終章 ホメ子さんはお見通し!?

第41話 もうひとつの真実

 夏休みの前日、ここは校舎4階の隅にある小さな教室。


 以前は、漫画アニメ研究部の部室だったそうだが、3年生しか部員がおらず、今年の2月に廃部になったらしい。そこを、今年1年生のみで立ち上げた文芸同好会が使わせてもらっている。部員の人数の都合、まだ「部」ではない。


 運動部と違って文科系の……ましてや同好会なんかは、自主的になにか企画しなければ夏休みの活動なんてなにもない。


 オレは1学期最後のホームルームを終えると、他より一足先に部室に入ってエアコンのスイッチを入れて涼んでいた。汗がひいたところで、席に座り、鞄から一冊の……お手製の冊子を取り出した。約150ページあるこの冊子は1.5cm程度の厚みがあった。


 中身はすでに読み切っている。オレはパラパラとページを捲りながら気になるところだけを改めて読み直していた。すると、部室の扉が勢いよく開いた。


「カラス! 先に来ていたんですね! どうして声をかけてくれないんですか!? 教室でちょっと探したじゃないですか!」


「そんなに大きい声で言わなくても聞こえてるよ。別に1人で先に来たっていいだろ?」


 大声とともに部室へ入ってきたのは「誉川 芽衣子」、通称「ホメ子さん」だ。

 身長は低く、ボブカットの黒い髪が特徴だ。げっ歯類みたいな大きい黒目をしていて、彼女自身がまるで小動物のようでもある。


 ホメ子さんは俺の右横の席に座って、手に持っていた冊子を横から覗き込んできた。彼女の髪から甘くいい香りが流れてくる。


「私の小説どこまで読みました!? ぜひ感想を聞かせて下さい!」


 オレは彼女の頭の天辺を押して元の位置に戻した。


「もう全部読んだよ。5月からだっけ……書き始めたの? 2か月くらいでこの量書けるなんてさすがだな」


「量はどうだっていいんです! カラスの率直な感想を聞かせなさい!」


 ホメ子さんは、間近で大きい黒目を向けてオレの顔を見つめてくる。


「率直な感想か……、傷付いてもオレは責任とらんぞ?」


「カラスにやられるような豆腐メンタルは持ち合わせていません! カラスにやられるのはゴミ袋だけで十分です!」


 彼女はそう言って胸を張った。そこまで言うのならこちらも遠慮なく思ったままを言わせてもらおう。


「そうだな……。暗殺者に始まり、除霊師、異世界転移の勇者、異能力者……さすがにいろいろ詰め込みすぎじゃないのか?」


「詰め込みました! ですが、最後にきっちり伏線を回収したから『ヨシッ!』でしょう!?」


 回収? あれで回収したつもりなのか……?


 なんというか、広げた風呂敷を物が溢れるのもお構いなしでとりあえず包みました! って感じに思えたのだが?


 ホメ子さんは、工事現場の指差し確認のような動きで何度も「ヨシッ!」と言っている。


「それに登場人物の名前とあだ名をそのまんま自分とその友達にするか、普通? これ全部ここの部員の名前じゃないか?」


「それは大丈夫です! カラス以外にはちゃんと許可をとっていますから!」


「なんでオレだけ無許可がまかり通ってるんだよ?」


「いいじゃないですか! それにこの物語、一番重要な役どころはカラスなんですよ!?」


 彼女はまたも胸を張ってそう言った。そんなに張っても「ないもの」はないんだ、ホメ子さんよ。


「いやいや、この設定だとオレは単なる普通の人だろ? 重要な役には思えないけどな?」


「違いますよ、カラス。いいですか? この物語に登場する特殊な力は、ほとんど普通の人には観測できない設定になっているんです!」


「ああ、そんな感じで書かれてたな」


「それはつまりです! この現実世界でも同じようなことが起こってるかもしれないんですよ!?」



「……はっ?」

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