第25話 検証

「おはよう~」


 ちょうどアリスと同じタイミングで起き上がってお互いに朝の挨拶を送り合う。


 数日経過しているとはいえ、中々慣れない。しかもこんな美少女が僕なんかに挨拶をしてくれるなんて。なんてことを考えていると彼女に考えていたことがバレたように溜息を吐かれてしまった。


「アリス。今日はちょっと試したいことがあるんだけどいいかな?」


「うん? いいよ?」


 彼女に試したいことを話すと、難しそうな表情を浮かべた。どうにも理解してもらえないようだ。


 ひとまず、五層に移動して狩りを行う。


 彼女との連携を意識しながら戦うと、今まで一人で戦っていた時よりも、ずっと戦いやすくなってきた。これがパーティーなんだと嬉しく思う。


 ある程度狩りを行うと、今度は二層に移動してロックゴーレムを探す。


 最近ロックゴーレムに中々ありつけない。というのもロックゴーレムが落とす魔石は高額で取引されるから毎日二層でロックゴーレムを狙っているパーティーも多かったりする。


 そういえば、〖探知〗のレベルが7になって訪れるのは初めてだ。〖探知〗のレベルが6から7に上がって増えたのは、範囲がより広がったことだけだと思っていたけど、その時、またもう一つの効果が感じられた。


「ッ!? アリス! こっちだ!」


「えっ!?」


 すぐにある方向に向かって走る。アリスも慌てて僕についてきてくれる。


 道をどんどん進んで行くと、探知による地図にひときわ大きな赤い点が見つかった。


 そこまで最短ルートで通っていくと――――目当てだったロックゴーレムが見えた。


「アリス! このまま戦うよ!」


「了解!」


 僕よりも速度のステータスが高いアリスは真っすぐロックゴーレムに向かって飛び掛かる。


 僕もそれを援護するために〖アースランス〗を繰り出して、ゴーレムの足下を崩す。


「――――スキル〖岩切〗発動!」


 彼女の剣に黒いオーラが纏い、ロックゴーレムの硬い岩を綺麗に一刀両断する。


 剣のような物理攻撃に強いはずのロックゴーレムすら簡単に斬り捨てる。


 そこに僕の〖アースランス〗を追撃で畳み込むと、ロックゴーレムがあっという間にその場に崩れ去った。


「魔石が!」


 現れた魔石を嬉しそうに指さすアリス。


「魔石って中々ドロップしないのに、今日は運がいいかも~」


 アリスの言葉に違和感を感じながら魔石を回収して一度奈落に帰還した。




「アリス。ちょっと聞いてもいい?」


「うん?」


「ロックゴーレムの魔石って珍しいのか?」


「凄く珍しいよ。そもそも見つけられる数も少ないし、見つかっても魔石がドロップするのは百体に一体と言われているからね」


「!?」


 ここまで僕が倒したロックゴーレムは全てが魔石を落としている。これで五つ目だけど、たまたま偶然か?


 その時、アリスのステータスを思い出した。


 僕がダンジョン内で狩りを行う時に一番気にしているのは、【運】というステータスだ。これが上昇すればドロップ率が上がり、魔石の欠片からドロップ品も落ちやすい。


「もう一つ聞きたいんだけど、さっきいつもよりドロップ品が落ちてるって言ってたよね?」


「そうね。アレンくんが掛けてくれた〖ブレッシング〗のおかげだと思う」


「なるほど……アリスってレベルが高いのに運のステータスがずっと【F-】の理由を聞いても?」


「ん~運のステータスは、戦闘系の才能は殆ど上がらないよ。どれだけレベルを上げて強くなっても運が上がることはないかな。それに運を上昇させられる方法は限られているからね。そういう装備品はとても高価なんだ」


 そういうことか……だから運が低くて、いつもよりもドロップ品が上昇したと言っていたんだな。


 それから暫く休憩をして、また狩りを続けて、また休息に入ってを繰り返した。


 一日の狩りを終えて、予定時間通りセリナさんのところに向かい、今日の分の清算を行ってココアーデを頂いてから奈落に戻った。



《【自然治癒のルーン】が成長しました。》



「やっと上昇した」


「!?」


 すぐに【自然治癒のルーン】のレベルが2になったことを確認して、アリスに引き渡した。


 今日検証したかったのは、ルーンについてだ。


 以前アリスが言っていた言葉が気になった。スキルとしてもっていないルーンを複数装着すると効果が上昇するという言葉。


 それって要はレベルが上昇している気がする。本来ならレベル1なはずのルーン。それを三つ装着することでレベルが3の強さになると考えるのが自然だ。


 となると、次に検証したいのは、どうして才能から得たスキルは上昇しないのか。という点だ。


 そこで一つ仮説を立てた。それを今から証明しようと思う。


「どう?」


「凄い! ルーンの名前の右側に不思議な文字と数字が2って表記されているよ!」


「その文字はレベルと読むらしい。僕達が知っているレベルと同じ意味なんだ」


「そうなんだ!」


 アリサが興味津々に自分のステータス画面を見つめる。


「僕の見立てが正しければ、その状態で今までの〖自然治癒〗の効果よりも低く・・なるはずなんだ」


「わかった。ちょっと試してみるね」


 そう話した彼女は全力疾走して――――壁に体を思いっきりぶつけた。


「アリス!?」


「これで体力を減らして……」


 ま、まあ……魔物にわざと攻撃を喰らうよりはずっといいか。


「うん。アレンくんの言う通り、今までよりも自然回復が遅い・・わ」


「そっか。やっぱりそうなるんだね。ということは、ルーンを複数装着してレベルが3になるから効果が上昇するけど、レベルが2以上のものを装着した時にはそれのみが反映されて他のルーンを全て無視してしまう。となると才能で獲得したスキルはレベルが2なのかも知れないね」


「なるほど! だから複数装着しても効果が出なくなるんだ!」


「多分そうじゃないかな。よし、これなら色々これから試せそうだ」


「ふふっ。はいっ」


 そう言いながらアリスが僕に取り出したのは【自然治癒のルーン】三つである。


「とりあえず、レベル2のルーンは装着してもらって、他の二つは預かるよ」


「ううん。それはあげる」


「えっ!?」


「そもそももう私には必要なくなったというか。リーダーであるアレンくんの判断に任せるよ。その二つのルーンを売ってもいいし、戦力にしてくれてもいいし、好きに使ってほしい」


「う、売らないよ!」


 するとアリスは笑みを浮かべて首を横に振った。


「ううん。それでアレンくんが強くなってくれたら私も助かる。だからアレンくんのために使ってほしい」


「アリス…………うん。ありがとう。このルーンは有効活用させてください」


 彼女の意見を素直に受け取れるのも、彼女の優しさによるものだ。僕はこれからのとある方針を決意した。

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