲んでる最中ですら体から得体の知れないオーラが周囲に放たれて、禍々しい気配を増やしていく。


 飲み干した瓶を投げつけた男は、壊れた人形のように首と肩をだらっと下げる。


「アレンくん。あの液体やばいかも」


「うん。普通じゃないね」


 急に頭を上げた男の目が真っ赤で涎を垂らしていた。


「シねええええええ!」


 男がこちらに向かって全力で走ってくる。


 迎撃のために精霊達が魔法を放つが、全ての魔法が体にぶつかるとその場から粒子となって消えていく。


「魔法無効化!?」


「っ!」


 フレイムバレットを放つ。男の体に直撃したフレイムバレットは大きな音を響かせて男を大きく吹き飛ばした。


 どうやらあの禍々しいオーラで一定の火力以下の魔法は無効化するのかもしれない。


 アリスが走り出し、僕とクロエが援護をする。


 倒れ込んだ男にフレイムバレットと矢が刺さり、最後にアリスの剣戟によって男はその場で気絶して戦いが幕を下ろした。


 少ししてセリナさんが呼んできた警備隊によって彼らは全員拘束されることになった。

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