第28話 1羽減っていた烏

 ホメ子さんたちと揃って下校している時、正門前に烏の群れが現れました。ホメ子さんはカラスくんと「からす」を連呼して楽しんでいるようです。ですが、私はそのカラス……いいえ、からすの中にただならぬ気配を感じていました。


 単なる烏の群れの中に1羽だけ、烏の姿をした悪霊が紛れ込んでいるのです。きっと誰の目にも普通の「烏」として映っているはずです。よくもこう堂々と姿を現せたものです。普通の烏だと思って警戒していないホメ子さんに憑りつくつもりなのかもしれません。


 私はショルダーバッグのファスナーを開いて、中でおふだを準備しました。あの烏の群れとのすれ違い様に除霊できるでしょうか。できれば人目につきたくはないのですが、非常事態の場合はそうもいっていられません。


 私たちは談笑を交わしながら、徐々に烏の群れに近づいていきます。私の除霊の力ならもう少しで射程に入る……。なんとかみんなに勘づかれないように速やかに除霊しなければ……。


 そんなことを考えていると、谷地田くんが奇妙なお面を落としました。あまりに奇抜なデザインに目を奪われてしまいました。しかし、私たちの注意が逸れるのを待っていたのか、悪霊の烏が動き出すのを感じました。


『いけません、ホメ子さんに憑りつくつもりかもしれません。こうなったら人に見られようとも除霊を……』


 私がそう思ってバッグから手を引き抜こうとしたときです。



「みんな! 見て下さい! あそこっ! U.F.Oですよ!」



 ホメ子さんの大きな声が響きました。そこに実際、U.F.Oがあったのかは定かではありませんが、この場にいるすべての人の視線はホメ子さんの指差す空の上へと向かっていました。


『これは……偶然? それともホメ子さんがつくりだした好機?』


 いずれにせよ、この機を逃すわけにはいきません。私はバッグの中で十分に除霊の力を充填したお札を悪霊の烏目掛けて放ちました。それは見事、霊を打ち抜き蒸発するように浄化されて消えました。



「見失いました……。さすが宇宙人さん。私たち地球人が真っ青の超高速移動です。私から金熊賞を差し上げたいです」


「ホメ子さん、それ映画の賞だからな?」


 結局、ホメ子さんはU.F.Oを見たのでしょうか。それとも、みんなの視線を烏から逸らすためにわざとあんなことを言ったのでしょうか。彼女の明るい笑顔からそれは読み取れませんでした。目の前にいた烏の群れが1羽減っていることに気付く人は誰もいません。


 ホメ子さん……。あの時の「大魔神」といい、今回のU.F.Oといい……あなたは悪霊の存在に、そしてそれを払うためにいる私の存在に気付いているのですか? それともすべて偶然なのですか?

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