第11話

 あれから何度かあの夢を見た。娘が生まれた日。

おそらく自身の血縁者で父方の人間である男が、あの男と対面することができる。


話をしましょう。

声が出た。大丈夫だ。


自分は続けた。

僕は、自分の父方の家が嫌いです。

娘も、息子も、妻も、近づかせない。

これからの子ぜんぶ。


 不思議と娘は井戸と蔵の夢を見なかった、が。代わりに霊感が備わり、学校で裸足の足音が今日もした、と妻と語り合う。妻も、そろそろ学校、体育館建て替えるもんね、などと応じる始末だ。


もうあの言葉をキーワードには使わない。


これから普通に。

一生懸命に。それぞれに時を重ねて生きていく。誰かが成長し、学び、誰かが子を生み、みんなで愛しながら育て、誰かが折れたら支え合う。見捨てる時もあるかもしれない。でも面倒を見てくれる施設を見つける。かならず、この社会で幸せになる。


 だから、

自分たちは残酷にも生き続ける。生きられなかった人の分まで。でも平身低頭なんてしない。

僕の家族は、自由だ!


 顔の黒い男は拷問の真っ最中だった。ひたすら誰かの怨嗟、後悔、自白。あるいは本当に無知で無邪気な清いだれかを。


いつも椅子には誰かいそうで誰もいない、でも確かにそこで苦しんでいる人がいる。


男が振り返る。

手にはペンチがあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る