第19話 ホーリー・メイデン=ホメ子さん

 僕は「滝本 勇」として、こちらの世界の生活に順応し始めていた。「スマホ」と呼ばれる超技術の結晶を誰もが持ち歩いて生活していることには今だ驚きを隠せないが……。


 時は経ち、4月。私立皐ケ丘学園高等学校の入学式を迎えた。学校へ入る諸々の手続きは聖エグゼリアの関係者がやってくれたようだ。



『この学校の管理体制甘すぎませんかね? とか突っ込まないでくださいね』



 一瞬、校舎が言葉を発したような気がしたが、きっと勘違いだろう。それはさておき、入学早々に僕は懸念して最初の課題を突破した。

 ホーリー・メイデンこと「誉川芽衣子」様にどうやって近づくかが一番の課題と思っていたからだ。だが、偶然なのか、裏で力が働いているのか、誉川様とは同じクラスになった。


 そして、目が合っただけでなにかしらの話題を振ってくるほどの社交性をもつ彼女は、僕にも入学早々に話しかけてくれた。彼女と旧知の中と思われる男子生徒が「ホメ子さん」と呼んでいたので、僕もそれに倣ってそう呼ばせてもらっている。ホーリー・メイデンにも通ずるとてもよい呼び名だと思う。


 ホメ子さんは僕を「イサミん」と呼ぶようになった。「勇者様」や「イサール様」と呼ばれ続けていたので、堅苦しくない呼び名は逆に心地よかった。


 彼女と親しく話すようになると、旧知の中の「カラスくん」とも話すようになった。彼はホメ子さんほど感情豊かなタイプではないようだったが、こちらの世界で初めての同性の友達となった。


 高校生活が始まり数日したところでもう1つの課題が浮上した。「学業」である。こちらの世界に来てからそれなりに勉学にも励んでいたのだが、そのレベルの高さには改めて驚かされた。この世界の人の知識の探求心は凄まじいものがあるのだろう。


 元いた世界では文武両道で通っていた僕だが、こちらの授業についていけるかどうかが当面の課題になりそうだ。一方で、運動能力は僕の方が圧倒的に優っているようだった。周りとあまりに差をつけるのもよくないと思ったので、そこは適度に加減をしていこうと思う。


 この平和な世界でホーリー・メイデンに危険が及ぶとは到底思えなかった。僕はひょっとしたら単なる息抜きの異世界旅行をしているだけなのかもしれない。

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